『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。今回は、『先読み広報術 1500人が学んだPRメソッド』について、信濃毎日新聞社の加藤拓也・伊那支社長が記者の視点から紹介します。
企業などで働く広報担当者の心得、仕事術を分かりやすく解説している。構成も工夫されて読みやすい。「先読み広報術」は格好の入門書であると同時に、ある程度経験を積み、レベルアップを目指す人にも役立つはずだ。
新聞記者の立場から言うと、広報担当者はもちろん、企業経営者や首長、団体のトップの皆さんこそ手に取ってほしい。本書は指南書にとどまらず、広報という業務の意味、役割の重要性を丁寧に解説している。上に立つ人たちこそ広報に対する理解を深め、組織として社会と向き合ってほしいと願うからだ。
取材活動をしていると、相手の対応に首をかしげることが多々ある。上から目線で恐縮だが、多くは広報という業務に対する無理解が原因だ。
実例を挙げよう。われわれの取材エリアでマンション建設計画が浮上した。記者が事業主の企業に取材を申し込むと、断られたばかりか、社長は「記事にするな」と電話で圧力をかけてきた。工事での騒音や車両の増加を懸念する周辺住民を刺激したくなかったからだ。
利害が対立するなら、なおさら広く読者に知らせ、考えてもらうために記事にする意味がある。それがわれわれの立場だ。結局、説得を重ねて社長は渋々ながら取材に応じた。本書の筆者、長沼史宏氏は指摘する。報道の仕事は、取材先が望むメッセージをそのまま伝えることではない――と。客観的な視点で受け手に伝えるから、広告と違う価値を生むのだ。
本書に一貫しているのは報道に対する的確な分析だ。長沼氏はかつて、長野県内の企業で私の取材を受ける広報担当者だった。その時から確かな目でわれわれの「行動特性」を観察し、過去の文献などを踏まえて理論や手法を構築していったのだろう。
広報の歴史にも目を向ける。世界初のプレスリリースは、米国での鉄道事故の発表というネガティブな話題だったと言及。「広報」と訳された「パブリック・リレーションズ」の定義を「企業や団体が、より良い関係性を社会と構築し維持し続けるための活動」と記す。
広報を重視し、日常的に社会とコミュニケーションを図ろうとする姿勢は、組織の透明性を高め、コンプライアンスやブランド力の向上につながるはずだ。中古車販売大手のビッグモーターが不祥事を説明する記者会見を経て、ようやく広報部門を設けたと知り、そうした思いはさらに強まった。
加藤拓也
信濃毎日新聞伊那支社長
1995年、信濃毎日新聞社入社。長野本社報道部、東京支社、諏訪支社、佐久支社などで経済分野を中心に記者・デスク生活を送る。2021年から現職。兵庫県出身。53歳。
メディアや社会の関心を「先読み」する
『先読み広報術 1500人が学んだPRメソッド』
長沼史宏 著
定価:2,090円(本体1,900円+税) 四六判 240ページ
大手から中小企業、ベンチャー企業まで、1500人以上が学んだ人気の広報勉強会の内容を凝縮した、実践的な広報の教科書。メディアの関心を引く話題のつくり方からプレスリリースの書き方、メディア露出効果を最大化させるオウンドメディア・SNS活用法、ChatGPT活用まで、詳細にわたって解説します。広報担当者の素朴な疑問やちょっとした悩みに答える、30問のQ&Aを巻末に掲載しています。
詳細・購入はこちらから