森永乳業リプトンミルクティーV字回復 「ご意見」の熱量が生んだSNSマーケティング

森永乳業が今年3月に実施した「リプトンミルクティー」の「667通のラブレター」が大きな話題を呼んだ。主軸となったWeb動画アニメの再生数は5月31日時点で300万回、X(当時=Twitter)でのいいね数は 、森永乳業のX公式アカウントでは、史上最多となった。この反響をもとに、一般メディアからの取材も相次ぎ、施策を終えた3月末から7月まで続いたという。結果、直近のリプトンミルクティーの売上は施策前と比べて大幅に伸長した。

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発端は「リプトンミルクティー」の“終売”だった。森永乳業は2022年3月に、新たに「ロイヤルミルクティー」を発売。しかし、旧ミルクティー終売の発表を受けて、同社のお客さま相談室には復活を求める667件の「ご意見」が寄せられたという。

終売の判断は、主に売上の低迷によるものだ。発売約40年を誇るロングセラーブランドだが、近年は紙パック商品が市場全体で縮小傾向にあった。新型コロナウイルス感染症の拡大による、飲用シーンの変化も手痛い打撃となった。

写真 森永乳業 リプトンミルクティー

「リプトン ミルクティー」の終売決定に際して寄せられた声すべてに目を通したという、森永乳業マーケティングコミュニケーション部の小倉結衣氏はこう話す。

写真 森永乳業マーケティングコミュニケーション部の小倉結衣氏
森永乳業マーケティングコミュニケーション部の小倉結衣氏

「書かれていたのは、リプトンミルクティーへの深い愛情や、切実な思い出話などでした。読み進めるにつれ、勝手に終売してしまったことに対して、ものすごく申し訳ない気持ちと、こんなにも好きでいてくださって本当にありがたいという気持ちが入り混じり、涙が出そうになったことをいまでも鮮明に覚えています」(小倉氏)

小倉氏は、「いただいたご意見だけではなく、さまざまな検討を重ねた結果ではあります」としながら、こうした声が大きな後押しとなったのも事実だ。「ロイヤルミルクティー」から1年後、改めてリプトンミルクティーを発売することになった。

商品開発担当者からも、「再起をかけて復活を報告したい」との声があがり、小倉氏が所属するマーケティングコミュニケーション部が動き出すことになる。

「リプトンミルクティーをずっと愛してくださっているお客さまに、いかにおわびや感謝の気持ちを伝えられるかを一番に考えて広告を実施しようと。また、リプトンミルクティーを久しく飲んでいない方や買ったことがない方にまで興味を持っていただき、ご意見をくださったお客さま以上に広く伝わる広告にすることも考えていました」(小倉氏)

すべて「ご意見」で構成されたアニメ

キャンペーンの中核を担うコンテンツとして制作したアニメの主人公は、2人の高校生、トーマと唯。ある日登校すると、トーマの世界からは唯が、唯の世界からはトーマが消えてしまう。その日から2人は、互いの痕跡を探りながら、手紙を送り続ける。宛先は「消えた君へ」。

この「消えた君」が、実はリプトンミルクティーだったというのがストーリーのタネだ。トーマと唯による「切ない恋愛物語」と見せかけて、実は二人は関係なく、それぞれ、消えてしまったリプトンミルクティーを求めて手紙を送っていたのだった。

「667通のラブレター」の動画公開を伝えるツイートと、動画のカットを示したスライド

「ミルクティーが無くなり、生きる希望がなくなってしまいました。毎日眠れません」

「死ぬ時も棺桶にミルクティーを入れてほしい」

「己の血はリプトンでできていると言っても過言ではない」――

これらは、実際に寄せられた「ご意見」の一部だ。作成したアニメに登場するセリフや主題歌、背景美術(イラスト)、登場人物の名前などにはすべて、667件の「ご意見」をそのまま用いている。

アニメにするという着想も、これらの「ご意見」から。小倉氏は、「言葉の端々に深い愛情があり、リプトンミルクティーに対してではありますが、まるで人に宛てた手紙、ラブレターのように見えました。青春時代の恋愛が思い起こされるようなところもあり、表現するにはアニメがピッタリなのではないかと、チーム全員で意見が一致しました」と話す。

「SNS文脈を考えても、アニメはとても相性のよいアプローチだと思います」と話すのは、CARTA COMMUNICATIONS(CCI)Social AdTrim部部長の笹秀史氏。Social AdTrimは、SNSを軸とした企業の課題解決を図る専門部隊だ。

CARTA COMMUNICATIONS(CCI)Social AdTrim部部長の笹秀史氏
CARTA COMMUNICATIONS(CCI)Social AdTrim部部長の笹秀史氏

「さらに言うなら、アニメーション監督や声優を起用し、本格的なアニメに仕上げていることも、施策に対する本気度と、集まったご意見に真摯に向き合っている、ということを感じさせます」(笹氏)

話題化の連鎖

「SNS上で大きな反響を得ると、それに対して一般メディアがニュースとして取り上げる、というのがひとつの型ですが、これを実際に作ることができているのも素晴らしい」とCCI Social AdTrimの笹氏は指摘する。「667通のラブレター」における話題化の流れはこうだ。

3月17日のティザー(予告)動画に始まり、本編動画は、「リプトンミルクティー」を再び世に送ることを新発売ならぬ“旧発売”と表現し、その発売前日、3月20日に公開した。情報は同日がピークになるように集中させ、大きな話題の山をつくるよう意識。

