一人一人の意識の変革が新しい企業の形をつくっていく
研究会の冒頭でFRACTAの松岡芳美氏は、2回目のテーマとして、社会環境の変化に合わせ、事業内容をも変革させなければならない時、従業員の意識をどう変革させるのか。また、そこにおけるインターナルコミュニケーションの実践論とはどうあるべきか?について議論をしたいと提示した。
青山商事でリブランディング推進室長を務める平松葉月氏は、事業変革を加速させるインターナルブランディングの実践論について次のように考えを述べた。
「紳士服の販売で成長してきた当社ですが、リモートワークの普及をはじめ、働く環境が変わる中で、顧客に対する提供価値を見直す必要に迫られています。事業変革が求められていますが、この変革とはお客さまとの接点や関係性が変わる、そして変えることだと考えています。当社の場合、全国の店舗で多くの従業員がお客さまとの直接接点を持っていますが、だからこそお客さまとの関係性をどう変えていくべきなのか。社員一人ひとりが自分で考えて実践・行動できるようになる必要があります。それゆえ、リブランディングそして事業変革において、インターナルブランディングは非常に重要だと考えています」。
大丸松坂屋百貨店の岡崎路易氏からも、百貨店ビジネスにおける事業構造の改革の必要性が指摘された。「百貨店はもともと、非常に地域に密着した存在です。私自身、本社に来る前は出身地である神戸大丸で働き、地元で働けることにやりがいを感じていました。もちろん、そうしたマインドで地域密着の店舗で働く従業員の存在も重要です。一方で国内の市場環境を見れば、ECなどを通じて、グローバル市場でも戦えるような事業をつくっていく必要性に迫られている。百貨店という事業モデルを大きく進化させようとしているタイミングにおいて、従業員の意識変革を促すインターナルコミュニケーションを重要視しています」。
Mizkan Holdingsの佐藤武氏は、同社のこれからのビジョンを体現するような事業とも言える「ZENB」事業のマーケティングリーダーを務める。事業・ブランドの存在そのものが、従業員に対して企業の未来についての理解を促す象徴となっていると言えそうだ。ZENB事業の成功の先には、ホールティングスとしての従業員のマインドセットの変革という目標も見えてくる。そんなミッションを負う佐藤氏はインターナルコミュニケーションについて次のような考えを示す。
「当社には約200年の歴史があるので、現在に至るまでに数々の事業変革を経てきたのだと思います。事業変革は企業経営の中で、当たり前のように行われてきたこと。ただ、現代の社会環境における事業変革では従業員の価値観にまで影響を及ぼすような変革が求められるようになっていると感じています。それゆえインターナルコミュニケーションの役割はさらに深く広くなっていくと思います」。
オフライン店舗のショッパーとスタッフの店内行動分析ソリューションを提供する、GRoooVEの田村善幸氏は経営トップとしてインターナルブランディングを推進するにあたり「CtoB」という概念を大事にしていると述べる。企業発、トップダウンではないコミュニケーションの在り方を模索しているのだと言う。
多様な人材をつなぎとめるためのダイバーシティ戦略とインターナルブランディングの推進は相反するのではないか、というテーマも提示された。企業変革時においては、過去の成功体験にとらわれない多様な価値観を持った従業員の存在が欠かせない。一方で、インターナルブランディングにおいては、組織内におけるVALUESなどの浸透に迫られるからだ。
ミツカンの佐藤氏は、「ビジョナリー・カンパニーとして、絶対にぶらしてはならない芯となる部分をミツカンらしい行動軸として評価項目にも取り入れている。『ミツカンイズム』をゼロから100まで伝えられるわけがありません。だからこそ、これまでの歴史の中で、特に変革に関するチャレンジブルな事象を例示しながら、その本質となるワードを伝えることにしています」。
GRoooVEの田村氏は、米軍横田基地で運営管理に携わった経験から次のように述べる。「米軍や海外企業におけるMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)は極めてシンプルで、ひとことや二言程度の場合が多いです。その言葉がシンプルでジェネラルなものであるほど、ダイバーシティやグローバル性において広がりを持つわけです」。
大丸松坂屋百貨店の岡崎氏も、その意見に賛同する。「当社の場合、300年前からある大丸の社是、『先義後利(自らの利益を後にするものは栄える)』と、400年前からある松坂屋の社是『諸悪莫作、衆善奉行(諸悪を犯すなかれ、善行を行え)』が存在します。これらは同じく”お客さまに対して良いことをしましょう”というシンプルなメッセージです。そうした基盤があるからこそ、300年、400年の歴史を持つ企業が経営統合しても今の時代に適応できるのかな、と思います」。
青山商事の平松氏は、多様性への適応とインターナルブランディングの推進がぶつかりがちな理由について次のように見解を提示した。「インターナルブランディング施策を進めていくと、従業員のみなさんが『今やっている行動を強制的に変えさせられる』という印象を持ちがち。本来は、そんなことはなくて、同じ判断軸を持って同じゴールを目指しさえすれば、その目指し方は何でもかまわないわけです。そして、こうした活動が組織内の多様性維持へとつながっていく。企業としてそこまで至っていないからこそ、インターナルブランディングに注力する必要があるのではないでしょうか」。
最後にFRACTAの松岡氏は、次の研究会につなげていきたい要素として「人」を挙げた。インターナルブランディングに関する議論は第3回研究会に続く。
第2回研究会を終えて
前回と同じく今回も素晴らしい方々にご参加頂き、大変有意義な時間となりました。皆さま屈託なく明るい声色で、熱く自社のことを語ってくださいます。一方で冷静に且つ客観的に自社のことを見つめてもいる。インターナルブランディングが、このような熱さと冷静さの両方をもった方々に進められることによってうまくいくのかもしれない、と改めて気付かされた回でした(松岡芳美)。
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