店舗とECをシームレスにつなぐことを目指すゴールドウインの挑戦
福吉:僕たち、ビール会社はECの直販は規模が小さく、ゴールドウインさんのようには実購買データを多くは持っていません。ゴールドウインさんは直営店もECも持っているので購買データを取得できるだけでなく、お客さまの動き、商品の動きも追えるところがすごいですよね。例えば、ECでセールのページを見ている人がどこかの店舗の近くに住んでいることがわかった場合、お店と情報共有するようなこともあるのでしょうか。
関:それが実現できることを目指しています。お客さまが実店舗とECをシームレスに行き来できることが理想ですから。例えばEC に在庫がなくても、近隣店舗の在庫状況をお知らせする機能や、逆に直営店であればお店に在庫がなくてもECにある場合には、その場で購入できる案内をしています。「せっかくお店にまで見に行ったのに…」というがっかり感を減らす体制を整えています。
福吉:これこそデータ活用で実現できることの強みですよね。僕はデジタルアセットを活用した情報収集が主になるので、お客さまに関するデータを趣味・嗜好の軸で繋いで分析することが多いです。
ゴールドウインさんは、実店舗をお持ちなので店舗で取得する実データとECのデータを合わせて活用できるというのが素敵ですね。先ほどの在庫に関するデータの連携は、直営店を持つ業態では一般的なものなのでしょうか。
関:どこまでシームレスにできているかは企業によって異なりますが、ECから実店舗での試着予約ができるサービスを提供しているアパレル企業は複数あります。
福吉:業界が違うと、常識が違うことを実感しますね。相手をしっかりと理解した上でコミュニケーションをとると、相手にもそのことが伝わります。このブランドは自分のことを理解してくれていると感じてもらえたときにリピーターになる。それが実現されていますよね。
関:まだまだ道半ばですが、店舗の売上が事業の成長を支えてきたので、そこで提供してきた体験を、ECでも提供したいと考えています。
もともとはコロナ禍で実店舗の来店者が減って、ECが大きく伸びたことがOMO施策を実現するに至った背景にあったことです。それ以前は販売会議内で各チャネルの状況を報告しあうくらいの状況にすぎませんでした。
しかしコロナ禍で意図せずECへの移行が進んだ時期に、ECのシステムリプレイスの計画も進んでいて、ならばこのタイミングでオムニチャネル化を加速させようという流れになり、店舗とECのデータを統合して情報を格納するようになりました 。
福吉:店舗とECそれぞれのチャネルで得られるデータを統合した顧客分析が可能になりますね。
関:はい、これから強化したいと考えています。衣料品は毎日買うものではないので、ECについては購入だけではなく、訪問頻度のアクティブさも観測しています。ECの来店頻度を見ながら、実店舗との往来をいかに地続きにするかという点に課題を感じています。
福吉:行動データとデジタルをつなぐと、できることの幅が広がりますよね。気をつけないといけないのは、押し付けにならない距離感を徹底すること。ゴールドウインさんは展開するブランド数も多く、顧客の幅が広いので分析の意味は大きいですよね。
「コンテンツ・コミュニケーション」で目指すべきこととは?
