『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』2024年3月5日発売、好評発売中
前回は重回帰分析についてお話ししました。今回のテーマは「ターゲット設定」です。何を伝えるか、どう伝えるかの手前にあるのが、誰に伝えるか。ここが変わるとすべてが変わってしまうほど重要な「ターゲット設定」には、マーケターがつい陥ってしまいがちな2つの罠があります。2つの罠とは何か、なぜそれが問題なのか。では、始めましょう。
ターゲット設定の前に行われるもの
エリック・シュルツの「戦略的コンセプトのABC」の中で、A(Audience=ターゲット消費者)が誰であるかはB(Benefit=便益)よりも先に検討されなければならないと述べられています。ターゲットが変われば便益も変わるからというのがその理由で、何を伝えるか、どう伝えるかもそれに応じて変わっていきます。
では最初に考え始めるのがターゲットでいいのかというと、その前にも考えなくてはならないことがあります。それが競合の設定です。競合というとProductが似ているものだけがイメージされがちですが、競合とは「置き換え得るもの」のことを指すので、Productが似ているかどうかは実はあまり重要ではありません。
ファミリーマートの大ヒット商品に「ファミチキ」がありますが、ファミチキが発売された2006年当時、ケンタッキーフライドチキンの売上は落ちませんでした。ファミチキとケンタッキーはProductが似ていますが、大きく異なるのはPlace(買いやすさ)です。当時、ケンタッキーの店舗数が約1000店舗だったのに対してファミリーマートは約6000店舗あり、顧客からの物理的な距離が大きく違いました。Productが似ていても競合しないケースはありますし、まったく違うProductが食い合うケースもあります。「他の何から自ブランドに置き換えてもらうのか」という競合設定をまず行い、その後にターゲット設定を行うという順序になります。
ターゲット設定の罠①「不必要に狭くする」
つい陥ってしまいがちなターゲット設定の罠の1つめは、「不必要に狭くする」ということです。なぜそうなるかというと、「今回のターゲットは有職F1で、情報感度と健康意識が高く、趣味でヨガを楽しむ人です」といったように条件を付加したり絞っていくと、よく考えている感じがするからです。クライアントに対する広告会社、またクライアントの上司と現場の間で
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