大切にしているのは、「好き」が「売れる」を上回らないこと/UNITÉ(三鷹)

アイデアの宝庫である書店で働く書店員の視点から、他店との差別化の工夫や棚づくりのこだわりを紹介する本連載。今回は2022年に三鷹にオープンした、本と珈琲の店「UNITÉ(ユニテ)」の店主 大森皓太氏にインタビュー。カフェスペースを併設し、駅から少し離れた場所で、ほっとひと息つけるような空間を提供している。書店員が考える「売れる本」とは。「本が苦手だった」と言う大森氏に、書店員の仕事で大切にしていることについても語ってもらった。

UNITÉの店主 大森皓太氏。
UNITÉの店主 大森皓太氏。

 

売れやすいのは、1700円までの本

――主な客層やにぎわう時間帯について教えてください。

三鷹は大きなオフィスなどは多くないので、周辺にお住いのファミリー層のお客さんが多いです。混みあう時間帯は季節にもよりますが、夏は涼しくなった夕方。お昼の時間帯は、駅からお店まで歩いてくる道に日陰がなくなってしまうんです。夕方には、お仕事帰りや学校帰りの方もいらっしゃる印象です。

――机や椅子を使ったり、商品である本の陳列にもこだわりが見えますね。

いえいえ。特に“こだわり”というものはなくて、私の中にある無意識の「こうすれば売れるだろう」というフィルターを通したら、自然とこうなっていました(笑)。意図的に加えた部分は、ほぼないです。



大森さんの無意識の「売れそう」という感覚を体現した棚づくり。
 

――「UNITÉ(ユニテ)」で売れる本のジャンルはありますか?

「ジャンル」というより「価格帯」に特徴があって、定価が1700円くらいの本は比較的売れやすいです。

一般的に大衆的な本は比較的安く、専門的な本は高めの価格設定になりますよね。ですから、例えば、お堅い専門書が1700円だったら、お得に感じられて売れるのだと思います。

あとは、その価格に適した、その価格で勝負できる「エッセイ」とか、そういうものも売れやすいです。

反対に、1700円までで勝負できるであろう「文芸」「フィクション」がすごく売れるかというと、そうではないんですよね。特に当店のような小さめの書店では、大手チェーン店が置かないような、あまり目立たないものを置きますから。チェーン店で目立つものは、お客さまはチェーン店で買うので、そこにないものを売るという前提条件はありますね。

分かりやすく言うと、大きな書店にはドラフト1位の本がたくさん並んでいて、当店にはドラフト6位くらいの本が並んでいるイメージ(笑)。ただ、1位を置かないわけではなくて、1位も6位も同列に並んでいる感じです。

――「UNITÉ」という屋号は、大森さんが学生時代に通った京都のブックカフェから譲ってもらったんですよね。

はい、屋号を自分で考えていたら、多分こそばゆい感じになっていたと思うんです。なんかうまくいかないような……。名前に対してニュートラルでいられること、また伝統はお金では買えないことから屋号を譲っていただきました。

そこに通っていた人たちに対しても、何かインプレッションを与えることができるかなと思っています。当店もカフェを併設していますが、近所の方はカフェだけを利用されることもあります。お客さまに多い流れとしては、本を買ってカフェでゆっくりしていく、という感じですかね。


カフェメニューにはドリンクだけでなく、チーズケーキやプリンなども。
 

――学生時代も書店でアルバイトをされていたと伺いましたが、そのきっかけとは?

就職したら、出版業界と関わることがないだろうから、それまでに1回経験しておきたい、という動機です。結局ずるずると今もいるんですが(笑)。

――元から本が好きだったのでしょうか?

いえ、本は苦手な方でした。しかし20歳を超えた時に、自分に苦手なことがあるのが嫌だったので、「克服してやろう」と思って本を読み始めました。すると、いつの間にか苦手ではなくなっていきました。勉強するうちに、苦手だった教科のテストで高い点数を採れるようになっていったという感じ。決して「好き」とかではなくて、勉強的に読んでいましたね。今でもそれは繋がっていて、いまは仕事として本を毎月15冊程度読んでいます。

――大森さんはTwitterやInstagram、YouTubeで積極的にお店のことや本について発信されていますが、SNSの活用については。

開店準備期間中に時間を持て余していたことが、YouTubeを始めたきっかけです。オープン前でも店のことを認知していただければいいなと思っていました。動画は自分で企画・撮影・編集をして、アップしています。

大森さんが運用するYouTubeチャンネル 「UNITÉ channel【三鷹・本と珈琲の店】」。おすすめの本や読んだ本を紹介している。

以前からYouTubeを見てくれていた海外在住のお客さんが、この間お店に来てくださって。その方は6年ぶりに日本に帰国されたそうなのですが、本を十数冊買っていただいたのが印象的でした。投稿頻度は高くないですが、今後もいろいろ投稿していけたら、と思います。

