外資系企業の広報担当と出身地の広報アドバイザーを兼業 「自治体広報の仕事とキャリア」リレー連載 本多理恵(三次市)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。第1回は本多理恵さんが登場します。

本多理恵氏
広島県三次(みよし)市シティプロモーションアドバイザー
コンチネンタル・オートモーティブ コミュニケーション本部マネジャー
社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科在学中

旅行会社で営業を経験するなかで、外資系クライアントのマーケティングコミュニケーション活動をサポートすることがあり、手配業からマーケティングへの転身を決意。2004年に現在の会社、コンチネンタル・オートモーティブにマーケティング担当として入社。2006年、ドイツ本社によるグローバル広報体制強化の決定により、日本にも広報組織ができることになりました。その立ち上げでは、いわゆる「ひとり広報」の状態で、企業広報・製品広報とオウンドメディアの整備など、今のコミュニケーション本部の基礎を築いたと自負しています。2011年の東日本大震災の際には、日本在住の外国籍社員はドイツ本社からの指示で全員国外に移動することとなり、ドイツからリモート経営されるという状態に。この経験で、組織の一体化醸成の重要性を感じ、インターナルコミュニケーションを重視し、様々な施策を展開しています。

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

私の本業はドイツに本社を持つ自動車部品メーカー日本法人の企業広報です。出身地である広島県三次市がシティプロモーションを本格的に始めるにあたり、戦略検討委員会のメンバーに選んでいただいたことがきっかけで、シティプロモーションのアドバイザーを務めています。

具体的な仕事の内容は、シティプロモーションの施策づくりや効果測定に関するアドバイス、市の広報における広報計画立案やメディアリレーション、そして発信情報の精査に関するアドバイスです。

Q2:本多さんの「自治体広報における実践の哲学」とは?

広報業務に携わって約20年になります。自治体広報に限らず、広報の仕事を行う上で、常に意識していることは、「伝えた」のと、「相手に伝わったどうか」は違うということです。

自治体広報に求められるひとつ目の役割は「地域住民に正しい情報を伝える」ことですが、自治体が地域住民に向け発信する情報は、行政施策の情報、社会生活に必要な情報、災害情報など生命にかかわる情報、その他、多岐にわたります。

どのような情報であっても、対象となる住民の方々に確実に、わかりやすく伝えることが求められます。事実を発信する、つまり、発信者として理解している情報を発信するのではなく、相手に理解・共感してもらい、支持してもらえるようなメッセージの構築と、相手に合った伝え方を常に考えるようにしています。

共感を得るという点では、長期的もしくは大きな視点で物事を語ることと、ステークホルダーの巻き込みにより、「自分ごと化」してもらうことも必要だと思っています。2022年に、三次市はシティプロモーションのブランドメッセージとブランドロゴを策定しました。この決定のプロセスにおいて、住民投票を行いました。オンライン投票は手軽に実施でき、データの集計分析も効率よく進めることができますが、市内の人の集まる場所に投票ボードを設置し、小さな子供から、高齢の方まですべての方に参加していただけるようにしました。「地域を作り・維持していくのは住民」です。シティプロモーション事業は行政のことではなく、市民ごととし、皆でこれから、この地域を一緒に盛り上げていく」そんな雰囲気を作っていきたいと考えました。

Q3:自治体広報ならではの苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性とは?

広報のステークホルダーは地域住民・地域の企業団体のほかに、地域外、メディアなど多岐にわたりますが、地域住民向けの広報活動だけでもそれなりの業務量があります。しかし広報係のリソースは限られています。この3年のコロナウィルス関連や、豪雨時の危機対応モードでは、やるべき仕事の優先順位が大きく変わってきます。私がアドバイスさせていただくのは、年間計画を可視化できる状態にすること、対応できる・多少の余力が持てる状態をつくること、優先順位をつけることです。計画策定に関しては、企業広報に携わっている経験が生きていると思っています。

限られたリソースでより効果を生むためには、庁内の連携が鍵になってきます。多くの自治体が現在取り組むシティプロモーションは大きく2つに分類できます。①自治体の外に向け、当該自治体の特長を訴求し認知度向上をはかり、その結果、転入促進、交流人口や関係人口増、また、企業誘致を目指すアウタープロモーション、②自治体内の住民や企業などを対象に、当該自治体の特長を訴求し、まちに対する愛着を醸成し、転出抑制などを目指すインナープロモーションです。

認知度向上などを目的として①アウタープロモーションからスタートしたシティプロモーションは、現在②のインナープロモーションに移行しています。シティプロモーションをより成功に導くためには、職員一人ひとりがシティプロモーションを「自分ごと」としてとらえ、地域活性化の担い手として市内外のステークホルダー(利害関係者)に対し魅力を伝えていくことが求められています。

これからは、“スタッフプライド”を醸成するための、職員を対象としたプロモーション、「インターナルプロモーション」が重要になってくると考えています。現在、インターナルプロモーションにより庁内のコミュニケーションを活性化し、部署間の連携を生む仕組みづくりを大学院で研究していまして、地域を盛り上げ、元気なまちづくりの実現に貢献したいですね。

【次回のコラムの担当は?】

広島県三次市の本多理恵さんが紹介するのは、東京都東大和市 企画財政部 秘書広報課長の加藤泰正さんです。

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