創業から10年経った「お菓子のスタートアップ」が向かう先
「アドタイ」読者の皆さん、こんにちは。BAKE INC.(以下、「BAKE」)の北村 萌です。
私が所属するBAKEは、今年創業から10周年を迎えた製菓企業です。駅をはじめとした商業施設で、焼きたてチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」の店舗など、当社が展開するブランドを目にしていただいたこともあるのでは?と思います。
私たち、BAKEは2013年の創業以来、「お菓子のスタートアップ」を標榜し、「1ブランド=1プロダクト」戦略で店舗を拡大してきました。そして、そのブランド開発に際しては、“スタートアップ”というだけに開発のスピードも重視。それゆえ、社内には商品開発だけでなく、パッケージに店舗空間や什器などのデザインを担うインハウスクリエイティブチームがいることが特徴です。
そんなブランドづくりに強みを持ってきたBAKEですが、工房一体型店舗を通じたシズル感を強みにしてきた私たちは、コロナ禍は非常に苦戦をしました。私たちを取り巻く環境が日々変わる中この約2年、新しいブランドを開発できずにいたのです。しかし、コロナ禍で消費行動のデジタルシフトが加速し、製菓市場を取り巻く環境も激変しています。今こそ、これからのBAKEの経営戦略を体現するような新ブランドが必要!そんな強い想いが社内から巻き起こり、2022年10月から新たなブランドの開発を始めていました。
そして、今年10月、ついにその新ブランド「しろいし洋菓子店」をお披露目できることに!
私からはまずBAKEのブランドづくりの特徴からお話していきたいと思います。当社のブランドづくりは、部署や役職関係なく社内の多くのメンバーが何度も対話を重ねながら作り上げていくところに特徴があります。みんなで膝を突き合わせ、さまざまな視点からブランドイメージを膨らませていきます。全員がブランドづくりの当事者としてかかわることで、ブランドの熱量が上がり、ぶれがなくなってくる。これは私たちの強みだと感じています。
これは2023年10月に、発表した新ブランド「架空のパティスリー しろいし洋菓子店」も同様です。
コラム1回目となる今回は私、北村からBAKEのこれまでの変遷と「しろいし洋菓子店」が生まれた背景について、2~4回目はインハウスクリエイティブチームを擁するBAKE流のブランド開発のプロセスをオンライン事業・デザイン・コミュニケーションと、新ブランド開発に携わったさまざまな部門の責任者が、「しろいし洋菓子店」の事例も踏まえつつ、“BAKEのブランドづくり”についてそれぞれの視点からお話します。
1ブランド=1プロダクトからの脱却 ―BAKEの戦略の変遷―
前述のようにBAKEでは創業以来「1ブランド=1プロダクト」「工房一体型」をキーワードに、専門店業態として多店舗展開を進めてきました。
しかし、2020年以降コロナウイルスが流行し、状況は一変しました。私たちは⼈通りの多い場所に店舗を構えていたので、街に⼈がいなくなってしまったこと、さらに帰省や会食といったお菓⼦が手土産として使われるシーンまでなくなってしまったことで、売上が激減し、⼤きな打撃を受けました。
そこで私たちが行った施策が“マルチブランド展開×OMO(オンラインとオフラインの融合)の推進”でした。
まずコロナ禍でスイーツの自家需要が高まる中、急ピッチで準備を進めたのが、2020年6月に開設したオンラインショップ「BAKE the ONLINE」でした。その一年後には新業態として、BAKEが展開するブランドが集結するエディティッドストア「BAKE the SHOP」をオープン、現在は国内に4店舗を展開しています。
こうしてオンラインでもオフラインでもBAKEの複数のブランドの商品を一度に購入できるようになりました。
これと並行してポイントプログラム「BAKE Membership Program」を新設。店舗とBAKE THE ONLINEの会員情報を統合し、顧客情報の⼀元化を行いました。
このように今あるブランドに対してのDX戦略が進んでいきましたが、その中で「人々の行動変容に合わせてBAKEらしいブランドを出したい」という想いが強くなっていきました。今の時代に合った、でもこれまでなかった、そしてお客さまに愛されるブランドをつくるにはどうしたらいいか。
多くのメンバーと一緒に考え抜きました。こうして生まれたのが「架空のパティスリー しろいし洋菓子店」です。
「ひとくち、ふたくち、夢うつつ」 ストーリー性にこだわった新ブランド
