生成AI時代のデザイナーの価値 新体制たきコーポレーションどう動く――たきコーポレーション

AIによる広告制作が加速している。広告大手が続々とクリエイティブ制作支援などのAI活用を本格化させる中、ディレクターやデザイナーの立ち位置も変わってきたようだ。果たしてデザイナーは大量のバナーを生産する工場の“検品役”になってしまうのか。

「全くそんなことはない」と力を込めるのは、たきコーポレーション 執行役員の藤井賢二氏だ。「むしろ興味深いのは、企画案だけではなく、『クリエイティブディレクター(CD)の方についてプレゼンしてください』と、人としての総合力、プロジェクト全体を任せられる人材か、という点を判断されようとするクライアントが出てきていることです」と同氏は話す。

デザイナーも同様だ。いわゆる制作物の質の追求はもちろんだが、より重要になってきているのは、多岐にわたる顧客との接点(=タッチポイント)をまたぎ、「顧客がブランドに対して共感できるシナリオを描く力」だという。

「商品を手に取る、サービスを利用する動機づけが多様化し、さらにはメディアや表現手法がどんどん増える中で、どこのどういった背景を持つブランドであるか、ブランドに共感しうるか、ということが重要になっています」(藤井氏)

現在でも、テレビやソーシャルメディアなどが火付け役となって、スマッシュヒットを飛ばす商品が登場することはある。そういった意味では、モノ自体のアイデアを研ぎ澄ませることの重要さは変わらない。

「そういったものを世に出せればとても喜ばしいことですが、一方で、確率としてみれば低いことも確かです。ロングセラーになるかということも別と言えるでしょう。より安定的な関係を築き、維持するならば、共感シナリオを描いたり、各タッチポイントで一貫した体験を設計することは、どの企業でもやるべきことだと考えています」(藤井氏)

関係性の図

独立した6つのカンパニー

たきコーポレーションは3月1日、ブランディング部門の「IGI(イギ)」、ユーザーエクスペリエンス(UX)制作部門の「IDEAL(アイディアル)」の2つを含む、4つの制作カンパニーを新設した。従来から中核を担ってきた「グラフィック」(カンパニー名は「ONE」)と「デジタル」(同「ZERO」)とを合わせ、計6カンパニーの体制となった。藤井氏は、IDEALの代表でもある。

制作部門の図

新体制に移行した狙いのひとつは、「それぞれの領域を支えるクリエイターの能力をより発揮しやすくすることのほか、自分たちが提供できる価値は何であるのか、それをどのように発信し、理解してもらうのかを主体的に考え、動けるようにすること。もちろん個々で採算を考える責任感もあります」(藤井氏)。

単に担当分野だけを整理するのであれば、部局のような組織体制と変わらない。カンパニー制で自分たちの足で立つからこそ、ビジネス感覚もより研ぎ澄まされる。

一方、各専門領域を担うカンパニーに対して、包括的に各領域を見る存在がCDだ。商品のパッケージデザイン、Webサイトのインターフェースやユーザー体験、OOHやSNSなどのグラフィック……と個別に扱うのではなく、まず一つの窓口として鳥瞰的な視点で眺め、その後、各専門カンパニーが実制作を担う、という動き方になる。

かつてのたきコーポレーションはデザイナー中心だったが、現在では16人ほどCDを務める人間がいる。冒頭に藤井氏が述べたように、コミュニケーション全体のコンサルティングを担うような立場を求めるクライアントも増えてきた。

「アラカルト的な依頼もあるでしょうし、いわばワンストップ的な形でのサポートというのも可能、という体制ですが、クライアントと各カンパニーのクリエイターをつなぐ、よい翻訳者としてのCDという存在の重要さはますます高まると思います」(藤井氏)

AI時代を迎えて

生成AIを筆頭に、テクノロジーによってクリエイティブ制作にも大きな変化が訪れようとしている。たきコーポレーションでも、AIを敵視するのではなく、どのように活用し得るか、という研究を進めているという。「制作の最終段階でのクオリティをいかに高めるかという、ある種、職人的な部分はたしかにデザイナーの持つ価値のひとつです。しかし、それだけではありません」と藤井氏は話す。

「色や形を実際に設計するというのは、ほとんど最後の段階。実はその前のステップのほうが重要だと私は思います。例を挙げると、たとえば、腕のいいデザイナーは、制作の前段階、リサーチ力が非常に高い。〈センス〉という表現をされることもありますが、言い換えるなら、見つけ方や何を見るかという選球眼、それを支える広範な知識、そういった能力が、優れたデザイナーの特徴のひとつです。では、何をリサーチするのか? というと、さらにその前の段階。そのブランドは、どのように見られるべき、どんな印象を持ってもらうべき、ということを決めた上で、そうした見た目や印象は、どうすれば生まれるのか、を調べるということですね」(藤井氏)

