「PM」に必要なものは胆力!? 高負荷時間だからこそ得られるスキルとは?

社内で複数の部門とかかわることの多いマーケティングの仕事。それゆえ、ときに全社横断プロジェクトのリード役を担うケースも多いのではないでしょうか。本連載では、特にマーケターを対象にしたプロジェクトマネジメントの掟を解説しています。

あなたが、「全社横断プロジェクトチーム」のリーダーに任命されたら、その時どうする?

そんなシチュエーションを想定して、PM(プロジェクトマネージャー)の仕事について解説していく本コラム。最終回の今回は「PMに必要なもの」についてお話しします。

底辺が広いほど、山は高くなる

若い方とお話しすると、PMになるために培うべき必要な経験は何かと質問されることがあります。私は「必要な経験は間違いなくあるが、しかし一方で特筆するものはありません」とお答えしています(禅問答みたいな答えですよね…)。

少し余談ですが、私のキャリアのスタートはセールスプロモーション(SP)のプランナーでした。企業規模は決して大きくありませんが、ナショナルクライアントを多く顧客として抱え、営業、プレゼン、実行、納品まで一連の流れをすべて自分たちで実行する会社でした。

いま振り返って私が幸運だったのは、社長付きの下っ端要員として配属されたことです。配属中は、短期間で幅広い仕事を、数多く経験させてもらいました。大量の雑用をこなしつつ、企画100本ノック、大勢のクライアントの前でプレゼン、全関係者会議の仕切り、早朝から深夜までイベントの設営・実施・撤去を行い、クタクタになって帰社した後は明け方までキャンペーン企画書の作成など…。「仕事の褒美は仕事」だと言い聞かせながら、広告業界では(悪しき?)慣習な働き方を私も漏れなく数年間にわたり体験しました。

しかし、当時は高負荷から完全に余裕を失い、仕事や人間に対して恐怖心を抱きながら、精神状態が不安定な時期を過ごしていました。そんな悩む日々を過ごすなか、社長にあるひと言を投げかけられました。「経験の底辺が広いほど、山は高くなる」と。仕事の実力は、経験の広さと深さに紐づいている。とにかく何事も挑まないと力はつかない、広い守備範囲で存在感を出さないと評価できない、という意味でした(言われた直後は意味がよく分からなかったので後日聞きました笑)。

この言葉はとても私の心の琴線に触れ、以来、自分なりに必死に20年余り様々な仕事に真剣に取り組んできましたが、そのすべてが今のPMの仕事に生かせていると強く感じます。物事の視点を増やすには経験値を積むしかなく(とりわけ失敗経験は貴重です)、その経験には捨てるものがありません。そういう意味で、PMに必要なことは無限にあり、真剣に取り組んだすべての経験が役に立つ、ということで冒頭の禅問答のような答えになるのでした。

QCDだけを意識する

経験は、そのすべてが役に立つので特筆することはありませんが、PMに課せられる役割は明確に存在します。それは「意識するのは、QCDだけ」ということです(QCD:Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期))。

少し極端な言い方をすると、PMが機能しなくてもプロジェクトは前に進みます。ただ、下の図のように、品質が悪い、スピード感がないというリスクがあるだけです。それを許容できるなら、PMにこだわらなくても良いでしょう。しかし、本当にそれでいいのか?という話なのです。


実データ グラフ PMに影響されるプロジェクトレベル

プロジェクトとは、取り組みの基盤を完成させることであり、運用開始後にその基盤を大きく変えることはできません(厳密にはできますが、あらゆるコストがかかるので想定しない方が良いです)。だからこそプロジェクトの品質は大事であり、スピード感についても特にデジタルの世界ではリリースが1日早いだけで利益を生むこともあるので重要なのです。

能力を高めれば、人の役に立てる

PMを担当して感じる素晴らしいことのひとつは、自分が伸びていると実感できることです。私も様々なプロジェクトを担当しましたが、常に新しい知識や新しいメンバーとの関わりがあり、本当に多くの収穫があります。自分を高めることの何が素晴らしいかというと、「人の役に立てる」ことです。

世の中、人の役に立ちたいと考える素敵な人はたくさんいますが、ビジネスの現場において本質的に人の役に立つには、何かしら周りよりも秀でたスキルセットが必要になります。つまり、人の役に立つにはスキルセットを強化する実行力が求められます。その過程では辛いことがあるかもしれない、悔しい思いをするかもしれません。しかしだからこそ、そのスキルは人の役に立つという崇高な価値を生み出すと思うのです。