福吉:僕は、最近はコンテンツマーケティングに力を入れています。今は来訪者がコンテンツを読んだときの内容も見ています。今までだとページ単位で分析していたところをオブジェクト単位 で解析するツールを入れ、読了したのか、していないのか。どこに興味を持って読んでいるかまで見て、お客さまのクラスタリングにチャレンジしています。
関さんは今後はコンテンツを介したコミュニケーションや顧客分析にも挑戦したいそうですが、アパレルの場合は季節の特集など、コンテンツはすでにある。でも、分析はそこまでされていないのかなとも感じました。
関:お店に来るお客さまの動機って何だろうとあらためて考えたとき、走りたい、山に登りたいという何らかのアクティビティに挑戦しようと考え、そのための道具を求めているのではないかと思いました。それならば、商品情報だけでなく、「何かしたい」と思ってもらえるようなコンテンツの方が来店誘導にもなるし、事業成長にもなるはず。そこで今はECにお客さまの気持ちを刺激するような発信ができるメディア的役割を担わせることができないかを考えています。
逆に福吉さんに質問です。私たちがコンテンツを発信していくとなったとき、どういう顧客のリアクションを集めていくべきだと思いますか。
福吉:ブランドは企業サイドがこうありたいという思いを具現化させたものでもあります。一方でお客さまがそのブランドをどう受け止め、どう解釈するかによってブランドの在り方は変化していくことになります。つまりは、企業サイドの一方的な思いだけではなく、お客さまを知り、そしてそのお客さまがブランドをどう受け止めているかを知って初めてブランドは正しいコミュニケーション構築ができるのだと思います。
お客さま理解を深め、距離感を近くするためにコンテンツ・コミュニケーションを活用し、その目的に沿ってコンテンツが機能しているのかを確かめ、お客さま像をデータから明らかにしていくために分析を進めるという説明をしています。
コンテンツ分析において、我々は「流入元」「検索クエリ」「滞在時間」「回遊先」に重きを置いてデータと向き合っています。これは、ユーザーが「何をきっかけに」「何に興味を持ち」「どのような経路で流入し」「結果どのように転換したか」を確認するためです。ヱビスマガジンだと、ビールブランドのサイトですのでやはり「大麦と小麦の違い」や「ビールの成り立ち」について説明したコンテンツは根強い人気を誇ります。
意外なのは「十日えびす」の話で、毎年検索から数万人が流入しています。コンテンツの中核は兵庫県の「西宮神社」宮司・吉井さんに伺った「十日えびす」のはじまりから展開する全国の恵比寿様にまつわる伝統行事の話で、「ヱビス」ブランドの話はほんの少し出てくる程度。
元々、「十日えびす」の情報を調べるためにこのコンテンツに到達しているのだと思いますが、読み進めていくことで緩やかながら「ヱビス」ブランドとの距離感が近くなる仕掛けです。
このコンテンツの読者の中にヱビスIDを持ったユーザーがいれば、行動データなどを掛け合わせて行動分析を行う事も可能ですし、IDがなかったとしてもその後の回遊行動を追う事でブランドリフトを検証することも可能です。
全てのユーザーがIDで繋がっているわけはありませんが、購買行動との関連性や興味・関心の全体像や競馬の予想屋のようにやっていたペルソナ作りを、データをもとにより精緻に実現できる。これが統合マーケティングの基礎になっているという説明をすると、社内からも理解が得られます。
関:記事の企画・制作にもデータは活用されていますか。
福吉:IDを持っている人たちの興味・関心から、読まれそうな内容を大枠でとらえています。制作上の工夫としては、「エバーグリーン」、「商品」、「トレンド」という三つの軸を散りばめています。その理由は新規顧客にもちゃんと届けるため。商品情報だけでは、既存ファンしか取り込めないし、トレンドはいずれ廃れるけど、やらないと流入を生み出せない。
エバーグリーンはなかなか狙ってつくれるものではないですが、分析結果を見ながらチャレンジしています。
コンテンツの良いところは、潜在顧客を知り、その人たちがどのポイントで転換するのかを追うことができること。そのデータから全体戦略でも使えるマーケティングデータが抽出できたりする。だからやり続けています。
関:私たちもコンテンツをイベント参加のモチベーションにするお客さまもいらっしゃると思うので、そういう場面からIDをつなげて、よりパーソナルなアクションを取っていける体制を整えたいです。
関瀬里氏
ゴールドウイン販売本部 EC販売部販売1グループ マネージャー
2007年、早稲田大学人間科学部健康福祉科学科卒業。ゴールドウインに入社し、営業職としてアウトドアブランドの百貨店店舗を担当。2009年4月、THE NORTH FACE事業部ウィメンズ商品企画職へ異動。2012年1月、一身上の都合で退職。アロマテラピーのインストラクター資格の取得、食品メーカーの営業職、専門学校で「Illustrator(イラストレーター)」を学び、イラストレーターのアシスタント職などを経験。2019年4月 ゴールドウインに再入社し、2022年4月より現職。
サッポロ不動産
経営企画部 DX推進グループ
福吉敬氏
1972年北九州市生まれ。多摩美術大学卒。国内酒類メーカーから外資メーカーを経て、2014年、サッポロビールに入社。 2015年9月より、宣伝室のデジタル担当に着任。2021年4月より、ヱビスブランドにジョインし、ヱビスのコミュニケーションプランニングを担う立場となる。デジタルメディアを主要フィールドとし、複層的メディアプランニングから分析設計、イベントPRまで多岐にわたる業務を担当。直近は、コンテンツコミュニケーション、ファンコミュニケーションに力点を置いたプランを展開中。2023年9月よりサッポログループのサッポロ不動産において、新たな業態でのDX事業に挑戦中。