広告・マーケティング領域におけるテクノロジー活用が進んでいるが、その活用を支えるのが新興のテックカンパニーだ。新たなテクノロジーは広告・マーケティングをどう変えるのか。月刊『宣伝会議』の連載「広告ビジネスを変える!ベンチャー企業の挑戦」の記事を一部抜粋して紹介。今回は、ポーランド発のアドテク企業であるRTB Houseを取り上げる。
※本記事は月刊『宣伝会議』2023年8月号より転載したものです
RTB Houseはダイナミックリターゲティング広告のDSPを提供するアドテク企業で、ディープラーニングAIを活用した広告配信を提供している。創業は2012年。ポーランド・ワルシャワに本社を置き、現在は世界30カ国、80カ所以上の拠点で4,000以上のキャンペーンを世界中のクライアントに対して展開している。RTB House Japanは2018年に設立された。
ダイナミックリターゲティング広告で成長してきた同社だが、サードパーティ Cookie利用の規制に伴い、プライバシーを保護した新しいリターゲティング技術の開発が必要になっており、同社はその技術開発に力を注いでいるという。
RTB Houseプライベート アド エコシステムチームリーダーのMateusz Rumiński 氏(以下マテウシュ氏)はポーランド本社でCookieレス配信の技術開発に取り組むひとり。5月に来日した同氏にも話を聞いた。
RTB Houseでは3年前から45名を超える専任メンバーがCookieレス配信の研究開発を続けてきた。具体的には近日中のサードパーティCookieサポートの廃止を表明しているグーグルが提唱する「Privacy Sandbox」の実証実験に参加をしている。
「Privacy Sandbox」 とはサードパーティ Cookieを用いずとも、広告のターゲティング配信など従来、Cookieを用いて行ってきた活動を、プライバシーを保護しながら、実現することを目指す複数のツール群のこと。RTB Houseはじめ世界のテクノロジー企業が、このコミュニティのメンバーとして参画をし、新たな技術が生み出されてきた。
ツール群のなかには「Trust Tokens API」「Protected Audience API( 旧FLEDGE)」「Topics API」、 広告効果を計測する「Attribution Reporting API」などがあるが、RTB Houseでは特に広告のリターゲティング配信にかかわる技術である「Protected Audience API」の開発に力を入れている。
マテウシュ氏は「すでに私たちが開発したプロトタイプを用い、サードパーティCookieを排除した形で広告配信の実証実験を行っているが、『Protected Audience API』に対しても機能するものであるという手ごたえを得ている」という。
従来のリターゲティング広告においては、ユーザーのCookieがアドサーバー側に送られていたが、「Protected Audience API」ではユーザーが利用するデバイスのブラウザ上に保存される設計となる。これにより、ユーザーのプライバシーを保護する仕組みだ。
それでは、この仕組みの中でどのようにリターゲティング配信ができるのだろうか。「サードパーティCookieが使用できなくなれば、自社サイトを訪れたユーザーが一度、サイトを離れてしまえば、その後を追えなくなってしまう。そこで、ユーザーの行動から興味関心を特定し、いくつかのグループでセグメントを行い、このグループの単位でのターゲティングで広告配信をしていく」(マテウシュ氏)。
また各ユーザーのグループ情報、企業サイト上での閲覧情報をユーザーのデバイスのブラウザ上に留めたまま、保存できるので、グループでのセグメンテーションであっても企業側は、より価値の高い顧客を把握することができるのだという。
今回、来日して日本の広告関係者と面会したというマテウシュ氏だが「日本では、まだサードパーティCookie廃止に対する危機感が低いのでは」という懸念を示す。また日本に限らず、現時点では大規模な実証実験が行えていないことも課題だという。
「DSPを提供する当社は、広告の在庫はSSPから仕入れる必要があるが、『Protected Audience API』に対応するSSPが少ないことで大規模な検証が行えていないという課題がある。しかし、このまま状況が変わらなければ、Cookieの代替としてフィンガープリンティングが浸透することになりかねない。これではCookieを使わないだけで、サイト横断でユーザーをトラッキングする行為自体は変わらず、プライバシーの保護は実現しえないと考えている」とマテウシュ氏は指摘した。