近年、デジタルマーケティング組織を強化し、営業・マーケティング活動のDXを推進してきたリコージャパン。モノ売りからコト売りへ変革していく事業を支える同社のデジタル化の取り組みについてリコージャパン デジタルサービス営業本部 マーケティングセンターの羽賀芳昭氏が解説します。
企業にとって「デジタル化」の本当の目的は何なのか?
本日は大きくは4つのテーマについて話をしたいと思います。具体的には
1. デジタル化は目的ではない
2. リコージャパンの取り組みの紹介
3.デジタル化の勘所
4.全体を通しての4点です。
なかでも今日は、1ひとつめのテーマについて時間をとってお話ししたいと思います。
企業に対してデジタル化の目的を聞いたアンケートでは、「コストの削減」、「労働時間の短縮」、「人員の削減」がトップ3に入っていました(引用元などスライドに明記)。これらはデジタル化の結果として効果が出るとことだとは思いますが、はたしてそれは目的でしょうか。
私たちは本当の目的を「変化の激しい世の中で俊敏に柔軟にそれらを捉え、そして呼応し、お客様と企業が相互理解のもと価値を共創していくための手段がDXである」と考えています。
変化が激しい世の中を見る際、大きく3つのポイントがあります。ひとつはコロナで産業のサプライチェーンがズタズタになったこと。2つ目はロシアによるウクライナの侵攻。昨年の2月末くらいの開戦前後からサイバー攻撃が多くなりました。3つ目はテクノロジーの進化。高速デジタル回線が遠隔利用や自動運転といった過去にはできなかったことが現実化し、ChatGPTなどのAIも世の中に入り込んできました。
では俊敏に柔軟にとは?お客様が我々プロバイダーに求めるものはシンプルに3つしかありません。「高いレベルの価値提供」、「切れ目のない接触」、「自分をよく知ってくれているという信頼」の3つで、これは普遍的な要求です。
変化が起きたときに、お客様の要求にデジタルの力を用いずに俊敏に柔軟に対応することは不可能です。多様化し、複雑化するお客さまに、デジタル化以外の方法で応えていくのは現実的ではありません。
デジタル化によって担保できるのは、例えば膨大なデータからベストなデータを抽出する、悩みや課題と解決策を高速でマッチングし、そこから良きインサイトを得る。こういったことがデジタル化によって可能となる。これらを組み合わせることでお客様の3つの期待に対応できるようになると思っています。
実際のデジタル化には周到な準備が必要です。当社はBtoBの企業ですから、お客様個々人の情報は多くは持っていません。それゆえ、データ利活用を考えるとハードルは高いですがその情報収集は必要なことです。
もうひとつ、KKD、勘と経験と度胸のDXにおける活用です。当社にはこれらの力をもってキャリアで伸ばしてきた方々が多くいます。この人たちの知見、ナレッジをぜひシステムに組み入れていただきたい。これも準備事項として重要だと思っています。
モノ売りからコト売りへ リコージャパン、デジタル化の歩み
次にリコージャパンの取り組みについて、紹介したいと思います。
我々は、ありたい姿を「ニューノーマル時代の新しい働き方を実現する RICHO Digital Processing Serviceを提供していく」、コンセプトを「Customer’s Customer Success〜お客様のその先のお客様にまで届く価値を創出する〜」としています。これにデジタル化を持って挑んでいる、そのための打ち手が五つあり、そのうちの「デジタルマーケティング」、「プロセス分業」、「体質変革と接点活動高度化」について解説していきます。
1つ目はデジタルマーケティングです。今回は集客装置として重要なサイトについて説明します。我が社の代表的な集客サイトは3つあります。
まずは公式ホームページ内に展開されているソリューション・商品サイト。ここはお客様の課題や悩みが整理されていて、その対応を検討するときに訪問するところです。残る2つは、まだ問題、課題が整理されていない状態に対応したサイトです。ここでは事例やコラム、時事ネタなどをコンテンツとして日々掲載しながら、お客様に来ていただいているサイトです。
サイト訪問にいたる導線も考えています。広告、ソーシャルメディア、オーガニック検索のSEO対策もしながら、既存ユーザーに対してはメールマガジン、といったようなところでサイトに誘導しています。お客様になっていただいた後は当社の「MyRICOH」という会員サービスに来てもらいます。この流れをデジタルマーケティングで作っています。
