体制の考え方が、プロジェクトの機動力を決める
社内で複数の部門とかかわることの多いマーケティングの仕事。それゆえ、ときに全社横断プロジェクトのリード役を担うケースも多いのではないでしょうか。本連載では、特にマーケターを対象にしたプロジェクトマネジメントの掟を解説しています。
あなたが、「全社横断プロジェクトチーム」のリーダーに任命されたら、その時どうする?
そんなシチュエーションを想定して、PM(プロジェクトマネージャー)の仕事について解説していく本コラム。今回は「プロジェクト体制」についてお話しします。今回のお題は、「巨大なプロジェクトに対して、どんなメンバーで臨むべきか?」です。
メンバーはプロジェクトのエンジンであり、そのエンジンの馬力はメンバー構成で決まります。PMがひとりでできることなんて、たかが知れてる以上、いかに周りに頼って、助けてもらえるかがプロジェクトの成否を分けます。つまりメンバー選定や体制をどう考えるかによって、プロジェクト運営の機動力が決まるのです。
メンバー選定で最優先すべき人は?
もし私がメンバーを選定できるとしたら、まず何よりも「意見を出せる人」を求めます。前回、プロジェクトの品質は会議の品質で決まるとお話ししましたが、その会議の品質はメンバーの意見の「質」によって決まります。PMが一方的に話す穏やかな水面が、様々な意見によって表情が変化することが望ましいのです。
会議が活発化すると、お互いの主張をぶつけあうことで論戦が起きます。会議を仕切る立場からすると、この論戦がおもしろいのです。よく調べられた意見には感心しますし、自分が思いつかない視点の意見が語られるとわくわくします。そして何よりこうした論戦は、会議品質を一気に高めます。その意味でも、メンバー選定は会議上で発言を活発に行うメンバーが最適なのです。
そしてもうひとつ、優先すべきタイプがあります。それは「精神年齢が高い人」です。プロジェクトでは横の連携のためにコミュニケーション能力が重要なのは言わずもがなですが、自発的に動く(自身に知識がなければ自ら学ぶ、調整が必要であれば積極的に連絡をとる)、視野が広い(ベクトルが多方面に向いている)という能力は非常に価値があります。大型プロジェクトは基本的に締め切りまでの時間がなく、スピード感をもって行動しないとタスクが溜まる一方となります。
しかし、その状況下で例えば自発的に動かず、常にPMからの依頼を待っていたら、どうなるでしょう?その人だけ大量の未完了タスクが溢れて、プロジェクト全体のスピード感が失われます。また、ベクトルが自分に100%向いていたら、その人の対応や態度はどういうものになるでしょう?自分本位な言動により、メンバーと軋轢が生まれるかもしれません。
世の中、すべての社会人の精神年齢が高いわけではありませんが、大型プロジェクトではどうしても無茶ぶりのような仕事の進め方をしないといけない場面がたびたび発生します。そのとき、状況察知能力を発揮して、誰に言われるでもなく前向きに取り組むのか、不満を垂れて自分の気持ちを晴らすことに貴重な時間を費やすのか、どちらが有益かは明白です。自らへ負荷をかけてでも、仕事の責任を全うしようとする素晴らしいメンバーとプロジェクトを進められることは、PMにとってこの上ない幸福でもあるのです。
激しい感情はプロジェクトに不向き
逆に、プロジェクトに向かない人もいます。それは「感情を全面に出す人」です。(ここでいう“感情”は熱い気持ちや情熱ではなく、大声で相手の意見を封じたり、マウントを取る行為を指します)。理由はズバリ、論戦ができないからです。課題に対する解決策は論戦のなかで磨くしかないのですが、感情は論戦には不向きです。プロジェクト全体においても、プラスに働くことはほとんどありません。
プロジェクトはいかにチーム全員が一枚岩で臨めるかによるので、仮にあるメンバー候補者が優れた知見を保有していても感情で相手をねじ伏せるような人であれば、私は第一候補には選びません。激しい感情は、プロジェクトにとってリスクでしかないのです。
外部コンサルタントの起用と付き合い方
