「環境保護行動をしていない」と67%が回答 アセアン・中国8カ国で際立つ“謙虚さ”の国民性―「グローバル定点2023レポート」後篇

博報堂生活総合研究所は、博報堂生活綜研(上海)、博報堂生活総合研究所アセアンと協働し、日本・中国・アセアンの生活者の意識や価値観、行動を把握することを目的とした初の8カ国調査「グローバル定点」を2023年1月に実施。この調査は、15歳~59歳男女 11,000人に対して、消費・お金、情報、遊び、働き、健康、家族、恋愛・結婚など幅広い領域の質問を投げかけ、各国の特徴を浮き彫りにするものだ。この調査結果から見えてきたのは、「お金」や「働き方」「人付き合い」などに関する日本人独自の価値観。本調査を担当した、博報堂生活総合研究所 主席研究員 夏山明美氏が、調査結果から見えてきた現代日本の特徴について2回にわたり解説する。
※調査概要は記事巻末に記載

前回の記事では、この調査結果の中でも特に注目度の高かった項目を取り上げ、日本が8カ国中で最上位、あるいは最下位となった理由や背景の考察とともに紹介しました。今回は注目度の高かった項目の中で、日本が他国に比べ突出して高かった「環境保護行動」に関する項目にフォーカスをあて、他の調査結果も紐解きながら、意識の深層を探ります。

日本は「環境保護行動をしていない」が8カ国中で突出

今回、取り上げる「地球環境の保護につながる行動をしていない方だ」という項目について。日本は67.0%で8カ国中最上位、2位のシンガポールと40ポイント以上の大差をつけるなど、他国と比べようもないぐらいにスコアが突出する結果となりました。

実データ グラフィック 博報堂生活総合研究所「グローバル定点」

筆者は、この結果を意外に感じました。過去に訪れた中国やアセアンの街や人の様子を思い浮かべると、日本がこんなに大差をつけられるほど「環境保護をしていない」と考えにくいからです。どうして、このような結果になったのでしょうか。「環境保護行動」に関する他の調査結果に謎を解くヒントがないか、探ってみました。

意識せぬまま、環境保護行動をしている日本人

まずは、博報堂生活総合研究所が実施した写真調査(2023年3月 20歳~69歳男女 300人が対象)をご覧ください。この調査では、日本の生活者に地球環境を意識して取り組んでいる行動に関連する物事を撮影してもらい、その写真を、行動の具体的な内容、行動を始めたきっかけや行動の重視点・利点などのコメントともに送付してもらっています。

送られてきた調査結果を分析すると、老若男女を問わず、多くの調査対象者にとって環境保護行動が日常的なものになっていることがわかりました。

例えば、56歳の男性は、「買い物のたびにエコバッグを使用しています。ビニール袋の消費減、環境負荷低減に役立っているようです」というコメントともに、3つの色違いのエコバッグの写真を送ってくれました。その時々の気分にあわせて、色を変えることで日々の買い物も楽しくなりそうです。

実データ グラフィック エコバック

65歳の男性からは、「飲み終えたペットボトルはすすいで、ラベルを外して、つぶしたのちに、スーパーにある回収所に持ち込みます。微力ながら二酸化炭素削減のひとつになるならば、手間は惜しみません」というコメントとともに、ペットボトルの写真が送られてきました。写真を拝見すると、ペットボトルを徹底的に潰して、かさを小さくすることで、より多くの人が捨てられるようにと無意識の配慮をされているようにも感じられます。

実データ グラフィック ペットボトル

「古くなった服を店舗の回収ボックスに入れる」という49歳の女性は、「洋服メーカーが、ごみの削減に取り組んでいるのをテレビで見て協力したいと思っていました。 回収ボックスに持って行くことで家庭用ごみが減り、服もリサイクルされるのでよかったです」とのこと。きれいに折りたたんだ服の写真を拝見して、「この女性は、古着はごみではなく、次の持ち主に届ける大切な商品と考えているんだろうなぁ」と感じました。他にも、フリマアプリやオークションサイト、リサイクルショップ、シェアサービスを利用するなど、物を捨てずに活かすことで、「捨てない喜び」を感じる対象者も目立ちました。

