多くのスタートアップ企業の課題となる、企業・サービス認知の拡大。ただでさえ少ないリソースの中で、メディアアプローチなどの広報活動に着手するのは容易ではない。そこで月刊『広報会議』では、現在多数の認知やパブリシティを獲得しているスタートアップ企業の、広報の“転機”に迫る新連載「スタートアップ企業の転機」を開始した。
第3回目となる今回は、シェアリングスペースのプラットフォームサービスを運営するスペースマーケットの重松大輔代表取締役社長とPRの伊藤亜美奈氏に「パブリシティ獲得につながるプレスリリース発信のコツ」を聞いた。
文/下矢一良 PR戦略コンサルタント・ストーリーマネジメント代表
※本記事は、『広報会議』7月号の転載記事です。
スペースマーケット
代表取締役社長
重松大輔(しげまつ・だいすけ)氏
東日本電信電話、フォトクリエイトを経て、2014年にスペースマーケットを創業。2016年にシェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事(現在、理事)に就任。
スペースマーケット
PR
伊藤亜美奈(いとう・あみな)氏
共同ピーアールにて一括した広報業務を遂行。その後、サイバーエージェントへ参画し、ABEMAの番組広報に従事。2022年1月よりスペースマーケットにてPRを担当。
PR戦略コンサルタント・合同会社ストーリーマネジメント代表
下矢一良(しもや・いちろう)氏
早大大学院(物理学)修了後、テレビ東京に入社。『WBS』や『ガイアの夜明け』のディレクターに。ソフトバンク転職後は、新規事業企画を担当。現在は中小ベンチャー企業を中心に、広報PRの支援に取り組む。
会社プロフィール
- DATA:スペースマーケット
- 創業年:2014年1月
- 事業内容:時間単位で貸し借りできるシェアリングスペースのプラットフォームサービスを運営
- 従業員数:71人(2023年3月31日時点)
- 広報体制:1人
「スペースマーケット」は、その社名の通り、スペースを時間単位で貸し借りするプラットフォームだ。これまでに、テレビ東京『ガイアの夜明け』『WBS』などの経済報道番組から、一般のニュース番組、日経新聞などの全国紙と、相当数のメディア露出を獲得してきた。
「当サービスは、シェアスペースの借り手に加え、貸し先となる登録物件数を増やさないと成り立ちません。双方へのアプローチのため、創業当初から広報には力を入れていました」と語るのは、創業者であり代表取締役社長の重松大輔氏だ。
スペースマーケットの広報において、創業初期に大きな武器となったのが「古民家」「映画館」「野球場」のような「変わった場所が借りられる」という特徴をアピールすることだ。「プレスリリースのトップに『野球場の写真』を入れ込むなど、『インパクトのある画』をどのように掲載するかといった逆算の視点から、広報効果を高める施策を考えていきました」と重松社長は打ち明ける。
季節性に合わせた調査リリース
創業から約1年後、端山愛子氏が、“第一号広報”として加わる。
端山氏の加入後、特に注力するようになったのが「季節の話題とサービス内容を掛け合わせた情報の提供」だ。なかでも「お花見」に関連したプレスリリースは多くのメディアに取り上げられた。
「メディアが取り上げやすい季節ネタをうまく取り込みながら自社サービスを認知につなげるには、どのような情報を出すべきか。調べてみると『お花見』に関連した情報を出している企業が少ないことに気がつきました」。端山氏はこう打ち明けてくれた。
そこで、メディア関係者限定の「お花見の最新トレンド情報を発表するセミナー」を、2018年3月7日に開催した。室内で行う花見を「インドア花見」と銘打って「桜が装飾された室内スペース」や「窓から桜が見えるスペース」、「お庭を貸し切ったゆったりお花見」などを紹介したのだ。
さらに同年の3月19日には、プラットフォーム内のコンテンツにて「インドア花見特集」をスタート。「インドア花見」のメリットやおすすめシチュエーションを記載し、「インドア花見」に適した全国各地のスペースを紹介している。
また特集の開始に先がけ、「お花見に関する実態調査」のプレスリリースを公開。お花見のトレンド調査として、「お花見に行きたい理由」や逆に「行きたくない理由」などを記載。「お花見」のハードルとなっているのは「混雑・花粉・寒さ」と結論づけた上で、「インドア花見」に適したさまざまなスペースを写真といちおしポイントとともに提案した。
同調査リリースは、テレビをはじめ多くのメディアに取り上げられ、利用者に加え、登録物件の増加にもつながったという。
翌年の2019年にもメディア向けに「フライング開花宣言!インドア花見トレンド発表会&体験会」を開催。さらに3月中旬には「お花見トレンド調査」「インドア花見 貸切利用の無料キャンペーン」とお花見ネタで立て続けにプレスリリースを打ち、定期的なパブリシティを獲得してきた。
時流に合わせ利用シーン提案
順調に成長を遂げてきたスペースマーケットだが、2020年に「コロナ禍」という大きな壁が立ち塞がる。外出自粛により、これまで想定されてきた利用シーンが減ってしまったのだ。だが、同社はその「歴史的な逆境」に萎縮するどころか、攻めに転じた。
2020年4月に第1回の緊急事態宣言が発出されたが、その月のうちに早くも、…
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