大義を決めるための「Why」「What」「How」
あなたが、「全社横断プロジェクトチーム」のリーダーに任命されたら、その時どうする?
そんなシチュエーションを想定して、PM(プロジェクトマネージャー)の仕事について解説していく本コラム。前回は、プロジェクト開始にあわせて「プロジェクトの大義を決める」必要性についてお話ししました。今回は具体的に「大義を決めるステップ」について解説していきます。なぜ、大義を決めるのか?(Why)、大義を決めるときには何を話し合うべきなのか?(What)、どのように大義を決めたらよいのか?(How)という観点から説明していきます。
まず、「なぜ、大義を決めるのか?(Why)」について。前回、コラムで解説した最初にやるべきこととして提示した「プロジェクトのゴール地点を現場目線で具体的に定める」、「メンバーの認識を揃える」に加え、最初に大義を決めることが非常に大事です。
PMはプロジェクトを進めていくと立ち止まって悩むことが何度もあります。プロジェクトが進むほど、複雑な課題が乱立して簡単に意思決定ができなくなるのです。そのとき、頼りになるのが大義。大義に照らし合わせながら、プロジェクトは最終的にどういう姿であってほしいのか?何を優先して何を捨てるべきか?を整理することができます。すべてのスコープを優先順位1番にするのは無理なので、自社における正しい優先順位で意思決定を行い、プロジェクトを前に進めます。
次に、「大義を決めるときには何を話し合うべきなのか?(What)、」についてです。ここではプロジェクトで何を実現したいのか?を具体的に設定することが大切です。例えば、私が取り組んだようなOMOの強化でもスコープは色々ありました。全社の在庫流動、顧客データの統合、店舗とECの相互送客…などなど。そこで自社がやるべきスコープは何か、具体的に考えていきます。
ここでのコツは、競合他社を意識しすぎないことです。他社の成功事例はなぜか魅力的に見えるので、同じことをやりたくなる気持ちも分かります…。しかし、それが自社にハマるとは限りません。システム環境も違うし、運用環境も違う、顧客層やライフスタイルも違うはずです。議論のベースは、あくまで自社環境を前提とした“組織の方針”と“現場の意見”です。他社情報はただの参考情報に留めないと、そっちに引っ張られて全体の整合性が取れない代物になってしまいます。
プロジェクトを進めている段階でも、競合他社の議論はよく出てくると思います。こうした場合にも、PMはこの“前提”を至るところにササっと差し込みながら、議論の道筋を軌道修正するのも大事な役割となります(会議中ずっと頭を動かすのでけっこう疲れます…笑)。
最後の「どのように大義を決めたらよいのか?(How)」については、ひとつの方法として、メンバーが一堂に会する定例会議を開催することを提案したいと思います。ちなみに当社のOMO強化(当時はオムニチャネル強化)では「オムニ会議」という全社横断の定例会議を開催しました。販売部、マーケティング部、事業部、システム部、全国の直営店の販売スタッフなど関連するメンバーが集合して、毎回テーマごとに忌憚のない意見を言い合う場です。
様々な部署から多くの人が参加し、立場も社歴も経験値も異なるメンバーから複数の視点で意見が出るので、ファシリテート(司会)する側としては難しさもありましたが、意見が活発に出て多くの発見がある刺激的な会議でした。全員が納得した形で大義を設定できたことは、結果的にプロジェクト成功の足掛かりになったと思います。
では、大義を決めなかったらどうなるの?
大義がないと大量の取り組みを束ねることができなくなり、プロジェクトの品質が下がります。照合する柱がないから、時期によって方針がブレる→メンバー的に「前と言ってること違うじゃん」となる→モチベーション下がる→会議への参加率も下がり、課題対応も放置ぎみになり、人が付いてこなくなる…。もうこうなったら最悪の悪循環ですね。ここから挽回するのはかなり難しいです。
しかし、大義決めを通してプロジェクトの“根っこ”を話し合うことで、解像度が上がりプロジェクトが立体的になります。そしてメンバーが自分の意見を述べることで、徐々にそのプロジェクトを“自分ごと化”してくれる。そこで初めて全員が同じ認識を持つことができるのです。
さらに、実現したい要件の優先順位は、そのままベンダー選定に直結します。すべての分野が最強なベンダーは存在せず、必ず得意不得意があります。自社の希望するスコープや優先順位を具体的に設定できれば、その大義に合うベンダーが選べます。それができれば、ベンダーと要件定義を始めてから、「ん?なんか様子が違うぞ…」ということにはならずに済むので、大義を決めることはけっこう良いこと尽くめだったりします。
大義を決めたあとは、何するの?
大義はプロジェクト会議のなかでPMが何度も持ち出しながら、メンバーの意識に刷り込んで定着させていきます。話し合って決めたことであっても、時間が経てば忘れることがあるからです。そして、定着すると、メンバーそれぞれの立場の報告の場で正確に共有がなされるようになります。この状態になると、社内に自然と伝播していくので、プロジェクトの存在感も高まり、有益性も伝わります。
人は、正確に理解できている情報は積極的に報告する傾向がありますが、理解が不十分な場合には報告の対象から外すことがあります(ツッコまれたときに回答できないからです)。自分が担当するプロジェクトの有益性を第三者に理解してもらうことは、意外に重要です。メンバーの意識の浸透から社内への浸透に広げていくことで、最終的にプロジェクトメンバー以外にも自分ごと化してもらうことに繋がるからです。
BtoCサービスでは消費者のマインドシェアを高めることが重要とされますが、同様にプロジェクトではプロジェクトメンバーのマインドシェアをいかに高められるかが成功のカギを握ります。自分ごと化することは、プロジェクトに本気で取り組むこととイコールだからです。そして、マインドシェアが高まるほど、プロジェクトは洗練された成果物になります。
次回は、「会議の推進」について解説します。