「私は本来、本屋をやるべき人物ではない」

――日々、働くうえで大切にしていることは何ですか。

大切にしているのは、「好き」が「売れる」を上回らないことですね。仕事でやっている限り、「好き」はほとんど介在させないようにしています。「好き」だけで本を置いたり、イベントの企画をしたりするのではなく、経験をもとにした「売れる」の感覚を重視しています。

書店員は本に対してすごく愛情があると見られがちですよね。「ここにある本、1冊1冊全部読んでセレクトされたんですか?」と聞かれることもありますが、そんなわけないじゃないですか(笑)。もっと小さい規模やオンライン中心のスタイルならいいですが、現実的に、それは難しいです。

そのため、例えば版元から届く注文書のチラシなどは、「書影」「ページ数」「判型」「手触り」なんかが書いてあると、「うちで売れるかどうか」が判断しやすいです。チラシに情報が少ない書籍は、書店にとってはリスクが高い。それだけではなかなか注文できません。

反対に発売後に書籍を見て、「これなら売れた(注文した)のに!」と思うものもあるので、やはりチラシの情報は多いほうが嬉しいです。

また、私はひとつの場所だけでやろうとは思っていなくて、年明けにも新店舗を出す予定です。複数の店舗を展開しようとしているのは、書店に携わる人を育てるため。私は本来、本屋をやるべき人物ではないと思っているので、自分のお店を任せられるような人材が育っていくことが理想です。

私はこの業界にビジネスチャンスを感じたから書店を運営していますが、本当は本が好きな人にやってもらえたらいいなと思っていて。ただ、いま書店業界は“斜陽産業”と呼ばれているように、本が好きな人が自由に書店を運営できるような環境にないので、そのための交通整理をしているところですね。書店の新しいスタイルを生み出せていけたらと思っています。

――お客さんとのコミュニケーションについては、どうですか?

特に初対面のお客さんに対しては、「本をおすすめすること」を辞めました。もし、おすすめした本がお客さんの期待していたものと違っていたら、お互いに悲しい思いをするのははもちろん、仮にその本がその人にとって面白いものだったとして、お客さんが自分でそれを見つけた時の喜びを私が損なってしまっている可能性があるな、と思うんです。私自身、もしおすすめされた本がすごく良かったら、「やられた!」とすごく悔しい気持ちになるなと(笑)。

ある程度、探している本の文脈があればおすすめしますが、皆さんから“自分で面白い本を見つけた喜び”を奪ってしまいたくなくて、あまりおすすめはしていないです。

なので、私も今回、めちゃくちゃ面白い本をおすすめ書籍(※本記事の最後)として紹介しますが、皆さんには読まないことをおすすめします。私がこの面白い本を見つけ出したように、皆さんにも面白い本をご自身で探してみてもらいたいです。

――そんな大森さんにとって、「本」とは。

「本」は、読んだ時のことを私たちに思い出させてくれるメディアだと思っています。正直に言うと、本の内容はそこまで必要ではなくて。本は、どこで買ったか、どこで読んだか、あるいは誰と読んだか、ということを記憶してもらえる装置で、紙の本である意味はそこにあると思います。

本を読み返すと、意外と当時の記憶が蘇ってきて、「昔も自分は生きていたんだな」とほっとします。「今までの人生は何だったんだろう?」と迷ったりした時、小さいものかもしれないけど、足場を築き直すアイテムとして、本は機能してくれるような気がしますね。

大森さんは、「『この本は違ったな』という失敗を含めて、本を買ったり読んだりする経験が積み重なることで、知らず知らずのうちに自分の行動に責任を持つ感覚も養われていくのでは」と語った。

やる気の比重は、「カフェ1割、本屋2割、イベント7割」だと話す大森さん。同店では、毎月さまざまのイベントが開催されている。
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DATA
UNITÉ
東京都三鷹市下連雀4-17-10 SMZビル1F
開店年:2022年
営業時間:12:00~20:00
定休日:月曜(祝日の場合は、翌火曜)

大森さんおすすめの1冊

『夫婦間における愛の適温』
向坂くじら(著)

1994年生まれの詩人・向坂くじらさんの初めてのエッセイ集。いや、はっきり言って天才だと思います。こんなに論理的に物事を表現できるんだと思うほどロジカルな文章で、読むだけで自分の頭も良くなるような、そんな錯覚を覚えます。また発想がユニークなのでとことん面白いです。国や会社、学校あるいは家族という組織の中で自分の意見や感想を押し殺すという局面は多々あると思いますが、自分の中の譲れないものを言葉で捉えて離さない著者の文章に触れると「自分も一丁、勝負してみるか」と勇気付けられると思います。




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