Apple最強説? 2023年の海外広告賞を読み解く(電通 岡村雅子氏)

2023年の国際広告関連アワードの結果が6月に出そろった。それを受けて、今とこれからのクリエイティブをどう読み解くべきか。アワードの審査員や現地視察に赴いた人々、海外事例を定点観測しているクリエイターに、今年のアワードの結果を受けて気になる事例、AI関連トピック、注目のキーワードなどを聞いた。

月刊『ブレーン』2023年9月号では、総勢31人のクリエイターたちの回答から注目事例やキーワードを抽出。これからの広告クリエイティブにおいて押さえるべきトピックとは?

詳細はこちらからご覧ください。

  • 【特集の回答者(五十音順)】
  • 浅井雅也、阿部光史、荒井信洋、石井義樹、石川俊祐、石原 和、泉家亮太、井口 理、岩崎亜矢、岡村雅子、小川信樹、小田健児、金箱洋世、木村健太郎、窪田新、小山真実、佐々木康晴、嶋浩一郎、杉山元規、鈴木佳之、関谷アネーロ拓巳、多賀谷昌徳、田中直基、谷脇太郎、張ズンズン、出村光世、中島琢郎、萩原幸也、平井孝昌、細田高広、松宮聖也
  • 〈回答者〉
  • 「The One Show 2023」 フィルム&ビデオ部門審査員
  • 電通 クリエーティブディレクター 岡村雅子氏。
写真 人物 岡村雅子氏

「Apple最強説」

――2023年に結果が発表された国際広告関連アワードの入賞作またはエントリー作品の中で、特に注目した事例は。

1、Apple「The Greatest」

  • (Apple(London)+Apple(Cupertino))
  • The One Show:Best of Show、Best of Discipline(Brand-Side/In-House部門)ほか
  • カンヌライオンズ:エンターテインメント(For Music)部門グランプリ、フィルムクラフト部門ゴールドほか

ハンディキャップのある人が出る作品といえば、Channel4が2012年のロンドンパラリンピックに向けて制作した90秒のCM「Meet The Superhumans」を思い出します。

しかしAppleの場合、障害のある人を英雄視するのでなく、Apple製品の扱いやすさを描く最適なキャストとして起用しました。「I am the greatest」と歌い込む歌詞も、人間賛歌で良いですね。

本作に限らず、ダウン症や身体に不自由(disability)がある人などを描く作品はますます増えていますが、その中で“その可能性が商品にフィットするからこの人を選んだ”という、「This ability fits the function」的な描き方をしているのが本作の好ましいところです。他にadidasの「Runner 321」などもそうでした。

またこの他にも、Appleは「Relax, It’s iPhone – RIP Leon」「Action Mode」「Quiet the Noise」「Data Auction」「The Hunt」「Share the Joy」といった動画を公開。ほとんどが世界中で放映され、広告賞でも入賞が重なりました。

iPhone 14「R.I.P. Leon」。
AirPods Pro「Quiet the Noise」。
AirPods Pro「Share the Joy」。

誇れる機能があること、誰でもわかる純度の高いアイデアを出すクリエイタ―たちがいること。この2つがあると最強なのだなと戦慄を覚えました。これは他の企業がやろうとしてもできないこと。ちなみに「The One Show 2023」Film&Video部門の審査員のスマホでも、やはりiPhone一人勝ちでした。

2、Monde Nissin/Voiz「The Innocent Eyes」

  • (Ogilvy Group Thailand+Factory01)
  • The One Show:フィルム&ビデオ部門グランプリ

お菓子の広告は激戦区。本作は「おいしすぎて分けてあげたくない」という気持ちをテーマに、人間の煩悩と仏陀の教えを、子どもというキャラクターで純化しつつも毒っけたっぷりに描くところが新しかったです。タイのCMの発展形を見ました(ただ、目をつついたり殴ったり蹴ったりといったシーンは、日本ではオンエアできないと思います……)。

