生活者の価値観は多様化し、さらに企業と生活者との接点も多様化した現在。昭和の時代にマス広告を駆使して構築されてきたような「メガブランド」をつくりあげることは難しくなってきているのではないだろうか。そんな仮説を踏まえたとき、今の時代にあるべきブランドの姿をどのように描くことができるのか。熊本県立大学の丸山泰教授が解説する。
(本記事は月刊『宣伝会議』9月号巻頭特集に掲載されているものです。)
熊本県立大学
総合管理学部 教授
丸山 泰氏
1960年鹿児島県生まれ。大学院卒業後、1985年ライオン入社、28年間商品開発、マーケティングやリサーチの仕事に従事。2013年より現職。大学では地域活性化×マーケティングというアプローチで学生と一緒に地域の課題解決に取り組んでいる。
多様化、細分化する市場 生活者は何を期待するのか?
マーケティングの世界でも多様化、細分化の波は加速度的に強まっている。かつて2000年代には20~30%を超えていた月9ドラマの世帯視聴率も、最近では10%を下回り、企業のプロモーションは、マス媒体からネットやSNSにその配分を大きくシフトしてきている。また、多くの市場が人々のライフスタイルや価値観などに対応し、より細かく細分化している。
ファッション市場では、登山やキャンプなどの様々なアクティビティに対応したアウトドア分野や、環境に配慮するエコファッションなど新セグメントが形成されている。
食品市場では、健康志向で無添加やオーガニックというジャンルが大きく成長しているし、グローバル、エスニックトレンドの中、例えばカレーでは、欧風カレー、インド風カレー、タイ風カレー、ベトナム風カレー、マレーシア風カレー、和風カレー等々、その分化がすさまじい。
このような多様化・細分化の中で、企業はややもすると、変化への個別対応に終始し、手数ばかりが増えライン拡大に追われ疲弊していくという悪循環に陥り、商品が小粒化しブランドを弱体化させているケースも多く見られる。
ブランド化とは、その対義はコモディティ(汎用品)である。例えれば、一般名詞で選ぶのではなく固有名詞(ブランド)で選ばれるようにすることであり、「○○でいい」ではなく、「○○がいい」と選ばれ方をより強く積極的にするものであると考える。だからこそ、競合と差異化でき、安定的な売上とプレミアム価格を担保できるメガブランドを、企業は今も期待し待望しているのかもしれない。
一方、多様化・細分化する世の中で、生活者は何をブランドに求めるのだろうか?
ブランドが生活者にもたらす価値として3つの機能があると言われている。購買の意思決定に至る時間やコストを削減する「識別」機能、購買リスクの低減・回避に役立つ「保証」機能、自己実現や自己表現の手段となる「意味づけ」機能である。
VUCAと呼ばれる変化の激しい世の中では、これまでの基準、規範、常識がゆらぎ、まさに新しい「識別」「保証」「意味づけ」機能を、生活者は求めてくると考える。これから、新しい暮らしや生き方の指針となり先導してくれる新しいブランドが必要とされてくると予測する。
暮らしに根差し強く支持されるロングセラーブランドから学ぶ
1970年代~80年代に誕生し、今も強いブランドと言われるものを分析すると、それらは暮らしを提案し人々を変えてきたことがわかる。いくつか事例を取り上げて、そのポイントを確認したい。
…この続きは8月1日発売の月刊『宣伝会議』9月号で読むことができます。
- このあとのトピック
- ・変動する社会に求められる寄り添い、先導する力「4S」
- ・暮らしを先導するのは、ディープ&ストロングブランド
『宣伝会議』9月号(8月1日)発売
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- 熊本県立大学 丸山 泰
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