競合プレゼンの「何となくヤバそう」を回避するベテランの力

競合プレゼンに勝ち抜くために必要なことについて、職種別、また年代別に紹介する本連載。今回からは「ベテラン」編です。

競合プレゼンに勝つメソッドを詳しく知りたい方は書籍『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』をご覧ください。

最大の仕事は『負けフラグ』の事前回避

今回と次回のテーマは、勝てる「ベテラン」になる。ベテランだからこそ出せる味、ありますよね。「味」と言うと「人間性」のような概念で捉えてしまいますが、れっきとした再現性のある「スキル」です。

酸いも甘いも経験してきたからこそ、目的のために自分を犠牲にできるのが、勝てるベテランではないでしょうか。そんな視点から、ベテランだからこそ意識したいスキルをご紹介します。まだまだ自分は中堅と思っている皆さんにとっても、きっとお役に立つ内容です。

よく映画やアニメで「死亡フラグ」ってありますよね。「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」とか「先に行け!後で必ず合流する!」といったやつです。「これ100%死ぬやつだわ!」と、勘の良い人なら気がつきます。

ベテランの皆さんの使命は、競合プレゼン業務における「負けフラグ」を敏感に察知し、事前に回避することです。オリエンを受ける前からプレゼンが終わった後まで、そのすべての時間の過ごし方が競合プレゼンです。

個人的な感覚ですが、負けフラグは週に5回は登場します。1カ月間の戦いであれば、だいたい20回フラグが立つと思ってください。それくらい、競合プレゼンの一連の業務フローには、たくさんの落とし穴があるのです。その全てを事前に察知し回避するには、やはり艱難辛苦を乗り越えてきたベテランの経験則が必要です。

負けフラグとは、平たく言えば「何となくヤバそう」という感覚。これはプロジェクトマネジメント上、とても重要な感覚です。少しの違和感、ギクシャク、しっくりこない感じ。これらの些細な悪い予感を放置すると、後で必ず後悔します。

経験のない若手だと「自分の思い過ごしかな?」と見過ごしてしまいがちです。それを放置せず、チームに的確に警鐘を鳴らすことこそ、経験に裏打ちされたスキルそのものです。負けフラグの具体例については、書籍をご参照ください。

ベテランは意外と『事実』と『意見』を混ぜがち

続いて、ベテランが陥りがちな罠のご紹介です。ビジネスパーソンとしての基本中の基本なのですが、情報伝達・共有の際には「事実」と「意見」を区別することが大事です。特に初動の段階で変なバイアスがかかった情報が伝わると、取り返しがつかなくなります。

例えばですが、オリエンで言うところの「事実」とは、クライアントの発言や、オリエンシートに書かれている内容です。つまり、クライアントがどう思っているかです。そこに、オリエン参加者が自分なりの解釈を加えたのが「意見」です。

スキルと呼ぶにはあまりに基本的なことなので、これを聞くと大多数の人は「自分は当然出来ています」という反応を示すのですが、私は正直、かなり怪しいと思っています。特に、クライアント担当歴の長いベテランの方は注意してください。

良くも悪くも、クライアントを知り尽くしている(つもりになっている)ベテラン社員は、「クライアントの考え=自分の考え」と信じ切っています。そうすると、情報伝達の際に「自分の意見」をあたかも「クライアントの発言」のように伝えてしまうことがあります。典型的な「だろう運転(決めつけによる意思決定)」です。無意識で悪気がないだけにタチが悪いので注意してください。

私がオリエン内容を間接的に聞く際は、徹底的に「事実」と「意見」を分離するために、しつこいくらいにオリエン出席者に問いただします。「それは、あなたの意見じゃないですか?」「クライアントがそう発言したのですか?(事実ですか?)」「オリエンシートのどこに書いてありますか?」「それ、本当に確認したのですか?」 情報を伝える方も、聞く方も、双方が徹底したいポイントです。

あえて『摩擦』を起こすベテランは素敵

会議には分科会と全体会議があり、双方を使い分けながら業務を進めていくわけですが、そのとき往々にして起こりがちなのが、全体会議が単なる「情報交換/確認」レベルに留まってしまい、「議論/意見交換」レベルに達しないことです。

全体会議で様子見をする人が多いようだと、それは負けフラグです。「分科会で言えばいいや」「その方が角が立たないだろう」と思っていたら、認識を改めた方が良いでしょう。全体会議でこそ、良い意味で空気を読まずに、言いにくいことを言う。言い合える全体会議にする。それが勝てるチームの会議です。逆に、波風が立たずに業務が進行しているときほど、負けるリスクが高まっているとも言えます。

競合プレゼンでは、チームビルディングをする時間の余裕はありません。見方を変えれば、競合プレゼン業務を通じて、走りながらチームビルディングしていくとも言えるでしょう。摩擦を起こす人は、はっきり言って嫌われます。でも、勝つために必要なアクションです。目的のために自分を犠牲にできるのが、勝てるベテランのあり方。自分が悪役になっても、明確な意図を持ってチームに「摩擦」を起こせるベテラン社員、私は素敵だと思います。

次回は、想定問答の作成からプレゼンの結果が出た後まで、ベテランの役割をさらに掘り下げていきます。

(8月24日掲載)

ベテランだからこそ果たせる役割がある

広告業界やコンサルティング、ITなどのビジネス現場で行われている「競合プレゼン」「コンペ」「ピッチ」に勝ち抜く100のメソッドを体系立ててまとめた一冊です。ライバルに勝つためのポイントについて、提案の中身やプレゼンテーション技術ではなく、勝つ「環境を整える」点に着目。競合プレゼンが始まる前の「兆し」から始まり、オリエン、キックオフミーティング、ストーリーづくり、軌道修正、プレゼン当日、事後までのフェーズごとに、行うべきこと、注意すべきことを丁寧に解説しています。

2023年3月20日発売/定価:2,420円(本体2,200円+税)/A5判 344ページ

 
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鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)
鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

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