競合プレゼンに勝ち抜くために必要なことについて、職種別、また年代別に紹介する本連載。今回からは「プランナー」編です。
競合プレゼンに勝つメソッドを詳しく知りたい方は書籍『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』をご覧ください。
正直に白状します
今回と次回のテーマは、勝てる「プランナー」になる。戦略プランナー、アクティベーションプランナー、デジタルプランナー、メディアプランナー……。専門性も芸風も異なるスタッフ職を一括りに「プランナー」としてしまうこと自体に、そもそも無理がある気がします。
プランナーという職種がどんどん細分化している今、競合プレゼン自体も複雑高度化しています。そこに立ち向かうには、クリエイターとはまた違った、プランナーとしてのスキルや心構えが求められます。前編は全プランナー共通の話。後編は細分化したプランナー個別の話をお伝えします。
広告会社に入社して17年、戦略プランナー歴13年の鈴木ですが、正直に白状します。実はメディアプランナーの提案、いつも完璧に理解できていません。デジタルプランナーの提案も、だいたい知ったかぶりをしながら聞いています。お恥ずかしい話です。
でもせっかくのコラムですので、ここはひとつ開き直って、自身の勉強不足や理解力のなさは、いったん棚上げ。プランナーの皆さんには今一度、自身の業務や提案について振り返ってほしいと思っています。全プランナー共通の話、それは提案の「わかりやすさ」についてです。
プランナーの宿命は『高度な専門性』による『難解さ』
スタッフ職はそれぞれの領域で高度な専門性を持ったプロフェッショナルですが、クリエイターとプランナーの最大の違いを挙げるとするならば、それは「難解さ」だと思います。
クリエイターはそもそも、生活者にメッセージを「わかりやすく」伝えることが生業。つまりクリエイターのアウトプット(提案物)は、そもそも「直観的なわかりやすさ」を備えています。プレゼンテーションでは、逆にそれを左脳的にロジカルに説明しなきゃいけないくらいです。
反面、プランナーのアウトプットは、そもそも複雑高度。広告会社歴17年の私ですら、他領域のプランナーの説明がチンプンカンプンなことがしばしばあります。まして、広告門外漢のクライアントならなおのこと。まず、我々プランナーの専門性が、とても高度で難解なものであると、自覚することがスタートラインです。
プランナーの提案は『わかりやすい』からすべてが始まる
昨今、競合プレゼンは加速度的に複雑高度化していますが、人間の理解力はさほど向上していません。目の前で日々向き合っているクライアント担当者の専門性やリテラシーは高かったとしても、その後ろには、レベルがバラバラな他のクライアントがずらっと控えています。
そして、専門外のことを判断し採否を決めるのが競合プレゼンというもの。だからこそ、プレゼンにおいて何が一番重要かと問われれば、私は間違いなく「わかりやすさ」だと答えます。「わかりやすさ」は「正確性」「面白さ」「鋭さ」よりも優先すべき要素。「わかりやすい」は大正義で、「わかりにくい」は最悪です。では、その理由を突き詰めて考えたことはありますか? そこには受発注の心理学が潜んでいます。
提案の印象は、話し手と聞き手の関係性次第
聞き手の立場で、話し手の言っている内容が「わかりにくい」と感じたとします。そのときに働く心理には、相手(話し手)と、自分(聞き手)との関係性によって、2パターンの違いが生じます。
例えば、相手(話し手)が、社長や上司、あるいは弁護士、医者、恩師、総理大臣など、明らかに自分より知識や教養があって、立場的に「目上」の人だとします。その人の話が、いまいち理解できない自分がいる。そのとき自分(聞き手)はこう思います。「話が理解できないのは、自分の理解力が足りないからだ。きっと相手は、崇高な話をしているに違いない」と。
間違っても、相手の話の内容(質)が悪いとは思いません。つまり、理解できない原因を「自分(聞き手)」の方に求めます。一方、相手(話し手)が子どもや、後輩、部下など、立場的に「目下」の人だとします。その人の話が、いまいち理解できない自分がいる。そのとき自分(聞き手)はこう思います。「話が理解できないのは、自分の理解力が足りないからではない。相手が取るに足らない話をしているからだ」と。間違っても、相手は何か崇高な話をしているに違いない、とは思いません。つまり、理解できない原因を「相手(話し手)」の方に求めます。
自分が理解できない内容=質の悪い内容
提案が理解できない(わかりにくい)という不快感を「それは提案内容が取るに足らないからだ」と無意識に思うことで解消する。この心理がプレゼンの現場で働いています。
もしあなたが、業界を代表する大御所なら話は別です。でも残念ながら、受発注というビジネスの上下関係がある中では、この心理現象は止められません。だからプレゼンでは「自分が理解できない内容=質の悪い内容」と無意識に判断されます。
間違っても「相手の言っていることは、実は自分が理解できないだけで、本当は素晴らしいものなのかも?」とは思ってくれません。「プレゼンはわかりにくかったですが、御社を採用することに決めました」なんて返事をもらった人は、おそらく誰もいないと思います。面白くないプレゼンや、正確性に欠けるプレゼンでも、勝つことはあります。でも、わかりにくいプレゼンで勝つことは絶対にありません。だから「わかりやすい」は大正義で、「わかりにくい」は最悪なのです。もしプレゼン後、クライアントから「とてもわかりやすかったです」とお褒めの言葉をいただいたら、それは最大級の賛辞です。理解できないもの、わかりにくいものを、人は「面白い!」「斬新!」「鋭い!」とは思わないのです。
さてここまでは、全プランナー共通の話としての「わかりやすい」の重要性を説いてきました。次回は、プランナーの職種ごとに気をつけたいポイントをお伝えします。「◯◯プランナーはこれに気をつけよう!」と歯切れよく書きますが、あらゆるプランナーに通じる話と思って読み進めてください。
(8月3日掲載)
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