メディアで仕事をする人にとって必要な能力のひとつ「編集力」。しかし、ビジネスの世界の意思決定はすべて適切な情報編集の先にあると考えると、広告・マーケティングの領域においても、表現力だけでなく情報の取捨選択・整理といった編集力が必要なのではないでしょうか。月刊『宣伝会議』では、出版業界の編集者の方はもちろん、広義の意味で編集力を生かしている方に、編集術に対する考えを連載として聞いています。今回は、集英社 取締役で『SPUR』の元編集長である内田秀美氏の「編集術」。※本記事は月刊『宣伝会議』7月号 に掲載されています。
集英社 取締役 兼 集英社アーツ&デジタル代表取締役
内田 秀美氏
創刊から24年間SPUR編集に携わり、6年間編集長を務める。T JAPANを編集長として立ち上げ、その後取締役に就任。2022年5月よりProject8(現・集英社アーツ&デジタル)代表取締役も兼任。
「A+B=C」の方程式で新しい価値を世の中に提案する
私が考える編集とは、「A+B=C」というように、何かと何かを掛け合わせて、新しい別の何かを生み出すこと。さらに異質なもの同士を掛け合わせることによって思いがけない化学反応を起こし、世の中に新たな価値を提案することです。
この自分なりの編集の定義にたどり着いたのは、仕事の領域が雑誌をつくるだけではなくなったときでした。
もちろん雑誌をつくっているときも、例えばカメラマンとスタイリストの掛け合わせ、いわゆるA+B=Cの方程式で新しい化学反応や価値を生み出している自覚はあったのですが、雑誌編集で行ってきたことが広くビジネスでも生かせると気づいたきっかけとなる出来事がありました。それは『SPUR』の広告企画として実施した、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』とラグジュアリーブランドの「GUCCI(グッチ)」のコラボレーションです。
異なる両者を掛け合わせることで実現したこの企画は、『SPUR』から集英社全体に。そして集英社から世界に拡がり、漫画の作者である荒木飛呂彦先生によるグッチのための描き下ろし作品が世界約80店舗のグッチのお店のウインドウを飾る企画にまで成長しました。
雑誌の編集で行ってきたことが、思いがけない企画を生み、ハイブランドと漫画の新しい可能性を提案できた事例だったと思っています。
「やれそうなこと」ではなく「やりたいこと」を考える
『宣伝会議』の読者であるマーケティング担当者や広告を制作するクリエイターの中には、まったく別のものを掛け合わせると言われても、企画の実現可能性が低くなってしまうのでは? と考える方もいらっしゃると思います。
先述のようなコラボであれば、コラボ相手との親和性を見つけてきて、どうにか「できそうな」企画をつくるのが得策だと思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、そうやって完成した企画は、世の中に新たな価値を提案する面白いものになったでしょうか。私は企画を考える時に、「やりたいこと」と「やれそうなこと」は別ものとして捉えるべきだと思っています。ここで大切になるのが「妄想力」。
想像力よりもはるかにスケールが大きいものを考えること。つまり、「やれそうなこと」ではなく「やりたいこと」を見つけてくる力です。
例えばプロジェクトを進めるとき、予算や何かしらの制約によって、悔しいですが当初の理想よりも小さな企画になってしまったという経験がある方も多いと思います。
ですが、もしその企画がそもそも「やれそうなこと」として考えたものだったらどうなっていたでしょう。もっとスケールの小さいものになっていたかもしれません。
新しい「面白い」を世の中に出すのであれば、誰にも実現できないと思われるような妄想企画を最初につくっておかなければならないのだと思います。
「らしさ」に縛られていると妄想力は生まれない
妄想力を生むことを妨げる要因のひとつに「○○らしさ」という固定観念があります。
これは、どういうことでしょうか。例えば雑誌で考えます。『SPUR』の創刊号が出た1989年と今は違います。求められているものも、読者の価値観も変わっています。そう考えると、創刊号と最新号はまったく違うものになるのは当たりまえです。
ですが、歴史を持つロングセラーブランドであればなおさら、「らしさ」を気にかけた企画を考えてしまいがちだと思います。
――続きは、月刊『宣伝会議』7月号 で読むことができます。
『宣伝会議』7月号(6月1日発売)
特集1
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広告・マーケティング部長アンケ―ト
〇顧客起点のマーケティング基盤を構築
組織横断のプロジェクト成功の背景とは
ポーラ 中村俊之
〇マーケットの状態に合わせた最適な組織編成
施策への投資判断を迅速かつ柔軟に
freee 三浦將太
〇コロナ禍でデジタルシフトしたBtoBの営業
マーケティング部門との連携の仕方は変わる?
アドビ 祖谷考克
〇事業拡大による“縦型組織”の弊害を回避
マーケティングから営業まで連動を強化
カオナビ 篠﨑順也
〇スタートアップ企業に聞く! マーケティング組織づくり
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