時代に合わせて変化を続ける、ロングセラーブランド「メリット」の戦略
民間企業である花王から茨城県の下妻一高に移籍して、最初の学期が終了。夏休みを迎えます。夏休みと言えども、教員は通常通りの出勤です。高校3年生を担当している先生は、受験対策として、朝8時半から14時過ぎまで課外授業を行い、部活動の顧問の先生は、全国大会の引率や夏合宿など、夏休み行事が盛りだくさんです。
また、後期に向けて授業準備を行い、新学期に向けた授業研究も行います。高校3年生はこの夏休みの使い方を後悔しないように!と進路指導部の先生から発破をかけられています。これから受験に挑む生徒たちを見ていると、私も一緒に受験に挑む気持ちになります。これからどんな進路を歩むのかなと、生徒への期待を持ちながら学校生活を送っています。残りの高校生活、頑張って欲しいです。
さて、この連載では、マーケターとしての経験をどうしたら学校運営に生かせるか。学校の現場での試行錯誤を定期的にお届けしてきました。今回は、花王のロングセラーブランドである、ヘアケアブランド「メリット」のマーケター時代の経験が、学校運営に生きたというお話を紹介したいと思います。
「メリット」の発売は1970年。日本で初めてZ-PT(ジンクピリチオン)を配合した「フケかゆみを止めるシャンプー」として発売され、今年で53年目を迎えます。実は「メリット」は「ドラえもん」と“同級生”、なのですが、同ブランドがロングセラーとなった秘訣は、時代の変化に合わせてターゲットとポジショニングを巧みに変えてきたことにあります。
ブランドコンセプトはぶらさず、コアとなる価値は守りながら、時代の変化に対応していく。消費者心理を捉え、その時々の消費者の課題を解決するための商品改良を2年に1度の頻度で実施。この改良に合わせて、マーケティング施策も変更していきます。
私は花王時代に、このロングセラーブランドを担当した経験があるのですが、県内きっての伝統校である下妻一高の学校経営にも生かせるのではないかと考えています。
私が勤める茨城県立下妻一高は、県内で屈指の伝統校です。明治30年に開校し、県内では2番目に古い学校で、今年で126年を迎えます。開校当時の野球部のユニホームの下高のマークは、今でも伝統として受け継がれています。
今年で86回目を迎える、茨城県立水海道一高との定期戦においては「下高(しもこう)」とも称し、また生徒や教員、同窓会(為桜同窓会と称する)の会員などの間では「為桜学園(いおうがくえん)」とも呼ばれています。OBOGの繋がりや絆も非常に深い学校です。
また、為桜体操と呼ばれる、学校独自の体操が存在するのも特徴です。このように代々受け継がれている伝統を守りながら、時代の変化に対応していくことが、花王時代に経験した、ロングセラーブランドの育成の仕事に似ていると感じています。
126年の伝統が培ってきた「妻一(つまいち)ブランド」のコア価値はなんなのか。まずはそこの分析から始めました。それは進学校でありながら、部活動も全力で行う。この文武不岐(文武両道)が本校のコア価値だと思います。進学の面では歴代の教員からの伝統を受け継いで、進学実績を伸ばしてきました。
昨年は、なんと国公立大学の合格者が150名を達成。この進学実績は県内でもトップクラスです。また部活動も非常に盛んで、女子バスケットボール部が関東大会優勝、弓道部も関東大会に出場するなど高い実績を出している部活が多々あります。この文武不岐(文武両道)の精神から生まれる、「信頼」「安定」「堅実」が本校のブランドコンセプトです。地元下妻市では、屈指の進学校として存在しており、まさに地元では憧れの学校となっています。
顧客第一主義で顧客満足度ナンバーワンの学校を目指す!
このように実績と信頼がある伝統校なのですが、学校を取り巻く環境は大きく変化しています。学校教育も変革を求められているのです。少子高齢化による受験生の減少、公立高校の吸収合併、デジタル技術の進化による授業改善への取り組み、不確実性の社会を切り開いていくための起業家精神の育成など、今までの学校教育に加えて、時代の変化に対応した学校教育が求められています。そこで花王で学んだ経験が、学校経営に生かせるのではないかと思っています。
例えば、「メリット」担当時代には、ふけかゆみを防ぎたい、地肌悩みを抱えているコアファンを大切しながら、新規顧客となる子育てする母親をターゲットとして獲得してブランド育成をしてきました。
これを学校経営に例えると、一定の国公立大学進学実績を目指す一方で、大学進学だけを目的とした学校教育になってはいけない。私が目指す、新たな価値を創造する「起業家精神」を育成する教育を実現するために、妻一(つまいち)ブランドをどうアップデートしていくか。学校経営も、まさに時代の変化に対応し、伝統を守りながら、新たなことにチャレンジしていく必要があります。まさにロングセラーブランドの育成の難しさが、伝統校ならではの難しさがあると感じています。
今までの伝統のなかでどの部分はやめて、逆に新しいことを取り入れていくのか。この絶妙なバランスが大切だと思っています。現在の副校長としての立場で、そのあたりをしっかり見極めたいと思っています。
積み木に例えると、積み上げられた積み木のピースを一つひとつ崩れないように取りながら、新しい積み木を重ねて、さらに大きくしていきたい。目指すところは、「妻一ブランド」の強化とファン育成。顧客第一主義で顧客満足度ナンバーワンの学校にしていきたいと考えています。学校の場合、顧客は生徒です。生徒から愛される学校にし、妻一ブランドを背負っていることが、自分の誇りになれば素敵なことだと思っています。
現在のブランド力を生かしながら、「公立学校の伝統校」ならではの価値をどう伝えていくか。まさにロングセラーブランドの育成をする意気込みで取り組みたいと思います。