実データ グラフィック 古着

上記でご紹介してきた3人の生活者。実は、共通する意識をお持ちなんです。それは何かというと、同じ調査で聴取した「地球環境保護を意識して行動することがあるかどうか」という質問に対して、皆さんともに「いいえ」と回答されていること。写真とコメントを拝見する限り、十分に「地球環境保護」に貢献する行動だと思いませんか。さらに、この3人以外にも、行動はしているにも関わらず、意識はしていないと回答される方は多くいらっしゃいました。なぜ、このような行動と意識のギャップが生まれるのでしょうか。

環境保護行動に関する回答背景にあるのは、日本人特有の謙虚さ?

この謎を解くヒントは、博報堂SDGsプロジェクトによる「生活者のサステナブル購買行動調査2022」(2022年3月 16歳~79歳男女 5,158人が対象)の中にありました。前述の写真調査でも取り上げたエコバッグ関連の項目を見ると、「スーパーやコンビニでの買物にはエコバッグを持参する」は、「いつもしている」「よくしている」「たまにしている」の合計が85.6%の高水準。中でも、「いつもしている」が最も多く、58.3%にもなります。次いで多かったのが、やはり写真調査で目立った、ごみの分別やリサイクルについて。実に83.7%の人が「ごみの分別やリサイクルを行う」と回答。こちらも「いつもしている」が多く、46.2%もいました。そう、エコバッグやごみの分別、リサイクルといった環境保護行動はすでに8割以上の方が実施しており、「いつもしている」人も5割前後にも達しているのです。

実データ グラフィック 博報堂SDGsプロジェクト 「生活者のサステイナブル購買行動調査2022」

どうやら、「グローバル定点」で「地球環境の保護につながる行動をしていない方だ」が日本で突出していた背景には、エコバッグやごみの分別、リサイクルといった環境保護行動がすでに一般化しているから…という理由がありそうです。意識せずともやっている、日常に溶け込んだ当たり前の行動と化しているがゆえに、「していない方だ」という回答が高かったのかもしれません。あるいは、環境保護行動の水準が既に高いため、さらに高次元のサステナブルなアクションを想像して回答したということも考えられます。さらに、実際は行動をしていても、「みんなもやっているんだから、私なんてまだやれていない方だ」と、つい謙虚になってしまった、そんな日本人ならではの心理的特性も影響していそうです。

以上、2回にわたって、「グローバル定点」の8カ国比較によって浮き彫りにできた日本の特徴を考察とともにご紹介してきました。今後、「グローバル定点」は毎年調査を行う予定ですので、またの機会に得られた発見をご報告したいと思います。

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(出典)

  • 「グローバル定点」 調査概要
  • 調査地域:日本(首都圏・阪神圏)、中国(北京・上海・広州)、アセアン(タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピン・マレーシア・シンガポール)
  • 調査対象:15歳~59歳の男女(アセアン各国については、世帯収入による絞り込みも行った)
  • 調査人数:11,000人(11エリア×各エリア1,000人)
  • 調査期間:2023年1月10日~31日
  • 調査方法:インターネット調査
  • 設計・分析:博報堂生活総合研究所
  • 実施・集計:H.M.マーケティングリサーチ
  • 調査協力:博報堂生活綜研(上海)、博報堂生活総合研究所アセアン

 

博報堂生活総合研究所 主席研究員 夏山明美

1984年 博報堂入社。主にマーケティング部門で得意先企業の調査業務、各種戦略立案などを担当。2007年より現職。食生活や消費を中心とした生活者の意識・行動に関する調査研究、日本・中国・アセアンにおけるグローバル調査業務を主に担当。共著に『生活者の平成30年史』(日本経済新聞出版社)、『C to B社会~賢くなった生活者とco-solutionの関係へ~』(日本マーケティング協会・季刊マーケティングジャーナル)など。



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