2023年8月23日に幻冬舎から発売された、下村敦史さんによるミステリー短編集『逆転正義』。そのタイトルの通り、“正義”が“逆転”してしまうような驚きのある物語が6話収録されている。
装丁を手がけたのは、鈴木成一さんと宮本亜由美さん(鈴木成一デザイン室)。下村さんの作品の装丁を担当するのは、『同姓同名』(幻冬舎、2022 年)に次ぐ2作目だ。
担当編集者からは「小説の内容のように、読者をあっと驚かせるようなデザインをお願いしたい」と依頼があった。
鈴木さんはそれに対し、「構造とビジュアル、2つの側面からアプローチした」と説明する。
構造としては、通常は下部に付いているはずの帯を上に付けることで「逆転」を表現する、というアイデアが出発点となった。ただ普通の帯は製本の工程上、下がってしまうため、カバーの上端を手前に折り返して、帯のように見せることにした。「カバーの上に帯が重なっているように見えるよう、表はつるつる、裏はざらざらのクラフトペーパーを使用しています」と鈴木さん。白地の帯の部分に書かれた言葉の方向もバラバラで、一瞬で混乱を生じさせる。
一方ビジュアルでは、裏表が白黒の三角形のモチーフで「逆転」を表現した。「複数の物語が収録された本なので、ひとつのビジュアルで表現するのは難しいと思ったんです。モチーフは、オセロの石のように円形だとゲーム性が強く出てしまうと思い、三角形で、物語から感じられる鋭い視点も表現しました」(鈴木さん)。これはCGではなく、1 辺10 センチほどの三角形のオブジェを制作し、それを撮影して使用している。
カバーは4 色刷りで立体的に、表紙は1 色刷りでプレーンに見せている。
カバーを外して開くと、裏面には白地にオレンジ色で、本文から抜粋した文言が並ぶ。吹き出し部分は、宮本さんが「ネタバレにならないけれど気になる台詞」を小説から抜き出して配した。全体のモノトーンの印象の中でアクセントを加えている。
逆転の要素は構造とビジュアルで表現したため、フォントはベーシックなものを選択。「通常はなかなか通りにくい」(宮本さん)という技ありのデザインも、アイデアに共感した関係者により、実現にこぎ着けた。
スタッフリスト
- 企画制作
- 鈴木成一デザイン室
- 装丁
- 鈴木成一、宮本亜由美
月刊『ブレーン』2023年11月号
- 〈巻頭特集〉
- 地球環境と向き合う
- サステナブルなデザインの理想形
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