コンサルティング会社から転身し、市役所へ。顔の見える広報を実践したい 「自治体広報の仕事とキャリア」リレー連載 加藤泰正(東大和市)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。広島県三次市の本多理恵さんからバトンを受けて、東京都東大和市の加藤泰正さんに登場いただきます。

Q1 現在の仕事内容について教えてください。

秘書広報課では広報広聴と秘書を所管しています。具体的には、月2回の市報の発行や報道機関との連絡調整、市民から寄せられる意見・要望への対応のほか、市長・副市長の秘書などを範囲とし、所属職員の業務分担最適化・進捗管理等を行っています。

Q2 広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

市報の編集・発行、市公式ホームページの管理・運営、市公式SNS(Twitter:現・X、Facebook、LINE)やYouTubeを活用した動画チャンネルの管理、報道機関との連絡調整、イベント等での写真撮影などを領域としています。

Q3 ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」について教えてください。

発信する情報を作成する過程における「顔の見える広報活動」を重視しています。

広報の仕事は、市役所内外を問わず多くの関係者の協力により成り立っています。仕事が忙しくなると、デスクワークが中心となってしまいがちですが、日々の業務を「作業をこなす単なるルーティン」としないためにも、広報担当は可能な限り現地へ足を運び、関係者と膝を突き合わせて話をするべきと考えます。

時には、勇気をもって知らない相手の懐にいきなり飛び込むことも必要です。すぐに成果に結びつかない地道な活動となりますが、活字や映像の背景にある「人の想い」や「空気感」、「現場の肌感覚」を大切にしています。自身の活動範囲を可能な限り広げ、様々な関係者と良好な関係を構築することで、効果的な広報活動が実践できると信じています。

Q4 自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性について教えてください。

職員のノウハウの継承が課題のひとつに挙げられます。自治体では数年ごとの人事異動がつきもので、当市の場合、職員は概ね3~5年に一度、職場の異動を経験します。広報担当部署に配属される職員は、広報の経験がない職員がほとんどです。市報や市公式ホームページ編集のためのシステムの操作など専門知識やスキルの獲得が必要であり、全ての工程を一人でできるようになるまでに、ある程度の期間が必要になります。広報担当部署に限らず、自治体組織全般に言えることかもしれませんが、人事異動による仕事の質の低下をなくすための仕組みを日々模索しています。

また、メディアの多様化への対応も重要です。当市の広報用のメディアは、市報などの紙媒体だけでなく、メールやウェブ、SNSなども含まれます。より効果的な広報を実践するためにも、各メディアのメリットとデメリットを考慮し情報発信を行う必要があります。

多様化したメディアと向き合い、どうやって他自治体と差別化を図り、いち早く横並びから脱却することができるのかが、もっぱらの悩みとなっています。

一方、自治体広報では、取扱う内容が行政情報や災害情報など多岐にわたり、多くの人々の生活や生命に直接影響することは大きなやりがいに繋がります。

わかりやすい広報を実践することが、行政サービスの周知や利用促進、必要な行動を促すきっかけとなると思いますし、地域資源を活用したイベントや特産品、観光スポット等を発信することで、地域経済の活性化や観光振興にも寄与できると考えています。外部に発信する情報は、正しく伝えなければなりませんので、細心の注意を払いますが、テレビや新聞で取りあげられ、市民から「○○を見て、今後ぜひ行ってみたい」「知りたい情報が載っていて助かる」といった声が寄せられると、今後の励みになります。

市報のデザインやレイアウト・配色など、アイデアやセンスを活かすクリエイティブな一面もあり、作り手の手腕によって「単なる文字」が「呼吸する文字」として生命を与えられ生まれ変わる楽しさがあります。ただし、情報の量を増やすだけでなく、その質も求められるようになりますから、「わかりやすさ」、「信頼性」、「有用性」など、伝える質を高めることを意識しています。

今後の可能性として、デジタル技術の活用、特にAIの躍進に期待を寄せています。市報の校正や記事の掲載漏れ・レイアウトの最適化はもとより、Web上のネット検索やSNSの投稿状況、市公式ホームページの閲覧状況等により、市民の潜在的なニーズの把握や興味を持つトピックを予測し、今すぐ発信するべき情報の候補をAIが提案するなど、先進的なデジタル技術を活用することにより、人に依存しない業務の質の確保が実現できるのではないかと考えています。

また、デジタル技術の進展により、例えばLINEのセグメント配信など、一人一人の興味や関心に応じたパーソナライズされた情報発信が、当然の世の中になりつつあるため、自治体広報においても多様なターゲットとのエンゲージメント(関係性)を意識した活動が求められていると感じています。これまでの「話題づくり」から「価値づくり」へと変わる自治体広報の役割は、今後ますます重要になってくるのではないかと思います。

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東京都東大和市
企画財政部
秘書広報課長
加藤泰正氏

銀行系シンクタンクに入職後、民間企業向けコンサルティング部所に配属。第1子誕生を機に基礎自治体への転身を決意し、2004年に東大和市役所に入所。情報管理課、市教育委員会で主事・主任、企画財政部秘書広報課秘書係長、総務部文書課長の後、2年間、東京都市長会事務局に派遣を経験。2023年4月、企画財政部秘書広報課長として帰任し現在に至る。




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