2つ目はプロセス分業について。デジタルマーケティングで入ってきたお客様を営業の方にバトンタッチする、インサイド営業の部門を2020年、100名体制で発足させました。3年経過していくつかの管理指標は好転していますが、答えはまだ出ていません。3年間ではいくつかの社内摩擦もありました。社内の事前の認知活動が不足していたことが原因と考え、合同朝礼などを行い現在では摩擦は減っています。
3つ目は体質変革と接点活動高度化で、私が現在参画しているSFA/CRMを導入するプロジェクトです。多くの企業でも同様だと思いますが、既存システムはそれぞれの業務に適した形でシステムが組まれていて、サイロ化しています。ですから、データやプロセスの一貫性とかが阻害されている状態が課題だと思っています。現プロジェクトではそこを一体化する形を実現すべく取り組んでいます。
2021年の7月の終わりから始まり、長い時間と多くの関係者を巻き込みながら今に至っています。現在地はやっと今年の初めにプラットフォームを選定し、来年4月のフェーズ1稼動を目指しています。プロジェクトの進め方にはスピーディーではない部分もあるかもしれませんが、やってみて、やればやるほどやるほど課題が出てくる状態です。
ここまで取り組みを紹介してきましたが、なかなか答えは出ないのが現状です。やり方もこれでよいのかと悩みながら進めているのが正直なところです。ただ、これまでの過程を見ていくと、勘所として共有することに価値がありそうなものもが見えてきました。
デジタル化によってしか課題の解決はできない、覚悟を持って推進を
① の一気通貫のプロセスをモデル化するについて。下図では営業プロセスとアフタープロセスのファネルをくっつけて砂時計の形にしています。ファネルごとにKPIと人の配置をします。各KPIとプロセスは人が担っていますが、KPIは最初から正解はないので、日々チューニングが必要です。人の配置も能力やキャリアをふまえて行うのが望ましい。デジタル化といっても最終的には人のモチベーションが結果を決める部分もあるので丁寧に進めてください。そのデザインと実行も難しいので、社内に設計や推進の実績や知見を持つ人がいるならその人を配置する。いなければ良きパートナーを見つけて伴走してもらう。加えて長いプロセスになるので一気通貫で推進できる情報基盤も必要です。
② のコンテンツは、社内で運用していくのはハードルが高いので、早い段階でベストなパートナー選びをおすすめしたいです。
③ のプロセス分業。業務を開始する前に社内的な認知、データ整備を十分にやった上でやるべきだと思います。
④ 新規開拓のインサイド営業は専門の外部、架電業者に依頼しています。社内で職種変更した人が新規開拓を担当するとかなりの人がメンタルに影響をきたすためです。
⑤ 少なくとも関係者の中で強い意志でスクラムを組んで進めていただければと思います。
⑥ についてですがデータは残念ながら放っておくと腐ってしまいます。経営陣から現場まで、全員で鮮度維持を業務化して日常のルーチンに加えてください。
⑦ データに依存すれば依存するほどリスクは高まります。CSIOの設置は重要です。
⑧ いろいろと当社の場合について説明しましたが、当然ながらそれぞれの会社のやり方、社風や文化に合わせて進める方がよいでしょう。他社のやり方を全部真似ることは避けましょう。
⑨ については、現状の業務担当者はなるべくプロジェクトに入れないというのが望ましいと考えます(必要な時のみ参画させる)。
⑩ 早い段階からリリース後の運用を考える。我が社も開発前からリリース後の保守担当を組織内に置き、SEを参加させています。
最後の⑪、デジタル人材は社内で育成して量を確保していくしかありません。市場にも人材は少ないですし、いても給与は高額ですし、採用した後の定着も難しい。デジタル化、DXをするなら人材は社内調達が必要です。処遇とセットで育成することが大事です。
講演の最後にまとめとして、皆さんに3つのメッセージをお伝えしたいと思います。まずは経営者に向けては、失敗を恐れずデジタル化やDXを自分事として語れることが必要です。同時に基本方針を逸脱しない範囲であれば、見守る姿勢も重要です。
次にDXを推進する担当については、経営者の意思と会社の事業内容、会社が行なっている社会貢献をよくよく理解している人であるべきです。興味範囲が広く、協調性があり、まずはやってみるという好奇心を持った人を探してください。
最後は覚悟を決めるという事です。多くの方々は今でこそ課題がたくさんあるのにデジタル化という課題を抱え込むのかと思われるかもしれませんが、デジタル化しか会社の未来を担保できない、という認識で臨んでいただくことが重要になります。
私たちも悩みながら試行錯誤しています。デジタル化というのはやればやるほどやることが噴出します。それでもデジタル化しかないという一択で臨んでいただければと思っています。