※調査概要は記事巻末に記載
博報堂生活総合研究所では、博報堂生活綜研(上海)、博報堂生活総合研究所アセアンと協働し、日本・中国・アセアンの生活者の意識や価値観、行動を把握することを目的とした8カ国調査「グローバル定点」を2023年1月に実施。この分析結果を2023年5月にニュースリリースとして発表したところ、日本の特徴に対して大きな反響がありました。
そこで今回は既報リリースからのスピンオフとして2回にわたり、特に注目度の高かった項目について、日本が8か国中で最上位、あるいは最下位となった理由や背景の考察とともに紹介していきたいと思います。
日本は「お金が欲しい」が最上位、「収入に満足」は最下位
最初に紹介するのはお金に関する意識です。「お金が欲しい」という項目で、日本は60.6%で8カ国中最上位でした。超高齢社会の日本で人生100年を生き抜くための生活資金として「お金が欲しい」と願うのは当然のことなのかもしれません。昨今相次ぐ、食品や光熱費などの値上げも、日本人を「お金が欲しい」という意識へ向かわせる、ひとつの要因となっていることでしょう。
ちなみに、「お金がないと幸せになれない」も日本は65.3%で最上位。どうやら、お金と幸せが結びつくのは、日本人に特徴的な考え方のようです。にもかかわらず、「十分な収入に満足している」と感じる日本人は8.1%にすぎず、8カ国中で最下位です。幸せになるためにお金が欲しいのに、収入は十分ではない。では、給料を増やすしかないと思うのですが、働きに関する意識で意外な結果が見られました。
「高い給料よりも休み」も最上位の背景は?
「高い給料よりも休みがたっぷりな方がいい」という項目においても、日本は最上位(59.8%)となったのです。「お金が欲しい」と願いつつも、「高い給料よりも休み」を求めるのは、一見すると矛盾があるようにも思えます。
ただ、よく考えてみると、生活者には給料をもらえる仕事以外にもやるべきことがたくさんあります。例えば、育児や家事。男女共同参画社会の実現に向けて、男性の育児や家事への参加も期待される日本では、育児休暇などの「休み」を取得する男性も増えつつあります。超高齢社会の日本では、介護という仕事もワークライフバランスを取りながら、こなさなくてはならない生活課題のひとつ。こうした、「外の仕事以外の内の仕事」もこなすために、休み重視にもならざるを得ないのではないでしょうか。
さらに、もうひとつ考えられるのは、お給料以外の収入を得られる、副業をしやすい環境が整ってきたこと。昨今では、副業を認める企業や、仕事の空き時間を有効活用してお金を稼ぐスポットワークに従事する人も増えてきています。こうした環境変化も手伝って、新たなお金を得る手段を活かすために、お給料よりも休みを得ようとする人が日本で目立つのかもしれません。
「人づきあいは面倒」が最上位、「友人は多いほどいい」は最下位
次に、交際に関する意識も見てみましょう。「人づきあいは面倒だと思う」人は日本が最上位。スコアは44.5%で、他国の10~20%台に比べると、群を抜いて高くなっています。
一方、同じ交際関連でも、「友人は多ければ多いほどよいと思う」は最下位でスコアも7.7%にすぎません。どうやら日本の生活者は、「人づきあいは面倒だから、無理に友人を増やすことなく、限られた人たちとだけつきあえばいい」と感じる傾向にあるようです。では、なぜ、このように感じるのでしょうか。その理由と背景は、他の調査結果を重ねることで浮かび上がってきました。
SNSが影響? 「人をうらやましいと思う」は日本と10代で顕著
その調査結果とは、「人をうらやましいと思うことがよくある」という設問に対する回答です。日本の割合は、24.4%で、他国を倍以上、上回っています。どうやら、この意識が人づきあいの面倒さに起因しているのではないか、そう思って、さらに詳しくデータを見てみました。
すると、日本の10代(15歳~19歳)が41.2%で全体平均(24.4%)を大きく上回っていることがわかりました。また、8か国に共通して10代が最も高く、若い年代ほどスコアが高い傾向にありました。
他にも、10代を筆頭に若い年代ほどスコアが高い項目には、「情報は主にソーシャルメディアから得ている」「ソーシャルメディアを通じた自分の見え方に気を使っている」がありました。どうやら、若い人ほど情報の受発信に活用するソーシャルメディアの影響を大きく受けているようです。
ソーシャルメディア上には、人の幸せな姿や素敵な生活風景、映える写真が溢れています。自分のリアルな実態と比べると、うらやましいと思ってしまう。ソーシャルメディア上の夢のような人の姿と自分を比べたくないから、見たくないと思っても、友人知人との付き合い上、つい気になって見てしまう。そんな若い人の葛藤は、日本のみならず、8カ国に共通するようです。
日本の特徴について、お金、働き、交際の観点で理由と背景の考察とともに見てきました。次回では、今回と同様に注目度の高かった環境に関する項目について、「グローバル定点」以外の調査結果も交え、ご紹介します。
(出典)
- 「グローバル定点」 調査概要
- 調査地域:日本(首都圏・阪神圏)、中国(北京・上海・広州)、アセアン(タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピン・マレーシア・シンガポール)
- 調査対象:15歳〜59歳の男女(アセアン各国については、世帯収入による絞り込みも行った)
- 調査人数:11,000人(11エリア×各エリア1,000人)
- 調査期間:2023年1月10日~31日
- 調査方法:インターネット調査
- 設計・分析:博報堂生活総合研究所
- 実施・集計:H.M.マーケティングリサーチ
- 調査協力:博報堂生活綜研(上海)、博報堂生活総合研究所アセアン
博報堂生活総合研究所 主席研究員 夏山明美
1984年 博報堂入社。主にマーケティング部門で得意先企業の調査業務、各種戦略立案などを担当。2007年より現職。食生活や消費を中心とした生活者の意識・行動に関する調査研究、日本・中国・アセアンにおけるグローバル調査業務を主に担当。共著に『生活者の平成30年史』(日本経済新聞出版社)、『C to B社会~賢くなった生活者とco-solutionの関係へ~』(日本マーケティング協会・季刊マーケティングジャーナル)など。