「The Innocent Eyes」

3、Grupo Estratégico PAE「Morning After Island」

  • (Ogilvy Honduras+14 al Centro Latam)
  • The One Show:カルチュラルドライバー部門・パブリックリレーションズ部門グランプリほか
  • カンヌライオンズ(2022):グラス部門グランプリ

同意なき性行為を強要された女性が事後避妊薬を飲むと、ホンジュラスでは牢獄に入れられてしまいます。それなら国を出たところで飲ませればいい!というシンプルかつ大胆なアイデア。領海を出て、公海に簡単な島をつくりそこで女性たちにMorning after Pill(緊急避妊薬)を飲ませる。この動きが世論を動かし、ついに大統領も動かしました。

「Morning After Island」。

審査員の多様化進む

――The One Showのフィルム&ビデオ部門で審査を担当されました。作品の傾向や、審査時に感じたことは。

「笑いの復活」。コロナ禍でいくつかの広告賞を審査しましたが、いかにコロナと闘うか系の広告が極めて多く、見ていてくたびれました。今年は解放感が戻りつつある世相を反応したのか、ユーモアや旅行をテーマにした作品が増えて、業界復活の兆しを感じました。

アメリカからはSuper Bowlでオンエアされた明るめの作品が多数エントリーされていました。The One Showではフィルム&ビデオ部門歴代最大の応募数だったと聞いています。

――審査の際に議論になったことは。

The One Showの場合、最終段階までは単に見て投票するだけで議論はありません。理由は審査員の個性を尊重するため。だからカテゴリーごとの審査委員長もいないんです。

Best of Bestを決める際、前掲のタイの「The Innocent Eyes」と、欧米制作の予算をかけた大作Aとが一騎打ちになりました。応援演説の際「アジアはスキャムだらけ」「予算をかけていないから簡単」などと発言する審査員が数人いて呆れました。「Aは素晴らしい。しかしこれで若い世代がインスパイアされるかどうかはわからない。むしろ発想の原点に注目すべき」と部門唯一のアジア審査員として発言したら、運よく流れが変わり、タイが勝ちました。

また審査に関連して、どの広告賞でも女性審査員が確実に増えていると感じます。The One Showの場合、私が初めて審査員になった2006年は、審査員21人中、女性は4人でした(ちなみに当時は21 人で全カテゴリーを審査した)。

今年はプエルトリコで審査をし、参加した11人中6 人が女性。なおLGBTQ の多様性も進んでおり、前夜祭や食事の際などにパートナーを同伴して紹介する人たちも。あまりに普通な流れで、会話の内容も多岐に及びました。視点が多様化するのは本当に刺激的です。

――生成AIに関して審査の過程や現地で話題になったこと、ご自身が注目されていることは。また、今後クリエイターと生成AIの関係はどのようになると考えますか。

審査を担当したThe One Show は締め切りが他の広告賞より早く、カンヌほど生成AI 系エントリーはありませんでした。個人的に良いと思ったのは、菓子・飲料メーカーであるCadburyの「Shah Rukh Khan-My Ad」(カンヌライオンズのクリエイティブエフェクティブネス部門グランプリ)。ボリウッドの大スターであるシャー・ルク・カーンを起用したテレビCM をつくり、生成AI と位置情報を活用して、広告予算の無いインド中の小売店が自分用にカスタマイズしたCM をつくれるようにしたものです。これは生成AI の正しい活用方法。AI も良いプロンプトから学べて、その結果人間もハッピーになれる共存共栄の時代が一番だと考えます。

