「知的な変わり者」という立ち位置から生まれる活動
小藥 ヤッホーさんは部署名もユニークですね。
長岡 小藥さんの本にも部署名のお話が出ていて共感しましたが、私のいる人事総務部門は「ヤッホー盛り上げ隊」と言います。井手が社長兼人事部門の管理職を兼務していたときに、新たな人事総務部の名前として考えたのが「ヤッホー盛り上げ隊」です。
そもそものきっかけは、物流の部署を私が立ち上げたときに、井手から「ニックネームを使っているのに、物流部とか物流なんとか部だと面白くないので、新しい部署名を考えたら」と言われたこと。ただ名前を付けるのではなく、そこに何か想いを乗せたいなと考えた結果、「ハッピーお届け隊」という名前をつけました。物流部門って一番下流にあり、受け身になりやすい。でも受け身じゃなくて、リレーのアンカーとしての機能もあり、その自覚と誇りをもって、消費者に商品を届ける役割がある。仕事のとらえ方を変えていくためには、チーム名を変える必要をそのときに感じました。
そのときにひらめいたのが、「ハッピーお届け隊」の頭文字をとった「HOT」。ドラマ「踊る大走査線」に出てくる「SAT(Special Assault Team)」みたいな感じで、三文字くらいに落とし込めたらさらにいいなと思って。響きと共に、熱いチームみたいな意味も掛け合わせて、「ハッピーお届け隊」の通称を「HOT」としました。そこから、他の部署も自分たちの想い入れを部署名にしようということで広がっていったんです。どの部署も一般的な会社の部署名は使っておらず、初見ではわかりにくいため、チーム名のあとに機能名をかっこで入れています。
小藥 会社の組織図って、各部署が横一列に並列に並んでいるという印象ですが、長岡さんのチームはインフラのようにそのすべてに関わり、会社や社員を盛り上げるために存在 しているわけですね。コミットする面積の大きさ、やりがいの大きさが伝わるネーミング だと感じます。
長岡 そうです。会社全体をお祭り騒ぎのごとくやっているので、みんなが盛り上がるように団扇を仰ぐとか、気分としては、一人ひとりがお神輿をかついでいる感じ。それが盛り上がるように、一緒になってやるという感じですね。何かをしてあげるだけではなく、ただ支えるだけでもなくて、人事総務もふくめて、みんなが自分たちの機能を果たしながら一つの目標に向かって進んでいるわけで、その中で人事総務はただ人を管理するのではなく、盛り上げる役割だよね、という想いを部署名に込めました。
小藥 この名前は、そこにかかわる人たちが考えるんですか。
長岡 そうですね。ユニット内で決めます。戦略を決めるための合宿をしたりするときに名前をどうしようかという話をすることもあります。
小藥 経営企画部などが勝手に決めたり、勝手に変えましたと通告されるのではなく、現場の人たちがやるべきことがクリアになる名前を決めるから、何よりも愛着が湧きますよね。
長岡 まさに自分たちが考えた、ということが大事で、それが自分ごとになる。逆に言えば自分ごと化されないと他人ごとになり、「勝手につけられた名前だし」という感じになる。自分たちが愛着を持てる名前が大事で、それがないと納得感をもって仕事ができない。納得感があれば実行力にもつながると思います。そのためにもコミュニケーションの質と量、そしてフラットな議論がしやすい環境整備を大事にしています。
小藥 納得感が実行力につながる。それが組織の力につながっていく、ということですね。
長岡 納得感とともに、健全な議論をしないと、いい打ち手が出てこない。フラットに議論して、いい打ち手をみんなで選んで、選んだら納得感をもってやるためにみんなで合意形成をしていようというのが、チームビルディングで大事にしていることですね。
小藥 それから横文字を使っていないのがいいですね。例えば広告会社の営業の肩書が、アカウントエグゼクティブになり、ビジネスプロデューサーになりと、価値を上げるために横文字を使うこともありますが、格好つけたはいいものの…という場合もあると思うんですね。ヤッホーブルーイングという社名だからこそこの言葉たちが生かされている。
長岡 かっこいい役職や肩書に憧れる時もありますが(笑)、弊社の場合、「それだと普通だよね」となってしまう。ヤッホーブルーイングらしさとして「知的な変わり者」という言葉を使っているのですが、一見変なことやっているように見えるかもしれないけれど、そこには意図や設計がある。出る杭は打たれるではなく、出すぎる杭は伸ばしていこうよと、自分たちの得意や強みを出すぎるくらいに伸ばしていく。それぞれの強みを生かしながら、弱みはそこを強みとして持っている他の人たちにおぎなってもらう。パズルのピースみたいにうまくはまると、すごく強いチームになるのだと考えています。それが会社全体のカルチャーとしてあり、その先の独自の活動にもつながっています。
小藥 「知的な変わり者」という言葉、いいですね。いつ頃から使われているのですか。
長岡 経営理念を共有し始めた頃からですね。私が最初にいた星野リゾートにもこれと似たような言葉があったんです。ヤッホーは星野リゾートグループの中でベンチャー的な勢いや立ち位置。ヤッホーブルーイング流につくりあげてきて、「知的な変わり者」という言葉に結実しました。新しいことを活発に切り開いていく精神が、企業カルチャーとしてもともとあったのだと思います。
ただし、これをどういうレベル感でやっていくのかはまだ課題がありますし、できているところとそうでないところがある。その中でも目指していくところ、理想像をみんなで共有していくことが大事ではないかなと思います。
小藥 お話を聞いていると、うまく進んだことばかりのように思うのですが、逆にうまくいかなかったところや課題はありますか。