同日以降も、アニメに出演した声優や主題歌を担当したアーティストによる発信や、「ご意見」を寄せた消費者のみを招待するイベントの開催、その内容をまとめたWeb記事、アニメに隠された「ご意見」を解説する副音声動画など、情報を出し続けて注目度を維持した。

「667通のラブレター」のティザー動画公開を伝えるツイートと、動画のカットを示したスライド

ティザー動画は、「20230320」と公開日を示す8ケタの数字と、「#667通のラブレター」というハッシュタグのみのシンプルな投稿文で、3月17日に公開。森永乳業がアニメを制作したという突然の意外な投稿が、密かな話題となった。さらに公開前日の19日には、667通の「ご意見」を寄せた方を招いた試写会と、“旧発売”する「リプトンミルクティー」の試飲会を開催。参加者はもちろん、欠席者も招待されたことをポジティブに投稿する様子が見られた。

本編動画の公開当日は、東京・渋谷駅にて交通広告を掲出。リプトンミルクティーの広告と認識している人はもとより、何も知らなかった人も、「新しいアニメかと思ったらリプトンの広告!?」とサプライズとして受け止め、話題に。また、再発売の裏側を担当者が語るタイアップ記事の出稿や、出演する声優が自発的に自身のアカウントで言及することで、さらなる拡散につながった。

結果、森永乳業のX公式アカウントとしては最多のいいね数を獲得。さらにXでは「食べ物カテゴリー」トレンド入りし、Yahoo!リアルタイム検索でも上位につけるなど、その日の視線を大きく集めることに成功した。

東京・渋谷駅に掲出した「667通のラブレター」の交通広告を紹介するツイートと、広告物を示したスライド

購買意向の向上にも貢献

話題化だけでなく、購買意向の向上、さらには実際の売上向上にまでつながったことも、「667通のラブレター」のポイントだ。Xの投稿を見るだけでも、

「リプトンの667通のラブレターみてから飲みたくて仕方なさすぎて久しぶりに買ったwww」

「これ映画化して欲しい 久しぶりにリプトンミルクティー飲んだけどやっぱ美味しい(案件では無い)」

「むかーし、たまに飲んでたけど、最近は全然買ったことなかったのに、話題になってたから思わず手に取っちゃった。」

などと、実際に手に取った人や、

「また久しぶりに買って飲んでみよ」

「リプトンを人生で一度も飲んだことがなかったけどさすがに飲みたくなってきた。」

「飲んだことないけど飲んでみる」

など、休眠ユーザーや、ノンユーザーにも興味を持たせることに成功したことが伺える。

「事前に一つひとつの施策で、何を感じていただき、どのような行動を喚起できるとよいのかを細かく決め、心から感謝の気持ちを表そうとチーム一丸となって取り組みました。だからこそ、ミルクティーファンの気持ちを動かし、さらにファンではない方にまで広く伝わって大きな反響を得られたのではないかと考えています」(小倉氏)

また、動画だけでなく、店頭でも目印となったのが、「旧発売」というワード。

「施策の全体をひとことで表すことができており、とてもわかりやすいポイントになっています。店頭でもアイキャッチとして目を引いたことが、購買の後押しにもなったのではないでしょうか」(笹氏)

写真 森永乳業 リプトンミルクティー

さらに求められる「価値ある発信」

Xは、毎日のように更新や発表があり、文字通りの過渡期といった様相だ。CCI Social AdTrimの笹氏によると、中でもSNSマーケティングに影響をもたらしそうなものの一つが、フォロワー獲得型の広告(CPF広告)の廃止だ。CPF広告は、下部に『フォローする』といったボタンが付いており、投稿のインプレッションを増やすだけでなく、直接的にフォロワーを増やすことを目的に実施する広告だ。

X(Twitter)のCPF広告廃止について説明したスライド

「突然の機能廃止でした。ただ、X社の方針として、優良コンテンツを投稿していれば、広告に頼らずとも自然とフォロワーは増えるという考え方が伺えます。現実的には難しい部分もありますが、たしかに考え方としては、コンテンツの質を高めることが、ブランドのアカウントにとっても、Xというプラットフォーム自体にもプラスになる、というのは理解できるところかと思います」(笹氏)

では、優良コンテンツ、フォロワーにとって価値のある投稿とは、どのようなものか。森永乳業の小倉氏はこう語る。

「私が思う価値のある投稿は、やはりお客さまが興味関心を持ち、さらに共感できる内容でありつつ、企業が伝えたいことと相違がない状態で伝わる投稿かと考えています。そのバランスを取るためには、まずはお客さまが何を求めているのか、どういう発信に興味を持たれるかという研究が欠かせません」(小倉氏)

写真 セミナー会場の様子

SNSが日本に居場所を持ち始めておよそ15年が経つ。プラットフォーム側の変化変節が顕著になり、第二の局面を迎えつつあるといっても過言ではない。しかし、どのような変化が起きても変わらないことは、受け手が価値を感じる発信ができるかどうか。企画や運用体制を含めて、SNSマーケティングは一段上のステージに上がることが求められそうだ。

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お問い合わせ
株式会社CARTA COMMUNICATIONS メディアソリューション・ディビジョン Social AdTrim部
URL:https://www.social-adtrim.cci.co.jp/
Email:SOCIAL-ADTRIM@cartahd.com

 

※本稿は、2023年8月22日開催の「森永乳業に聞く、SNS時代のマーケティング戦略~『リプトン ミルクティー』はなぜ異例の復活をしたのか~」の内容を抜粋、再構成したものです。



 

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