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「Shah Rukh Khan-My-Ad」。

月刊『ブレーン』2023年9月号

表紙 ブレーン9月号

  • AIの民主化で際立つ人間・文化の視点
  • 世界のクリエイティブ
  • ▼31人のクリエイターに聞く海外アワード2023
  • ●時代を映す注目事例とキーワード
  • ●海外アワードに見るAIとの共創の可能性
  • 〈回答者〉(五十音順)浅井雅也、阿部光史、荒井信洋、石井義樹、石川俊祐、石原 和、泉家亮太、井口 理、岩崎亜矢、岡村雅子、小川信樹、小田健児、金箱洋世、木村健太郎、窪田新、小山真実、佐々木康晴、嶋浩一郎、杉山元規、鈴木佳之、関谷アネーロ拓巳、多賀谷昌徳、田中直基、谷脇太郎、張ズンズン、出村光世、中島琢郎、萩原幸也、平井孝昌、細田高広、松宮聖也
  • ▼AI活用の前に理解しておきたい
  • 国・地域で異なる「文化的価値観」
  • (文:渡邉寧)
  • ▼審査員と応募者双方の視点からひも解く
  • 企画の見方
  • 八木義博
  • ▼海外アワード2023日本の受賞作品
  • ▼ヤングカンヌレビュー
  • 受賞へのあと「一歩」は?
  • 【AITOPICS】◎新コーナー
  • ・調査
  • クリエイターのAI活用実態調査262人の答え
  • ・OPINION
  • 生成AI時代のテクニカルディレクション(文:岡田太一)
  • 【第11回BOVA】
  • 11月からスタート!
  • 【UP TO WORKS】
  • ・味の素/CookDo®オイスターソースレタス保存新聞、CookDo®オイスターソース、「奇跡の肉野菜炒め」篇、「CookDo®オイスターソース瞬間消滅レタス」篇
  • ・キリンビール/一番搾り糖質ゼロ「庭仕事のあと」篇、「フライドポテト」篇
  • ・江崎グリコ/カフェオーレ「そ、朝飲むの」篇
  • ・サントリー/サントリージン「翠(SUI)」「ホアジャオな出会い~それはもう、流行っちゃうかも~」篇
  • ・鹿屋市/ふるさとPR課「土用の『うしの日』問題」
  • ・WACK/BiSH「#BiSHからの手紙広告」
  • 【SPECIAL】
  • 注目のU35クリエイター/フラックス
  • 青山デザイン会議
  • テーマ:「怖い」気持ちをデザインする方法
  • 大垣ガク×清水崇×日比健
  • 【PICK UP】
  • フジパン「本仕込」
  • 池田模範堂「デリケアエムズ」
  • 【CONTENTS】
  • ・C-1グランプリ
  • ・CMの裏側/ハーゲンダッツジャパンクリスピーサンド「音まで贅沢」篇
  • ・デザインプロジェクトの現在/minna
  • ・今月のブックマーク/せきゆおう
  • ・STAND THE FLAG/岩手県、福岡県、鹿児島県、徳島県
  • ・心に残ったプレゼン術/雪印メグミルク
  • ・名作コピーの時間/永野弥生(電通九州)
  • ・クリエイターおすすめのブック&マガジン/クラナガ
  • ・デザインの見方/佐藤夏生
  • ・SPECIALIST NAVI/福島節(音楽プロデューサー)
  • 【連載】
  • BRAIN’SBRAIN(今月のカバーストーリー)/Ordinary People
  • QUESTION/「やっぱりこれじゃないと」リピートし続けている自分的名品は?
  • CREATIVE NEWS
  • 犬馬難鬼魅易/文:仲畑貴志
  • EDITORSCHECK/「田んぼシリーズ『水を編む-アグリロード-』」パッケージ/「鈴木三郎助全広連地域広告大賞」トロフィー/東直子『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』装丁
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月刊『ブレーン』9月号 「AIの民主化で際立つ人間・文化の視点 世界のクリエイティブ」
月刊『ブレーン』9月号 「AIの民主化で際立つ人間・文化の視点 世界のクリエイティブ」

8月1日発売、月刊『ブレーン』9月号の特集は、「AIの民主化で際立つ人間・文化の視点 世界のクリエイティブ」です。2023年の国際広告関連アワードの結果が出そろいましたが、重要なのはそれを「どう読み解くか」、「そこから何を見出すか」です。今号では、アワードの審査員や現地視察に赴いた人々、海外事例を定点観測しているクリエイターを含む、総勢31人のクリエイターたちにアンケートを実施。実際の審査で議題に上がったポイント、注目事例やキーワード、各賞で話題になった「生成AI」への考え方などを聞いています。詳細はこちらからご覧ください。

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