ジャニーズ事務所は、性加害の事実を認めた調査報告書の公表を受け、記者会見を開いた。危機管理広報の観点では、この会見にどのような教訓とするべき点があるのか。『広報会議』の連載「記者の行動原理を読む広報術」を執筆するジャーナリスト・松林薫氏は、記者からの追及が、社外からの見え方に気づき、潜む問題点を炙り出す機会となる、と解説。本稿ではそのダイジェスト版をお届けする。
ネット中継の普及とともに、社会的な関心が高い記者会見はコンテンツとして消費されるようになった。それに伴い、「会見の良し悪しについての論評」への注目も高まっている。司会の巧拙や、登壇者の受け答えの適切さに関する解説記事が、一般の雑誌やニュースサイトで読まれるようになったのだ。広報としてはセッティングした会見を衆人環視で「採点」されるわけで、気が気ではないだろう。
いうまでもなく、記者会見がメディアや一般の人にどう受け止められたかは重要だ。社内的には滞りなく会見を終えることが重視される事情もよく分かる。
ただ、会見は単なる説明・釈明の場ではない。無難に終えて「禊(みそぎ)が済んだ」と安心するのであれば重要な点を見落としている。会見はコミュニケーションの場であり、記者から投げかけられた疑問や意見を、次のステップに活かすことも重要な役割だからだ。
論点は性加害問題のはずが
ジャニーズ事務所が設置した外部専門家による再発防止特別チームは8月29日、所属タレントへの性加害問題について報告書を公表した。ジャニーズ事務所はこれを受け、9月7日に藤島ジュリー景子氏らが会見し、性加害について認め謝罪するとともに、社長交代や補償の実施を明らかにした。
会見それ自体は4時間の長丁場になったとはいえ比較的スムーズに進んだと言える。しかし、ジャニーズ事務所側が「うまく乗り切った」と考えているなら、大きな間違いだ。むしろ火消しを急ぐあまり、事務所の存続にも関わる大きなミスを犯してしまった可能性が高い。
ミスとは一言で言えば、性加害問題の実態解明に関する報告書発表を受けての会見でありながら、一足飛びに「新体制の発表」の場にしてしまったことだ。目先の事業継続を優先した結果だろう。
しかし、その新体制はお粗末なものだった。報告書は藤島氏の責任について細かく指摘した上で、「ジャニーズ事務所が解体的な出直しをするため、経営トップたる代表取締役社長を交代する必要がある」と結論づけている。素直に読めば取締役も含めた辞任を求めているわけだ。しかし藤島氏は、社長の座こそ所属タレントの東山紀之氏に譲るものの、代表取締役には留まるとした。会見では補償などの業務に専念すると強調したが、企業統治(ガバナンス)の観点から言えば無意味だ。しかも100%株主のままである。
社長を引き継ぐ東山氏についても…
…続きは広報会議デジタルマガジン(有料)にて
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