『テニミュ』作詞家に聞く、心に届くことば

9月1日から、第61回「宣伝会議賞」の募集が開始になりました。本コラムでは、第61 回の開催を記念した特別コラムとして、「ことば」の力にフォーカスを当てていきます。コピーライティングの枠組みにとどまらず、「ことば」というものに多角的な側面からアプローチ。各業界のプロフェッショナルに、「ことば」との向き合い方について伺います。第1回は、声優であり、作詞家としても活躍する三ツ矢雄二さんのコラムです。

声優・マルチクリエイター
三ツ矢雄二

1954年10月18日生まれ。愛知県、豊橋市出身。中学生の時に国際児童劇団に入り、子供向けドラマでデビュー。アニメでは『超電磁ロボ コン・バトラーV』(主役・葵豹馬役)でデビュー。代表作に、『タッチ』(上杉達也)、『キテレツ大百科』(トンガリ)などがある。また、声優以外にもミュージカルの作詞、バラエティー番組出演など多方面にて活躍中。

言葉選びはチャレンジの連続

私は声優をしていますが、その傍らミュージカルの作詞も手掛けています。レギュラーで関わっているミュージカルは『テニスの王子様』で、いわゆる2.5次元ミュージカルと言われるものです。

『テニスの王子様』(原作・許斐剛)は1999年に週刊少年ジャンプで連載が開始され、その後、2003年にミュージカル化。続編にあたる『新テニスの王子様』も含め20年にわたり再演を重ね、私が作詞した歌も200曲を超えました。

『作詞』は『ポエムの詩』とは大きく異なります。『詩』は作者自身の心情のままに描くことができますが、『作詞』はストーリー上の状況や設定があって、その曲を歌う人物(役)の心情を描きます。また作詞の場合は、曲にあわせて1番と2番で文字数を揃える必要があり、選ぶ言葉にも制約が生まれます。

さらに『テニスの王子様』のミュージカル作品の作詞にあたっては、原作と言う縛りもあります。そして、登場人物の気持ちになって言葉を選ばなければならない。登場人物分の立場や思い、物語の進行状況を把握していなければ言葉を紡ぐことはできないのです。

ミュージカルの作詞の中に私はいるようでいない。私の心情が作詞に反映されてはならない。ミュージカルの作詞の場合、あくまで登場人物になり切って描き上げなければならないということです。

作詞するためには、原作を何度も読み、上演台本を何度も読み、登場人物全員の性格や言葉遣いなどのキャラクターを自分の中に叩き込む必要があります。

そして物語がどのように流れているか、どこにクライマックスがあるのか、どこに遊びがあるのか、どこに敵対心があるのか、どこに友情があるのか…などなど、自分の脳みそに叩き込みます。

そして、台本に指定されたシーンに詞を書き、言葉を一つ一つ、紡いでいきます。

作詞をするとき一番気を遣うのは、『歌う役者がその心情にシンクロしてくれるか』ということと、『それを聞いた観客が歌っている登場人物の心情を理解してくれるか』の2点です。

そして技術的な面では、ひとつのミュージカル作品内で使用される曲では同じ言葉は使わないようにしたり、逆に同じ言葉の反復でテーマを印象付けたり。演出家から、何を詞に求められているかを理解することも重要です。

このとき、原作や台本にはない言葉をいかに紡ぎ出すかにチャレンジしたい。歌の中にどんなドラマを描くことができるのか。観客の期待をいかに上回る詞が描けるか。毎回、言葉選びはチャレンジの連続です。

短縮された言葉でもそこには不変の事実がある

私は声優という職業柄、言葉には敏感な方だと思います。言葉は時代によってどんどん様相が変わります。

最近は、なんでも言葉が短縮され、一度聞いただけでは何のことを言っているのか分からない時があります。またカタカナやアルファベットの言葉も増えてきました。

言葉の様相が変わっても、その言葉に込められた意味は変わりません。物の名前を言う時と自分の感情を言う時、短縮された言葉でもそこには不変の事実があります。

言葉とは、書かれた物を読む時は読み手の意識が大きく作用します。特に短い言葉の場合、相手の喜怒哀楽をどう感じ取るかは読み手の気持ち次第です。

しかし、話し言葉の場合は、相手の表情やフォローされる言葉で、より明確に言葉の意味合いを知ることができます。

声優として台詞を言う場合、いかに感情を伝えるか、物語を進めていくかを大切にしています。相手と対面して、その言葉(台詞)の意味をより明確に伝えるイメージです。

声優と言うと、皆さん『声』に集中しがちですが、私は、声優にとって一番大切ことは『台本を読む力』だと思っています。それは作詞をする場合でも同じです。

台本に書かれた夥しい言葉の中から、演技を、歌を、構築していく。そこに込められた感情を物語に載せて表現する。

それが私の仕事だと思っています。

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宣伝会議 編集部
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