「ひとくち、ふたくち、夢うつつ」
これは、「しろいし洋菓子店」のキャッチコピーです。
最初からオンラインで販売するブランドを作ろうということは決まっていましたが、これまでのように既存ブランドの商品をオンラインで買っていただくというわけではありません。多くのD2Cブランドがある中で、私たちの商品を選んでもらうには何が必要なのか、サイトに訪れたくなる仕掛けを考えながらこのブランドをつくっていきました。
まず、店舗ビジネスに変わる、人々を惹きつける魅力が必要だと感じました。
そこで設定したキーワードが “Immersive(没入)” です。
ブランドにストーリー性を持たせることで、“Immersive”なものが作れるのではないかな…とみんなでアイディアを出しあっていったのです。
1階に「しろいし洋菓子店」を構える「マンション・インディゴ」には個性豊かな住人が住んでいて、それぞれ”推し”のお菓子があります。
たとえば、501号室に住んでいるのは小麦と花の「フラワー姉妹」。性格も好きなものも正反対の2人ですが、土曜日の夜は姉妹そろってティータイムを楽しみます。2人の”推し”は「501号室 夜更かしのための4種のクッキー」。お部屋の番号と住人のお菓子の楽しみ方が商品名になっているんです。
「今後、新しい住人が増えるのかな。そうしたら『しろいし洋菓子店』で販売するお菓子が増えていくのかもしれないな。もしかしたら将来はマンションが増設されたりもするのかな。そんなふうに今後の展開についてもわくわくしていただける設定を目指しました。
また、商品についてもこだわりました。「しろいし洋菓子店」のメイン商品は4段の階層からなるクッキー缶。
1段目・2段目は独特の世界感に引き込まれるスパイラル型クッキーで、味や食感の異なる4種のクッキーがまるでパズルのように敷き詰められています。3段目は一面に広がるフロランタン、そして4段目には雪の真っ白な世界を思わす口どけなめらかなブールドネージュ。
缶を開けた時の驚きや食べ進めていく楽しさを演出できるよう、北海道の自社工場のパティシエと試行錯誤を重ねました。また、デザイナーが”Immersive”を表現できるクッキーの形を考えたりと、それぞれが商品をブラッシュアップし続け、「しろいし洋菓子店」のアートなクッキー缶が誕生しました。
また、OMOならではの楽しみ方という点についても考慮しました。お客さまはオンラインで注文し手元に届いた商品と、ブランドサイトやSNSといったオンライン上で繰り広げられるストーリーを一緒に楽しむことができます。後々はリアル店舗での販売もしたいなと考えていますが、そのときも「ただ店舗で商品を売る」ではなく「マンション・インディゴが現実世界にあらわれる」、そんな売り場にしたいと思っています。
商品はもちろんのこと、世界観やストーリーにも没入し「夢うつつ」になっていただきたいと思います。
「お菓子を、進化させる。」 一方通行から共創へ
これまでを振り返ると、私たちBAKEのブランドづくりは一方通行だったかもしれません。
「自分たちが良いと思うものを、再現性高くシンプルに伝える」。それゆえ、削ぎ落とされたミニマルなデザインで、業態もシンプル。BAKEの持っているブランドそれぞれがどこか似ていると思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
自分たちのブランドに自信も持っていたし、工房一体型や専門店業態自体が新しかったということもあると思います。「1ブランド=1プロダクト」には分かりやすさ、原材料調達やオペレーション効率の良さなど利点もたくさんあります。
しかし時代は変わりました。VUCAの時代と言われて久しいですが、こんな時代だからこそブランド自体も変わっていけることが求められていると感じます。
BAKEのかかげるVISIONは「お菓子を、進化させる。」
でも、今私たちはお菓子を進化させられているだろうか?これまでの私たちの強みであった「1ブランド=1プロダクト」が、逆に自分たちの可能性にキャップをかけてしまっているのではないか?もっと振り幅を出して、オケージョンやトーンの異なるわくわくしたブランドづくりをしよう!
こうして生まれたのが「しろいし洋菓子店」なのです。
だからこそ、進化していけるブランドでありたい。お客さまと共創でき、長く愛していただけるブランドでありたい。生まれたばかりの新ブランドをこれからみんなで大切に育てていきたいです。
続く2回目の本コラムは、ブランドプラットフォーム部長の西岡にバトンを渡します!
BAKE
Chief Branding Officer
北村 萌氏