プロセスの図

説明の順番を直すと、1)ブランドはどのようなものかを決める 2)そのブランドはどのような印象を顧客に与えるべきかを決める 3)そのような印象を生み出すにはどのような表現の指針が適切かを決める ……そして最後、実際の表現としてアウトプットする、ということになる。

「デザイナーが、最終的なアウトプットのところを担っている、というのをある種特権のように、あるいはそこに閉じこもっているように思わせているのだとしたら、それは反省すべきかもしれません。AIに取って代わられると思われても仕方がないとも言えます。しかし、実際は全くそこだけではない、ということです」(藤井氏)

さらに藤井氏は、前述の1〜3のようなプロセスすらも、「クライアント側をはじめ、多くの人が身につけてほしいスキルです」と話す。その理由のひとつが、「ゼロから絵作りができる人が相対的に少なくなってきている」ということだ。

「全体としてそうなのだ、というと言い過ぎだとは思いますが、たとえば昨今、Webデザイナーはとても人口が増えています。そういった方にデザインを教える場に立つことがあるのですが、話を聞いてみると、ゼロから作った経験に乏しく、すでにあるものの改修や調整をすることがほとんどなのだと言います。いくらツールが進化して、非常に完成度の高い表現ができるようになったとしても、その手前の段階がわからなければ、もったいないのではないかと思います」(藤井氏)

もし1)〜3)をもっとクライアントが考えることができたら、そのときデザイナーはさらに能力を発揮できるようになる。似たところがあるのは、スタイリストや美容師とお客の関係だ。

もし、自分がどういう人間で、どんなふうな見た目を望んでいて、そのためにはどんな服や髪型にすればいいか、を全く考えていないお客だったとしても、プロなら一定の仕事は果たす。しかし、それらがクリアになっていればいるほど、よりよい仕事ができるはずだ。

ただ、通常は、全くゼロではないにしても、あいまいであることが多いはずだ。そこを「たとえばこんなのはいかがですか」と例示してくれる、というのも、顧客としては期待したいところだ。そして、こちらのイメージが不明瞭だと、どう指示すればよいのかがわからず、生成AIの出力も、固まり切らないこともあるだろう。

さらに言うなら、ある意味、自分のこと、自社のことであると、無意識に考慮に入れてしまうしがらみであったり、慣習であったりもある。第三者としての価値は、そういった思い込みを外してくれることにもありそうだ。

「あとはやはり責任だと思います。企業のカルチャーにもよりますが、『AIが生成した広告』というものの責任の所在。なぜほかでもなく、それを選ぶべきなのか、それをどこのどのような人間がつくったのか、という説明をする上で、担当が生成したAIです、というのが通りづらいことは、実態として考えられるでしょうね」(藤井氏)

AIがここまで口の端に上らなかったとしても、必要となったであろう、メディアや表現の多様化への対応。そして、AIが注目されたことで、逆説的に浮かび上がってきた、老舗制作会社としての存在価値。より重要なデザインのステップを、どうクライアントと歩んでいくか。

たきコーポレーションは新体制と共に掲げたブランドステートメントを、〈人の「思い」をカタチにする。〉と結んでいる。

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お問い合わせ
株式会社たきコーポレーション
住所:〒104-0045 東京都中央区築地五丁目3番3号 築地浜離宮ビル
TEL:03-3547-3781(代表)
コーポレートサイト:https://www.taki.co.jp
問い合わせフォーム:https://www.taki.co.jp/contact/

藤井 賢二
株式会社たきコーポレーション執行役員/UXカンパニーIDEAL代表
UXデザイナー/クリエイティブディレクター
オンラインデザインスクール D.TOKYO TAKI Design master 講師
オンライン教育サービス Coloso 講師

日本創造学会 正会員2023年よりUXデザイン特化の専門カンパニーIDEALの代表に就任し、UXを基調としたデザインコンサルティングに従事。
慶應義塾大学 KGRI 健康寿命延伸プロジェクト 研究員在籍。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科Education Labメンバー。
社会課題に寄り添うプロダクトデザインを多数発表。図画工作科を中心としたアート教育について研究活動中。受賞・展示歴 : Milano Design Week 2023
Asia Design Prize 2023 WINNER
German Design Award 2023 winner
European Product Design Award 2022
Winner in Design for Society/Design for Elders,
Winner in Design for Society/Design for Public Awareness
K-DESIGN AWARD 2022 GOLD winner




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