KPIの曖昧さがキャリア形成にも影響? 「広報の仕事とキャリア」(Sansan 小池亮介)

小池 亮介
Sansan 社長室 室長
神山まるごと高専 広報・パートナー担当

1988年横須賀生まれ。2013年からIT業界に特化した外資系PR代理店にて、広報・PRのキャリアをスタート。半導体からソーラーパネルといったBtoB業界からドローンなどのBtoCサービスまで、企業の広報業務を幅広く経験。2017年にSansanに入社し、広報・PRに従事。2022年より同社の社長室立ち上げに向き合う。2019年の構想発表記者会見より神山まるごと高専の広報として活動。

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えてきたのでしょうか。
横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。真鍋順子さんからの紹介で今回、登場するのは小池亮介さんです。

Q1:小池さんの現在の仕事内容とは?

私は現在2つの仕事を行っています。1つは、徳島県神山町に2023年4月に開校した「神山まるごと高専」の広報責任者 兼 パートナーチームのリーダー。もう1つは、働き方を変えるDXサービスを提供するSansanの社長室室長です。

前者は、2019年の学校の構想発表から携わっており、社会を巻き込むための広報設計・イベントの企画や開校後は、学校広報として数多いるステークホルダーに向けて情報発信を行なっています。具体的にはいわゆる広報業務。学校行事・施策に基づくプレスリリースの作成・配信といった広報活動。X(Twitter)、noteを中心としたオウンドメディアの企画発信。メディア取材の調整や対応業務です。

特殊なところで言うと、神山まるごと高専は新設校のため、開校前は誇れる実績がない中で、認知やブランド形成をしなければなりませんでした。そのため、応援購入のMakuakeを使った企画「あなたも「学校作り」しませんか?

神山まるごと高専(仮称)設立プロジェクト」を、学校のクリエイティブディレクター山川咲と一緒に企画し、社会の期待の声を可視化したりしました。

パートナー業務に関しては今年の7月から担当しています。神山まるごと高専の学校作りに協力いただいている企業さまは本当に多くいらっしゃっていて、その企業さまとのコラボレーションを企画・運営していたりします。

後者は2022年から担当しており、Sansanの代表取締役社長 / CEO寺田親弘のサポートや社長広報を担当しています。登壇資料の作成や寺田が関連する取材活動のハンドルが主な業務となり、そのほか必要があれば、なんでも動いています。

 

Q2:これまでの職歴は?

新卒で入社してからずっと広報を担当してきました。元々、国際関係の大学院にいたのですが、就職活動中にたまたま声をかけてもらったHoffman Agency

というITに特化した外資系のPR代理店に2013年に就職。海外のクライアントが中心の中、初期はBtoB領域の広報活動を多く担当しました。

例えば、半導体やソーラーパネルのモジュール、セキュリティソフト、3D

CADなどです。2015~2016年ごろから、クライアントの傾向が少し変わり、モバイルバッテリーやドローン、VRヘッドセットなどBtoC領域のサービスを多く担当することが増えました。

転職の転機は、とあるベンチャー企業の新サービス記者発表会でした。100名くらい記者を集め、最大限頑張って記者発表会を成功と言える形で運営しきったとき、ふと喜んでいるクライアントの皆さんを見て、「自分はクライアントほど、自分ごと化して仕事ができているのか。PR代理店は楽しいけれど、もっとどっぷりその会社に浸かりながらPRをした方が良いのではないか」という思いが湧いてきました。

元々ベンチャー志向だったこともあり、その思いがどんどんと強くなり、転職を決意。縁あって2017年、当時社員数が250名規模のSansan株式会社に入社しました。

当時、Sansanは創業当初から支えていたPR担当者がとても優秀で、ベンチャー企業としてとても知名度が通った状況。そのPR担当者自身のキャリアチェンジにより、広報チームの再立ち上げの任を受けて入ったので、とてもプレッシャーがあったのを覚えています。プロダクト中心のPR活動に切り替え、記事掲載数を伸ばすことはできました。

その後、SansanのPRマネジャーとして、2019年のマザーズ(当時)上場などを経て、2022年に現在の社長室に異動しました。

 

Q3:転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?

今いる場所から転職したり、異動しようとしたりする時、「この転職先・異動先に行ったらうまくいくか?」という目線に立つと、意思決定に迷うことは多くあると思います。ですが結局のところ、「うまくいくように頑張る」しかないのかなと思います。自分が頑張るにふさわしい場所であるか、頑張った先に結果が出やすい環境であるか(自分の性格と合っているかとか求められる能力を持っているかなど)の情報収集をなるべく行いつつ、腹を括って転職したら、うまくいくように最大限頑張ってみる心持ちでいます。

また、転職や異動といった場合は、自分が戦力になれるかを考えるのも重要だと思います。新卒の就職では「学ばせてもらおう」というスタンスでいることは仕方ないと思いますが、転職や異動はその部署や会社において貢献し戦力になることを期待されています。「社内制度や福利厚生は魅力的・・」とか「会社として安定してそう・・」といった軸もよいですが、単純に、その会社やその事業に貢献して、そこを成長させられるかといった観点を自分自身に問う必要があると思っています。

