Z世代は「旅行先」をどう選ぶ?検索の方法・重視する情報は

観光を促す情報を若い世代向けに発信するにはまず、どのように旅先が選ばれているのかについて理解しておきたい。デジタルネイティブ向けに企画・マーケティング事業を行い、自らもZ世代である今瀧健登氏(僕と私と 代表取締役 CEO)に聞く。

※本稿は『広報会議』2023年11月号 「訪れたくなる!観光を促す技」特集より転載しています。

 

─Z世代はどのように旅先を選んでいるのでしょうか。

「Z世代」を1990年代後半から2010年頃に生まれた世代とすると、2023年現在では、中学生、高校生、大学生、社会人4、5年目ぐらいの人たちが該当します。年代としては「若者」のため、観光地選びの前提として「旅行経験が少ない」という特徴があります。「この国とこの国は行ったことがあるから、次はここに行きたい、この国はもう一度行きたい」といった選び方はしていない、ということです。また「卒業旅行を楽しみたい」といったイベントに紐づいた観光が多くあります。社会人の場合も「大学の友だちと久しぶりに会いたい」「仕事が忙しい中でちょっと休みたい、でもまだ有給休暇は少ない」といった心境です。

では旅行経験が少なく「デジタルネイティブ」であるZ世代にとって「最初に行きたくなる旅先」はどこなのか。情報として信頼を置いているのは「友だちが『行って良かった』と言っている」ところです。友だちがSNSでアップしたことで、旅先について知ることも多くあります。40代、50代のレビューだと自分事化しにくいので、「Z世代目線でレビューが蓄積されている場所」であることが、旅先選びのポイントと言えます。

例えば「北海道に行ってみたい」となったとして、まだ行ったことがない人にとっては、どんな観光エリアがあるかは分かりません。そこで検索するわけですが、「北海道 おすすめ」とGoogle検索しても、「おすすめ〇〇選」といった情報が飽和し、広告記事もたくさん出てきて選ぶのが難しい。そこで映像で雰囲気が伝わる「TikTok検索」が使われています。YouTube上でも、場所をピンポイントで検索すれば欲しい情報にたどり着くのですが、TikTokなら「北海道 おすすめ」のような大きなくくりでもランダムに映像が出てきます。

「どういう動画が上がっているんだろう?どんなレビューがされている?」と見ていくうち、「この宿(観光施設、飲食店など)に行ってみたい」と思うものが出てくる。そこを軸に「近くにこんな観光名所があるらしい」とGoogleで調べ、観光ルートを決める。こうした検索行動が起きています。旅行ガイドで「札幌と函館」とエリアを絞り観光ルートを決めていく流れとは異なるのが分かると思います。旅先選びの軸となる「行ってみたいスポット」の探し方として、レビューやTikTokが重要なのです。また検索をしていなくても、普段TikTokを見て流れてきた「良さそうなスポット」の投稿を保存することもあります。

図 社会人2年目(Z世代)の観光地選びの例

 

─「この観光スポットについてもっと知りたい」と思わせるTikTokの動画とは、どのようなものですか。

パッと見た1、2秒で直感的にいいと思えるかどうかが重要です。スマホ画面をスワイプしながらTikTokをさーっと流し見し「これ良さそう」となったら、手を止めます。ですから動画のトップに一番引きがあるものを持ってきて、そこから「もっと知りたい」と思ってもらう流れがつくれるといいです。伝えたいことが絞りきれず情報が多すぎると、流されてしまいます。

 

─観光地での体験を「レビューしたい」「シェアしたい」と思うのは、どんなときでしょうか。

心から楽しんで体験できたかどうかが一番大切で、Instagramのストーリーズやオフラインの口コミ、お土産などでも体験はシェアされます。心底感動して撮影するのを忘れていた、ということもあるので、観光客を受け入れる側が、「撮っておかなくちゃ」と思わせる環境づくりをしたり、そもそも電波が届いているか、タグ付けがしやすいようになっているかなどを確認したりするのもいいと思います。ただしシェアするかは体験した本人が決めること。「拡散して」と言われると興ざめなので言葉づかいは適切に。

 

─「これは上手い」と思う発信は?

観光地からの発信の肝は「行ったことがない人の立場に立って考える」ことにあると思うのですが、「ふくしま 知らなかった大使」の動画はそのアプローチがなされていて感動しました。俳優の松岡茉優さんが、福島を知らない人たちの代表になって、福島を体験しています。

自治体の観光発信においては、そのまちで生まれ育っていいところをたくさん知っている人だけでコンテンツをつくってしまうと、「観光者の目線」が抜け落ちてしまうリスクがあります。初めて観光に来た人は、なぜ「来て良かった」と思ったのか。まだ来たことがない人に訪れたいと思ってもらうにはどんな設計が必要なのか。そういった視点を入れるには、外から来た人の力も借りるといいと思います。

 

─広報担当者にアドバイスをお願いします。

絶景、グルメなどは様々な地域にあるので「ウリがつくりにくい」と思う自治体の方もいるかもしれません。その場合は、ナンバーワンではなく、オンリーワンをつくる思考が必要だと思います。「オンリーワン」を生み出すには「掛け算」が有効です。場所×人×方言×お土産……と掛け合わせていくと独自性が生まれます。ひとつの地域資源だけでPRするのではなく、ツアーにしたり、連携プランにしたりするのです。

そうした魅力をどう伝えるかについては、まずTikTokをはじめとしたSNSで、まちを検索し、どのようにレビューされているかを確認してみてください。またレビューが伸びている他の地域を分析してみるのもいいと思います。自分たちが当たり前だと思っていることが評価されているかもしれません。そして地域にいるZ世代に話を聞いてみてください。何を見て、どんなことが好きで、何があると嬉しいのか。ターゲットを「Z世代」と世代で捉えるのではなく、人物像が描けるぐらいまで声を聞くことをおすすめします。情報発信でTikTokを活用する場合、必ずしもアカウントを開設する必要はありません。TikTokクリエイターを地域に招待し、検索したときに動画やレビューが上がってくるのを目指すことから始めるのも手だと思います。

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今瀧健登(いまたき・けんと)

1997年生まれ、大阪府出身。2020年「僕と私と株式会社」を設立。SNSネイティブ世代への企画・デジタルマーケティングを得意とし、企業・行政とタッグを組んだワンストップ・プロモーションを展開。

 

『広報会議』2023年11月号は、「訪れたくなる!観光を促す技」特集。詳しくは『広報会議』デジタル版で。




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