(本記事は月刊『宣伝会議』11月号に掲載されているものです)
どんなに複雑な課題でも突破口は必ず存在する
BtoB企業の課題が難解と思われる理由はその事業や製品を自分ごとにするのが難しいからだと思います。飲料や食品であれば、自分自身がユーザーでもあるので製品のベネフィットが容易に理解できます。しかし、馴染みのないBtoB企業の場合、事業内容を調べて理解する必要がある上、BtoB企業ほど事業内容が複雑で理解が難しい…。
それでも、どんなに難解な課題でも突破口は必ず存在します。これまで多くのBtoB企業の仕事に携わり、宣伝会議賞の審査員も務めてきた経験を踏まえて、「今日から使える10のポイント」を取り上げてみます。BtoB企業の課題に初めて取り組むという方、取り組んだことはあるけれど、今ひとつ苦手という方はぜひご一読ください。
1 パーパスを見つける
一般的にBtoB企業はビジネスの規模が大きく、社会貢献度が高い傾向にあるといわれます。それはつまり、事業や製品のパーパス(存在意義)が明確であり、言語化しやすいということでもあります。
パーパスと聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「そもそも、この事業や製品の目的って何だろう」という視点を持ってみよう、ということです。例えば、スマホに搭載されるコンデンサは、それ自体は小さな部品ですが、「そもそも何のために存在するの?」という問いを立てると、「(スマホを通して)世界中の人々の便利な暮らしに貢献する」といった目的が見えてきます。
このように「そもそも」という視点でBtoB企業の事業を見てみると、その先にはより高い目的があるのがわかります。
企業のパーパスはコピーライターが携わる領域として今後ますます重要になるのは間違いないので、BtoB企業の課題に取り組む際の重要なポイントとして、まず「パーパスを見つける」を挙げたいと思います。
2 集約する
高度で複雑な技術が注ぎ込まれた製品であっても、突き詰めると意外と簡単な言葉で説明できるものです。
例えば、デジタルカメラに内蔵されるイメージセンサーであれば「描く」でしょうか。事業や製品の本質的な価値を突き詰め、集約させたひとことは、いわばダイヤの原石。次は、その言葉のさまざまな表現方法を探り、磨き上げてみましょう。そうして生まれたコピーは表現として飛躍がありながらも地に足のついたコピーになっているはずです。
3 例える/見立てる/なぞらえる
説明が難しい内容について話す時、人はあれこれ例えを駆使して、どうにか理解してもらおうとします。そして、その例えが巧妙であるほど説明がうまいと思われる。
コピーも同じです。説明が難しいBtoB事業のベネフィットの、うまい例えが見つかれば、それはそのままコピーとして十分に機能します。
4 人物を設定する
機能やベネフィットだけでコピーをつくることはもちろん可能ですが、そこに人物が絡むと感情やドラマが生まれます。BtoB企業の場合、一般の生活者がその製品に直接触れる機会はほぼありませんが、それでもこのアプローチは有効です。
例えば、「母」「父」「子供」などを登場させて、BtoBとの距離感やギャップを表現してみる。社員を登場させて、企業の側から語ってみる。歴史上の有名人を登場させる。宇宙人を登場させる。擬人化する(「冷蔵庫は考えた」のように)。BtoB企業であっても、人物との関係性を表現することで、事業や製品の隠れた魅力に光を当てることは可能で、有効な手法です。
5 場面を設定する
BtoB企業の製品やサービスは一般の生活者に直接的に使われることは少ないものの、その影響は社会や暮らしにも及びます。特に、世の中に不可欠なものとして存在していることが多いので、俯瞰的に場面を想像し、ベネフィットを捉えてみてください。BtoB企業では「社会」や「暮らし」といった視点がとりわけ重要になると思います。
6 逆手に取る
その昔、日本でまだ馴染みのない外資系企業が「知名度、0%」という広告を打ち出したことがありました。一般的にBtoB企業の知名度はそれほど高くないことが多いので、それを逆手に取るアプローチというのは手法のひとつとしてありえます。そして、けっしてネガティブにならず、ユーモアを取り入れると、コピーはより魅力的になるでしょう。
7 「もしも」で発想する
コピーのアイデアに詰まったら、「もしも」と考えることで、発想の幅を広げてみることをおすすめします。
「もしもこの製品が生まれてなかったら…」「もしもこのサービスが一晩で世界中から消えたら…」と考えてみると、その事業の価値やベネフィットがクリアになる可能性があります。「もしも」は思考の行き詰まりを解消し、視野を広げる発想法です。
8 社名に注目する
BtoB企業の社名はシンプルで飾り気のないものが多いと思いませんか。創業者の名前であったり、創業の地や事業内容がそのまま社名になっていたり。一般の生活者に向けたイメージづくりが必要ないから、かもしれませんが、僕はBtoB企業特有の素朴な社名がとても好きです。
以前、村田製作所というBtoB企業を担当していた時、社名をほぼそのままキャッチコピーにしたことがあります。「製作所」という言葉が魅力的なコピーになると思ったからです。社名は企業のアイデンティティーであり、それ自体がコピーの種にもなりえます。
9 掛ける
古今和歌集に掛詞が見られるように、音を掛ける言葉遊びは昔からおこなわれてきました。駄洒落と揶揄されることもありますが、巧みに掛けることができれば、それは立派な表現です。
その名人だった眞木準氏の名が冠された賞もある宣伝会議賞。一見難解なBtoB企業だからこそ、うまい表現が見つかれば、鮮やかな決まり手となるはずです。
10 時事と絡ませる
笑いの世界には「時事ネタ」というものがあります。時事がネタになるのは、多くの人に共通する関心ごとで、共感が得やすいから、だと思います。コピーでも時事問題と絡ませることで、他人ごとを一気に自分ごとにできる可能性があります。社会や世界の動向と、BtoB企業の事業の接点を見つける、その視点に期待します。
いかがでしょうか。BtoB企業の課題に取り組む際のポイントを10に絞って解説しました。お役に立てれば幸いですが、ここに挙げたのはあくまでもベーシックで汎用性の高い手法です。基本を押さえた上で、その次は自分だけの独自な視点や手法を見つけて、「そんな発想があったか」と審査員の度肝をコピーで撃ち抜いてください。人の想像力は偉大で、応募者の数だけ新たな視点の可能性はあると、毎年の審査をしながら思っています。
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