「自己中心的利他」の考え方のイメージですね(自己中心的利他:自己中心的に自分らしく生きることが自分も周りも幸せにする、という考え方)。

突き抜けるレベルまで能力を高める。社会や組織、何よりプロジェクトに必要とされる絶対的な存在になる。その強烈な向上心によってプロジェクトにおける自己中心的利他は成し遂げられるのだと思います。

いちばん必要なものは、胆力

「PMに必要なもの」をひとつだけ挙げるなら、私は「胆力」を挙げます。

プロジェクトの規模が大きくなるほど実務も増え、悩みごとも多くなります。時には周りから不満を寄せられることもありますし、それでもスケジュールに焦りながら、プレッシャー片手に必死にこなしていく日々が続きます。PMに負荷がかかるのは仕方がありません。

その中でも、誰かが意欲的に動いてくれたとか、誰かに御礼を言われたとか、そうした日常の小さな喜びをかき集めて、いつか味わうであろう大きな達成感を楽しみにしながら、目の前の仕事をこなしていきます。

PMは、誰でも担えるポジションではありません。だからこそ、短い期間で多くの経験をして自分を一気に高めるチャンスでもあるので、成長スピードをあげる意味でも、最後まで役割と責任を全うすることにこだわるべきなのです。

また、新規事業開発もOMOも魔法では決してないということも、重要な認識です。結局はいかに本気でお客様のことを考えたのか、サービスや運用のことを真剣に考えたのか、プロジェクトを成功させたいかという想いの深さが問われる取り組みです。

そのためにも、いろんな人と向き合って、時には論戦をして、自分以外の誰かと一緒に進めていくことに意識を向けることが大切なのです。

PM業は、人生経験を豊かにする

これまでのコラムで、PMが志すべき姿勢や考え方について触れてきました。しかし、それは唯一の正解ではありません。正解は、組織や状況によって異なります。大事なことは、PMが自分で考えて自分なりの答えを出すこと、そして行動すること。これに尽きます。始める前は、失敗や辛い思いが頭を巡るかもしれません。それは私も同じです。恐怖心に支配されそうになる瞬間は、未だにあります。

しかし、仲間とプロジェクトを作り上げることは、かけがえのない経験になります。大袈裟かもしれませんが、人生経験として素晴らしい時間が過ごせます。思い通りにいかない中で、仲間が救ってくれることもあれば、自分が仲間の助けになることもあります。物事の隅々まで気を配り、すべての関係者の気持ちを考えながら、毎日を過ごしていく。それを繰り返すうち、プロジェクトを楽しめるようになり、ひいては人生を楽しむことに繋がっていきます。

私は「PM業は、人生経験を豊かにする」と公言していますが、そのくらい素晴らしく魅力的な仕事であると、最後にあらためて言わせてください…!きっとPMを経験された方は共感してくださると信じています。どうか世のPMの皆さんがプロジェクトを、人生を楽しまれることを願いながら、今回のコラムを終えたいと思います。

これまでコラムをご覧いただき、ありがとうございました。

またどこかでお会いしましょう…!

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冨田良介(ゴールドウイン システム部 ITストラテジーグループ マネージャー)
冨田良介(ゴールドウイン システム部 ITストラテジーグループ マネージャー)

外資系総合広告代理店でデジタル領域のプロジェクトマネージャー(PM)、アパレルメーカー及び消費財メーカーにて新規事業開発やOMO強化など全社横断プロジェクトのPM、EC事業責任者を経て、2019年1月にゴールドウインへキャリア入社。2020年7月にローンチしたECシステムのリプレイス・OMO強化のプロジェクトをPMとして推進。現在は全社のデジタル開発案件全般に携わっている。

冨田良介(ゴールドウイン システム部 ITストラテジーグループ マネージャー)

外資系総合広告代理店でデジタル領域のプロジェクトマネージャー(PM)、アパレルメーカー及び消費財メーカーにて新規事業開発やOMO強化など全社横断プロジェクトのPM、EC事業責任者を経て、2019年1月にゴールドウインへキャリア入社。2020年7月にローンチしたECシステムのリプレイス・OMO強化のプロジェクトをPMとして推進。現在は全社のデジタル開発案件全般に携わっている。

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