落語家
立川かしめ
落語立川流立川志らく門下、立川こしらの総領弟子。アサツーディ・ケイ(当時)から脱サラし入門。入門直後に命名権をヤフオクに出品され、アイドル仮面女子が落札。『落語界の異端児』師匠こしらの洗礼を受ける。1年ほど立川仮面女子として活動後、トライアルを経てコロナ禍真っ只中の2020年に二ツ目に昇進。昇進披露を国立演芸場にて前代未聞の配信で行い注目を集める。現在は舞台、映画、イベント、ラジオパーソナリティ等、落語の楽しさを伝えるべく幅広く活動中。
「するってェと、ナニかい。」以外で「江戸感」を出す
現代社会を生きていると「もう少し江戸感、出せたらなぁ」という時、結構ありますよね。ではここで質問です。
Q.会話の中で“江戸っ子”の雰囲気を出すにはどうしたらいいでしょう。
広告会社を辞めて落語家になり早8年。その間、この質問が飛んでこなかった年は、あのコロナ禍ですら存在しませんでした。
老舗旅館のコピー、江戸を舞台にした映画の告知、合コンで歴女が来たとき、新橋のパセラでうっかり八兵衛のモノマネを振られた時。活用シーンは多岐にわたります。そんな時はない?いやいや、そんな訳ありません。ないと思うのであれば、あなたが気づいていないだけ。日本人の心には何処かに必ず「和を重んじる」気持ちが隠れています。和を以て尊しとなせ。親から耳にたこが出来る程言われてきているはずです。
先に言っておきますが、「するってェと、ナニかい。」というのはNGです。これは自発的に発せられる“江戸”ではなく、相手からの初動に対し買い文句として発せられる“江戸”だからです。
「大江戸温泉物語」という単語もタブーです。ある種、大江戸温泉を語るということは江戸っ子でないということの証明になってしまうからです。皮肉なものですね。
さあ、皆様の中で答えはできましたでしょうか。では、お待ちかねの解答の発表です。
正解は、A.熟語を使わない
ということです。それだけ?まあ、熟語を使わなければすべてがそうなるというわけではないですが、かなり印象が変わります。
①「何回だって往復して挑戦してやらァ!」
②「何べんだって行って帰ってして挑んでやらァ!」
どうですか。①だとスポ根マンガの主人公が地元の心臓破りの坂に挑んでいる様が思い浮かびますが、②だと突然江戸っ子が振られた女郎のもとに足繁く通う様が浮かんできますよね。
文字だけで人の興味を引くことの難しさ
ここまで読んでいただいて有難う御座います。改めまして立川かしめと申します。落語家をやらせていただいてます。さて、ここで私が伝えたいこと、それは「文字だけで人の興味を引くことの難しさ」です。
我々落語家はもちろん落ちのある話を語ることを生業としています。落語本編が芸の見せ所。しかしながら落語にすぐ入ることは稀で、その前には「枕」と呼ばれるフリートークをしてから本題に入ります。そうしないと聞いてもらえない事が多いからです。
誤解を恐れずに言うと、落語というのはとても“弱い”芸能です。目の前で着物を着た一人の人間が座布団に正座して話をしてるだけ。派手な音響や照明はもちろん、衣装やステージにも細工はしません。
しかも舞台には一人だけ。自分の話を聞いてもらうには、いかにして自分自身にお客さんのアテンションを惹きつけられるかが勝負です。勝負なんですが、生でやると本当に言葉の脆弱さに打ちひしがれます。話すだけではとても無理。抑揚や、表情、間やテンポを駆使してようやく少し聞いてもらえるレベルです。活字、文字だけで戦うなんてゾッとします。私が有名であればそんなに苦労しないんでしょうが。それはないものねだり。
広告会社で勤務していた当時は営業をしていましたが、新たな提案を口頭でする時、企画書を作る時、言葉を繰らなければならない場面は多々ありました。ビジネスの場では退屈や無関心をそこまであらわにされることは少ないため、今ほど言葉を使うことの難しさを感じてはいなかったと思います。
たらたら語ってますが、本当はこの前提の話を最初に伝えたかったんです。でもね。もしこれを出だしに書かれてたら多分最後まで読まないですよね。だって皆さん、落語に大して興味ないもん。あと悲しいかな私にも。
せっかく書くなら出来れば最後まで読んでもらいたい、その一心で出だしに中身はないけど興味を引きそうな話をしました。極力ノイズを多くして、目がざらつくような、おおよそ文字書きに慣れた方々は使わないであろう言い回し、文体で。中身がなくてすみません。でも、私が口調も言い回しも声色も奪われたらこれくらいしないと皆さんの心をこのURLに縛れなかったんです。
文字だけで、言葉だけで人の心を動かすこともあると思います。でもそれは受け手の読解力や理解力にかなり依存するもので、少なくとも発信する側としては使えるものをふんだんに使うべきだと私は考えています。
『言葉や文字を使って何かを伝えようとする時、それ以外に何が使えるか、もう一度考えてみて下さい。』
これだけが私の伝えたいことです。それまでの文章はここに至るためだけに自分の中で使えるものをなるべく使ったつもりです。でも、もっといい方法があったかもしれません。もう一度、考えてみます。
- 「その言葉が、未来を変える。」
- 第61回「宣伝会議賞」応募のご案内
「宣伝会議賞」は、広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたは絵コンテ・字コンテという形で応募いただく公募広告賞です。1962年の創設以来、「コピーライターの登竜門」として長年にわたり、若手のクリエイターやクリエイターを目指す方々にチャンスの場を提供してきました。60万点近くの作品が集まる、“日本最大規模の公募型広告賞”として進化を続けています。
課題を掲載した月刊『宣伝会議』10月号は、9月1日より全国の書店、Amazonで発売中です!