長岡 うまくいかなかったところはありますが、アイデアがうまれてもうまいくいかないなら、そのときは潔くそれ以上やらない。それが別のかたちに進化していくこともあります。ヤッホーではさまざまなコミュニケーション施策があって、このようにマップにまとめています。
長岡 大人数でやるもの、コミュニケーションの量を増やすもの、質を高めるものなどで分けているのですが。ニックネームもコミュニケーション施策の一つです。弊社の活動の一つが、「YOY(ヨイネ! オブ ヤッホー)」。すごくいい活動をしているなと思った人を、お互いに紹介し合うんです。
当初は投稿でやっていたのですが、ハードルが高くて続かなかった。それをあらたまってではなく、「雑談朝礼」という仕組みの中でできるように設計しました。これを実施した意図は、仕事を円滑に進めるためにコミュニケーションの量を増やすこと。仕事が円滑にいくためには、コミュニケーションの貯金があったほうがいい。その人の人となりがわかったほうがフラットな議論もしやすい。
最近では雑談朝礼が進化して、毎週水曜日は仕事でお世話になった人に「ありがとう」を伝える日にし、朝礼で共有。それを本人に届けるために投稿できる導線をつくりました。うまく続けれないときはやり方を変えていきます。さまざまな改廃をしながら、どんどん進化しています。
小藥 大玉がひとつあって大きく変わりますではなく、日々の活動やカルチャーが積み重なって、どんどん変化をしていく。
長岡 これは人事部だけでやっていると絶対にだめですね。組織をいいものにしていくためには、当事者である一人ひとりの自分ごと化が大切。誰かがやってくれるのものではなく、自分でやっていくという当事者意識を一人ひとりが持つこと。さらに、よりよくするために「こういうのをやってみないか」という提案が還元される社風や文化があることが、いまのヤッホーブルーイングの大きな特徴かもしれません。
小藥 すべての会社が真似した方がいい、けれどこれは中々真似できるレベルではない ところに来ていますね。
長岡 真似するのは難しいでしょうね。何年も積み重ねてやってきたからこその強さだと思います。
小藥 本にも書いたのですが、「人事」という言葉が仕事や担当する人や社員を規定してしまい、視野を狭くしてしまっているところがあるのではないかと。そうでなくて「会社を盛り上げる」という側面に立てば、やるべきこと、やった方がいいと思うことは増え る。つまり未来が全然変わってくる。他の会社がヤッホーさんのようになれないのはなぜだと思いますか。「いや現業忙しいんで…」という社員が現れるのがすぐ目に浮かぶ のですが、おそらくそれも理念や文化が突破しているのだと勝手に思っています。
長岡 おそらく一つや二つは真似できると思います。だけど、やっていることが一個や二個じゃないんですね。それをやるのか、やらないのかの選択を何十もやらないと同じようにはできないと思います。トレードオフを伴う選択をしている、という話をよく社内でしますが、右をとったら左をとれないという覚悟をもって、それくらいぶっとんだことをやっていこうというのが会社として考えること。それが力でもある。一般化されない、独自の企業カルチャーもそうですが、何かを捨て、何かを取っているからこそのヤッホーらしさではないかと。
小藥 らしさがあるからファンもつくし、目にも留まるところなんでしょうね。それくらいの覚悟があると、他の会社とは明らかに違いが出て、模倣困難なんでしょう。
長岡 ヤッホーがいまのようなカルチャーになれたのは、もともとの独自性に加えて、何を捨て、何を残すのかを明確に続けてきた結果なのかなと思っています。
長岡知之 ちょーさん(ヤッホー盛り上げ隊 人事総務)
長野県出身。日本大学生物資源科学部卒業後、2003年株式会社星野リゾートにUターン就職。ホテルサービス業務を経て人事総務部門で3年間、評価報酬制度、社内研修などの運営を担当。2009年よりヤッホーブルーイングへ希望転籍。ファンイベント開発、受注事務、物流部門を経て、2015年より現職。採用、育成、組織開発、労務、総務といった人事系領域を広く担当。キャリアコンサルタント有資格。2児の父で趣味はゴルフ。
小藥元 クリエイティブディレクター/コピーライター
1983年1月1日生まれ。早稲田大学卒業後、2005年博報堂入社。2014年meet &meet設立。ブランドコンセプト及びコピー開発をコアに、様々な企業の事業定義、CI策定、ブランディングプロジェクトをリードする。主な仕事に、FIBA バスケットボール・ワールドカップ2023 テレビ朝日「1 歩、1本、日本。」、TikTok「もっと世界を好きになる。」、KAGOME「よろこびを、一から土から。」、NHK 連続テレビ小説『おかえりモネ』「晴れ、雨、進め。」、川崎市「Colors,Future!いろいろって、未来。」、岡山県「暮らしJUICY!」、ダイハツROCKY「新自由SUV」、アンパンマンこどもミュージアム「いっしょにわらうと、いっぱいたのしい。」、池袋PARCO「変わってねえし、変わったよ。」、マイケル・ジャクソン遺品展「星になっても、月を歩くだろう。」などのブランドコピー開発に加え、大ヒット商品「まるでこたつソックス」、人気サウナ宿泊施設「かるまる」、PARCO「パルコヤ」、コメダ珈琲店「ジェリコ」「小豆小町」「コメ黒」、モスバーガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、DAISO「THREEPPY」、Panasonic Homes「artim」、Google「肯定度」、YAHOO!「Yell Market」、clear「SAKE HUNDRED」などのブランドネーミング多数。
- 小藥元著『なまえデザイン』
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