フジ・メディア・ホールディングス傘下の広告会社クオラスは、本書を社内の研修に取り入れている。クリエイティブやプランニング、営業などの社員向けに、著者の鈴木大輔氏を招いて講演会も実施した。
同社のクリエイティブディレクターで今回の研修を主導した大内健太郎氏と、著者でクリエイティブブティック「FACT」の戦略プランナーである鈴木氏の2人が、競合プレゼンにおけるチームビルディングの重要性について意見を交わした。
競合プレゼンは「やらないに越したことはない」
――競合プレゼンの案件に、どのように向き合っていますか。
大内:競合プレゼンは、本音を言うと嫌いです(笑)。自分なりのノウハウや勝ちパターンは持っているつもりですが、それでも負けるときは負けますから。クライアントと長期の関係を築いて、既存の案件を育てるに越したことはないですが、一方で競合を避けることはできません。
当社の従業員は約350人と大手と比べると少人数なので、競合案件についても必然的に若手にどんどんチャンスが回っていきます。若手にプロジェクトリーダーを任せつつ、同時並行で育成もしていくような場になっていますね。
鈴木:若手に権限委譲して取り組んでもらうにしても、昔は戦い方を授けずに手ぶらで戦いに行かせるようなケースが多かったと思います。武器を身につけた上で戦う方が学びも多いでしょうし、そのために本書を役立てもらえたらうれしいですね。
チーム全員の意識をひとつにまとめてくれる本
――『競合プレゼンの教科書』を読んだ感想は。
大内:オリエンテーションから準備、プレゼン当日から事後へと、時系列に沿って必要なことがまとめられていて、まさに教科書。社内で共有したい本だと思いました。
自分なりのメソッドやスキルは持っているけれど、個々の頭の中にあるだけで体系立てられていない。だから、すぐそばにいる同僚には教えられても、全社的には教えることができないという人や組織は多いと思います。当社も同様で、鈴木さんの講演会を通して、『競合プレゼンの教科書』をクリエイティブ部門だけでなく営業部門にも広めています。「ピッチ戦略立てた?」と聞くと「まだです」と会話が進むので、共通言語としてとても役立っています。
競合プレゼンは、かねてからお付き合いがあるクライアントならばまだしも、新規案件は勝ち筋が見えにくいです。そんなときに各方面から「クリエイティブ勝負だから!」と、クリエイティブにプレッシャーがかかるようなケースは“あるある”だと思います。この本を読むと、営業やマーケなど、それぞれのスタッフに役割があることがわかりますし、例えクリエイティブ勝負になったとしても、そこに至る前のベースづくりの重要性がわかりやすく書かれています。
クリエイティブやマーケ、営業など各部門のスタッフがチームで取り組むのが競合プレゼンです。温度感が人によっても部署によっても異なる中、チーム全員の意識をひとつにまとめてくれるような本でした。
鈴木:まさに、競合プレゼンはチームの連携が勝敗に直結します。しかし、メンバーは固定ではないし、社内だけでなく外部と組むこともある。時間も無い中で、人間関係がまっさらな状態からいちから仕事を始めなくてはいけない。過酷な状況だからこそ、共通言語の必要性は高いのだと思います。
敗因を個人の問題に帰結させては進歩がない
――本書では競合プレゼンに負けた後の振り返りの重要性にも触れています。
大内:振り返りはチーム単位で行っていますが、自分の都合の良いように解釈して終えてしまっていたように思います。チームに知見は若干貯まるけれど、それがオープンになっていないため「組織知」になり得ず、もったいないことをしていたんだなと気づきました。
鈴木:振り返りでは、「企画力やコピー力で負けた」「戦略とクリエイティブのブリッジの部分をクライアントに指摘されてしまい、差がついてしまった」というフィードバックになりがちです。では「なぜでそうなってしまったのか」を深掘りしていくと、個人の企画力の差ではなく、「チームで喧々諤々する時間が十分に取れなかったから」に行き着くんですよね。
では、「どうしたらその時間を生み出すことができるのか」を考えると、「スケジュールをもっと前倒しする」「議論のキャッチボールの回数や精度を高める」などが挙げられます。個々人の能力のせいにしていては、いつまでたっても進歩はありません。問いを繰り返し、仕組みや座組の問題まで落とし込んで解決策を探るのが良い振り返りです。
若手は競合プレゼンを経て成長する
――若手のモチベーションアップのために行っていることはありますか。
大内:“任せる”ことですかね。経験して、どんどん失敗してなんぼ、というスタンスでいます。
鈴木:「決断する」という経験を積ませることは、成長に大きく寄与しますよね。若手に任せ切るというのは難しい判断でもあると思いますが、マネジメントとして取り組んでいるというのは素晴らしいことだと思います。
大内:「決断する」ことは本当に難しいです。自らの確固たる知見が必要で、そのためにはたくさんの場数を踏んで経験値を貯めていかなくてはならない。若手には恐れずに失敗を積み重ねていってほしいです。勝てたのならば、「なぜ勝てたのか」という分析も大事だと思います。
鈴木:「決断」には、「自分の職域について」と、自分の職域外まで踏み込んだ「チームの提案全体について」の2つの領域があります。より難しく、かつ勝敗に直結するのが後者です。若手の皆さんには、この「センタープレイヤー」としての立ち位置を意識しながら仕事をしてほしいですね。
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