代理店に在籍している方は、長くその会社に在籍している中で、自分の広報キャリアを「このまま代理店で続ける」のか、「事業会社に行ってみるのか」、迷うタイミングがあると思います。どちらに行っても正解はなくそれぞれの場で「うまくいくように頑張る」しかないのですが、個人的には事業会社に一度在籍してみると、その後、代理店側に戻ったとしても仕事においてプラスになることが多いと思っています。

代理店、事業会社は一緒に広報活動を行う「仲間」ではありますが、そこには役割分担が発生します。大雑把に言うと、事業会社側は何を広報するかを決めたり、社内調整をしたりする。代理店側は広報実務をしたり、広い業務経験から事業会社にアドバイスをしたりします。どちらに対しても、やってみないとわからない複雑な内部事情があり、それを体験レベルでわかっていた方が質の高い業務ができるのは自明だと思っていて、長く広報キャリアを積もうと思うのであれば2~3年事業会社に行ってみるという選択肢は大いにありうるものだと思います。

 

Q4:国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?

広報として求められる能力が毎年アップデートされる中で、いかに枝葉の部分に目を奪われず広報としての本質を学びにいけるかが難しいと思います。狭義の「広報業務」で言うと、プレスリリースを書いたり、取材に同席したり、SNSで発信したり、とどれも大事な業務であるものの、広報活動の本質は社会や対象となるステークホルダーの態度変容・行動変容を生むことだと思います。そして、情報環境が急速に複雑化していく昨今においては難易度が年々上がっている状況です。

社会の情報環境がどのような状況になっているのか、を毎年キャッチアップすること自体も日々の勉強が必要ですし、社会やステークホルダーの隠されたインサイトに向き合う姿勢。そのターゲットのインサイトにあうように自社の情報を加工する力など、本質的な広報力を鍛える機会は多くないように思います。本を読んでみたり、ゼミに通ってみたり、試行錯誤が求められると思います。

また、KPI設定の曖昧さからくる、社内におけるポジション確保の難しさは、キャリア形成という観点で一定のハードルになっているように思います。「結局、広報って何をしているんだっけ?どんな価値があるんだっけ?」となった際に、数値で経営に貢献できる指標が広報の業界として確立されておらず、「やらないよりやった方がよいけど、やらなくてもよいもの」と捉えられてしまう企業がいまだに多く存在していると思います。

そういう評価にならないように、広報業務やその成果に対する理解の促進を社内に対して行うことが大切に思います。また、本質的ではないものの行動量を一定の指標にする。例えば「X(旧Twitter)で1万Viewのポストを月に20回できたら、一定ターゲットに届いているだろう」といった、仮説をベースにした目標設定をし、そこに向けてアクションを行うなど、社内の広報を知らない人たちでも納得しやすい目標設計を行うことも時に必要だと思います。

 

Q5:広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?

今、まさにチャレンジしていることですが、「社長室」として会社の代表である寺田をバックアップしたり、社長の広報活動を行ったりすることです。私には経理や人事・営業などのバックグラウンドはないので、数字の読み方や社内の人材マネジメントなど、寺田が見えている目線を必死にキャッチアップしているところです。

また、社長広報や社長を介した社内広報。例えば、全社に対しての代表からのメッセージ発信などコミュニケーション活動をアップデートしていきたいと考えています。「広報は経営に近くあるべき」というのはよく言われるものですが、社長室というポジション自体、経営層の真横で働く部署となります。この立場から広報を捉えた時に何ができるのかは試し甲斐が多いなと感じています。広報というキャリアの次のステップとして「社長室」が挙げられるくらい、型のようなものが作れないかなとも思います。

神山まるごと高専の広報活動においては、学生が主役の中で、彼らを広報活動からバックアップすることに挑戦しています。学校広報はステークホルダーがとても多いのが特徴です。学校が位置する神山町の住民の皆様向けの広報活動。教員の皆様向けの広報活動。2期生以降の未来の学生に向けた広報活動。そして、学校に在籍している学生たちが社会に打って出るときに、「神山まるごと高専の学生となら一緒に何かしたい。協力したい」と思ってもらえるような学校ブランディングの活動。やるべきことは多くありますし、ひとつの方法で解決できるものでもないです。

ただ、広報の大きなゴールのひとつでもある社会を動かすこと、対象の行動変容を生むことが比較的わかりやすいケースでもあります。なので、試行錯誤の中で知見を深めていきたいと考えています。

 

Q6:次のご回答者となる他の国内事業会社の広報担当の方のご紹介

【次回のコラムの担当は?】

Sansanの小池さんが紹介するのは、スタディストの広報室室長 朝倉慶子さんです。もともと営業事務やオンライン3Dプリントサービスの運営責任者をされていた中で、どのようにして広報になったのか。また、スタディストの拡大の中で、どのように組織や広報の形を作ってきたのかなど、私も知りたいこともあったので打診させていただきました!

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