大型プロジェクトでは企業によって、外部コンサルの方を招聘してプロジェクトを強化させようとすることがあります。ただ、コンサルの起用が必ずしもプロジェクトの成功に繋がるとは限らない、というのが私見です。というのも、たしかにコンサルは優秀な方が多いですが、コンサルも正解を持っているわけではない、ということです。大事なのは、起用する場合に何を依頼するか具体的に考えているか、という点です。
例えば、コンサルは、日本経済や市場動向などマクロ視点の提案が優れているケースが多いと思います。ですが、だからといって自社の顧客や商品群、運用環境、人的能力や社内風土など自社独自のミクロ視点の提案も優れているかというと、そうとは限りません。私はミクロ視点の話題であれば、日頃から接している自社の人間が最も理解しているはずで、そこから捻りだした考え方こそ正解に最も近いと思うのです。
そう考えると、プロジェクトの方針策定や全体設計、各種取り組み内容はPMをはじめとした自社のメンバーが担当すべきであり、コンサルにはあくまでサポートメンバーとして参画いただく方がベターであると私は考えています。
なお、コンサル起用時に自社側に求められるのが、コンサルを管理・コントロールすることです。コンサルの案に対して適切なリアクションができること、つまりは対等に論戦ができる能力が必要です。それを持たずにコンサルが一方的にアクションを起こす関係性だと、コンサルが宙に浮いてしまいパフォーマンスが悪化します。
そうした意味でも、やはり自社側がしっかり自分たちで考えるということが大事になります。自社メンバーは粒度の大きなタスクを扱うので大変ですが、ここは頑張ってチャレンジしたいところですね。これこそ、プロジェクトのおもしろさが凝縮された場面ですから。
外部コンサルタントに対する禁止事項
コンサルを起用した場合、絶対にやってはいけないことがあります。それは「コンサルに丸投げをしてはいけない」ということ。これをすると、プロジェクトは失敗する可能性が急激に高まります。
丸投げをしたい気持ちは分かります。優秀なコンサルはどんな課題も解決してくれそうな期待感がありますよね…。困り果てた身からすると、魔法使いに見えますよね。私もそう思っていた時期がありました。しかし、断言します。コンサルは魔法使いではありません。一日を100時間にできるわけでもないですし、1秒間に100ページの資料を作れるわけでもありません。当然のことながら、コンサルも人間です。人間なので、全振りして「あとよろしく」では、モチベーションは上がりません。その状態でプロジェクトマネジメントをしても、妥協の産物が大量に生まれるだけで、結果的に丸投げした人が責任を負う始末となります。
あくまでコンサルは外部から参画してくれた一協力者に過ぎないという視点で関わりを持ちながら、自社メンバーが中心となりプロジェクトを推進することが、プロジェクト品質、ノウハウ蓄積、人材育成という面でも、とても有益なのです。
メンバー個々の足し算ではなく、かけ算を目指す
米国シリコンバレーの格言に、「Aクラスの人はAクラスの人を採用したがる。Bクラスの人はCクラスの人を採用したがる。」という言葉があります。一流の人は一流の仲間を増やして良い仕事をしながら自らを成長させ、二流の人はライバルを作らないように自分より能力が下の人を採用したがるという意味です。サラッと読むと嫌味な表現にも見えますが、私はプロジェクト体制もこれに通ずるものがあると考えています。
プロジェクトは一枚岩で臨むのが前提ですが、それは個々の足し算ではなく、かけ算であるべきだと思うのです。人数が多ければ良いものではなく、メンバー仲が良いからベストな体制というわけでもありません。知見、行動力、闘争心、向上心…、個々の能力や姿勢をお互いが引き上げあい、刺激を受けるなかで、メンバー同士の能力が相乗的に高められていきます。その結果、プロジェクトはキックオフ時の予想よりも磨き上げられ、輝きを放つ姿へ変貌を遂げていくのです。
…と言いつつ、現実的にはスペシャルなメンバーだけで構成できる機会は少ないですし、難しい特徴があるメンバーとプロジェクトを進めるのも、終わってみれば楽しいものではあるのですが(進めている時は悩みますけど笑)。
次回の最終回では、「PMに必要なもの」について解説します。