コロナ禍を経てビジネス市場の概況や労働環境が変化した今、企業成長のためにはブランドの再構築や従業員の士気を高めるための“ビジュアルアイデンティティ”が重要になる。
国内最大級の規模を有するクリエイティブカンパニーの株式会社たきコーポレーションにおいて、2023年3月1日に新設したブランドデザインカンパニー「IGI(イギ)」は、パーパス×ビジュアルアイデンティティを掛け合わせたクリエイティブを通じて、企業のあらゆる課題の意義を具現化している。2023年6月14日(水)に開催されたセミナー「お客様の印象を変える!社員の行動を変える!ビジュアルアイデンティティの必要性と活用術」では、IGIのクリエイターがビジュアルアイデンティティの制作によって得られる効果を事例とともに紹介し、参加者自らロゴやクリエイティブの核となるブランドパーソナリティを考案するワークショップを実施した。様々な業種の参加者がビジュアルアイデンティティの基本と実践に触れたセミナーの様子をレポートする。
企業・ブランドのパーパスの具現化がもたらす効果
1960年に創業したたきコーポレーションは、多能的なカンパニー制の企業体制を活かしてグラフィックやWEB、UI・UXなどで高いクリエイティブ力を発揮し、国内外で様々なアワードを受賞してきた。IGIはそのなかでもブランドデザインに特化した社内カンパニーとして発足した。たきコーポレーションとしての長年にわたるブランディング・ロゴ制作実績をもとづき企業支援を推進している。
セミナーの第1部「ビジュアルアイデンティティの必要性と活用術」と題し、IGIのアートディレクター・大入将太郎氏がビジュアルアイデンティティ(以下、VI)の概要や効果、VIを構築するうえでのポイントを紹介した。
大入氏はVIを“シンボルマーク・ロゴ・ブランドカラー・指定書体・グラフィックエレメントなどのブランド価値を可視化したデザイン要素一式”と定義し、広く知られた有名企業のリデザインされたロゴに込められた意図や想いと、なぜリデザインされたのか、その背景を企業活動の視点から解説した。
さらに、VIの重要ポイントとして「理念の可視化、経営戦略との整合性、視認性の確保」の3つを挙げ、新事業の発足や事業整備といった企業の転換点でVIの見直しが必要だと語る。「『最先端の企業』を謳っていても、旧態依然としたVIではステークホルダーから『中身が伴っていない』と誤解される可能性がある。ブランドや事業などを刷新する際にはそれに合わせて“企業の見た目”もアップデートするべきだ」(大入氏)
“企業の見た目”の主となるロゴについて、「企業ロゴだけがロゴではない。サービスロゴ、周年ロゴ、プロジェクトロゴなど企業活動の様々な局面で用いられる」と語る大入氏。ロゴがもたらす効果について、JR東日本エキナカ自販機を中心に展開する飲料総合ブランド「acure(アキュア)」の事例では、ブランド内に複数存在したロゴを統一し、水の雫や波を想起させるグラフィックで企業価値を打ち出した。その結果、ステークホルダーやユーザーからも好評で、サービス認知度の向上につながったと説明する。
VIは認知度や売上のほか、企業理念やパーパス(存在意義)を従業員と共有し帰属意識をもたせるインナーブランディングにも寄与する。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の50周年ロゴの制作事例では、目的を組織内外のステークホルダーの関心を高めることに設定した。制作プロセスは、選抜された職員チームが開発したスローガンを全職員で投票。決定したスローガンが可視化された周年ロゴ案を募集。そこから応募案をたきコーポレーションのデザイナーがブラッシュアップを行い、全職員の投票をもって周年ロゴを決定した。ロゴを起点にパンフレットなどの周年施策に展開したところ、数ある施策のなかでも周年ロゴが組織における一体感の醸成、帰属意識の向上、職員一人ひとりの行動の明瞭化に貢献したと大入氏は話す。「VIが職員のモチベーション向上と一体感のある組織づくりにつながった事例である。また、組織が目指すべき姿の自分ゴト化・行動化を促す第一歩になったのでは」
「ロゴは企業ロゴだけではない。サービスやプロジェクトをロゴ化することで大きな効果が生まれる。」と結論づけた。(大入氏)
企業の理想像を起点としてVIの原石の見つけ出す
第2部はIGIのアートディレクター・木野村繁則氏が「知っていそうで知らないVIの基本的なこと」について講演した。ロゴ制作をスムーズに進行するうえで必要な知識、適切な進め方や留意点など、実務の参考となる情報で構成されたプログラムだ。
「ロゴの制作は特殊で、通常のデザインと比べて抑えるべきポイントが多い」と前置きする木野村氏は、IGIが運用する11の工程を紹介。企業の想いを体現するロゴに仕上げるためには、十分な制作期間を確保できるようクライアントの理解を得ること、現在展開されているロゴの状況を把握する視覚監査、ロゴの精緻化の重要性を説いた。「僅かな空間や輪郭などの機微がロゴの印象を大きく左右する。権利上使用できないフォントを用いれば一から作り直さなければならず、制作工程には様々なリスクも存在する。留意点に配慮しながらも、企業の理念や想いを反映することが正しいVIにつながる」と木野村氏は説明し、豊富な実績にもとづき円滑な進行を実現する重要性を示す。
第3部の「ブランドパーソナリティワーク」では、木野村氏が言及したVIを実現するうえで企業アイデンティティの定義づけを参加者が実践した。
IGIのフレームワークから『バリュー』を抜粋し、「在籍する企業は将来どんな強みをもちたいのか」から始まり、ブランドパーソナリティ、イメージカラーを考案してブランドパーソナリティを構築していった。セミナーのモデレーターを務めたIGIのカンパニー代表/ブランディングプロデューサー・井上元気氏は「強みに正解不正解はないので大胆な理想を書いた方がおもしろい。イメージカラーについては企業のイメージカラーがひとつ、もうひとつは補完的な色味を選んでみては」とアドバイスし、参加者は思い思いにブランドパーソナリティを描いた。
ワークショップで見出したブランドパーソナリティはさらに磨きをかけることで、ロゴなどのVIをはじめ、あらゆるクリエイティブ施策にも活用できる。ブランディングのエキスパートカンパニーによるセミナーは、参加者各々がVIの原石を手にするかたちで幕を閉じた。
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