「対消費者でも、対従業員でも、試行錯誤を前提とするマーケティング・コミュニケーションの領域では、ローコード、ノーコードによる“全員参加”のアプリ開発が強力な味方になる」――こう話すのは、エイチシーエル(HCL)・ジャパン HCLSoftware シニアディレクターの吉田賢治郎氏だ。同社は、インドのIT大手HCLテクノロジーズの日本法人で、国内でもエンジニアリング・R&Dサービス、デジタル、そしてソフトウエアの提供を25年にわたって行ってきた。
吉田氏は、NEC、IBM、HCLジャパンと、30年以上にわたってマーケティングに関わってきた経験から、「マーケティングの世界は『試行錯誤』」と話す。
「スパッと1つ決めて、それがすぐさまヒットするといったことはまずありません。データ分析でも、たった1回で何もかも判明するということはない。企業側がお客さまをどのように理解するのかも、また、お客さま側にどのようにご理解いただくかも、試行錯誤です。仮説を立てながら、さまざまな手立てをくり返すことで、結果的にマーケティングが成功するのではないでしょうか」(吉田氏)
こうした試行錯誤をさらに後押ししているのが、昨今のデジタルの加速だ。スマートフォンやウエアラブルデバイスが代表格だが、今後もデジタル上の接点は増え続けていく中、吉田氏が指摘するのが「人」だ。
「重要な接点としてデジタル、そして店舗があるというのは私が説明するまでもないかと思います。それともうひとつ重要なのが『人』です。顧客と直接やり取りする従業員をはじめとした『人』の支援が、ブランド力を高め、マーケティングを成功させる上で、非常に重要だと考えています」(吉田氏)
その中で、ローコードやノーコードがどのように貢献するのか。それは、ローコードによる“アジャイル開発”と一般社員の“市民開発”によって、ビジネス現場のニーズに即した機能を、迅速に提供できる点にある。
現場のアイデアをすばやく形に
ローコードやノーコードに共通する「コード」は、人間がコンピューターにどのような処理をさせるかを指示した命令のことだ。命令の書き方を定めたものがプログラミング言語で、目的や使用機会などによって、適切な言語を選ぶ必要がある。ローコードやノーコードは、そうしたプログラミング言語を使わない、もしくは最低限の使用で、命令を記述できる開発環境のことだ。
ローコード、ノーコードはここ数年で登場したものではなく、1980年代には登場し、進化を重ねてきた。その度にアプリ開発に携わる人のすそ野を広げてきた経緯がある。しかし、それがさらに加速しているのは、私たちの生活においても、デジタルデバイスの使用が当たり前になったということも挙げられるだろう。
もうひとつの要因は、高度IT人材の不足だ。ソフトウエアを開発できるだけでなく、ビジネスサイドの要望を汲み取り、すばやく形にできる人材は昨今の需要に対して見合うものではない。
「しかし、社会情勢を踏まえると、お客さまのニーズ、あるいは従業員のニーズを踏まえ、実際に使ってもらえるアプリを安全に、なおかつ高いパフォーマンスで迅速に提供するということが求められているわけです。そうした中、実際に使う側の従業員などが、自らのアイデアをすぐに形にできるローコード、あるいはノーコードという環境が極めて重視されるようになってきました」(吉田氏)
吉田氏は、「ローコードやノーコードを用いている例は枚挙に暇がありませんが、共通点としては、冒頭に述べた通り『試行錯誤』」と話す。たとえば、商品検索機能ひとつとっても、単に検索窓にテキストを打ち込むのではなく、音声入力を可能にする、あるいは、AR(拡張現実)技術を用いて、商品を自宅内に置いた状態をシミュレーションできるようにする、決済手段への対応、等々。
「デジタルテクノロジーの進展で、さまざまなことが可能になりました。お客さまからいちいち文字入力をするのは手間だ、では音声入力できるようにしよう、この決済手段で支払いたい、では対応しよう、といったことです。いきなり完成させようとするのではなく、お客さまからフィードバックをいただいたり、あるいは現場の従業員の方が業務を通じて、こんな機能があったらもっとご利用いただけるのではないか、といったアイデアを実現させたりしながら育てていくのが、実態に即していると思います」(吉田氏)
これは、対消費者のためのアプリに限らない。吉田氏が重視する顧客接点である「人」、従業員支援においても同様だ。
「ある化粧品メーカーでは、カウンターで接客する方が、担当者を横断して、お客さまの情報を共有したいといった声があり、それを実際にアプリで実現しています。さらに、その企業では、お客様情報を手書き入力できるようにしたい、そうしたニーズが従業員の方からあり、タブレット端末での入力もできるよう追加で開発した、という例があります。手書きで入力する、というのが常に最適解というわけではなくて、現場にそういうニーズがあって、それに応えられる技術がある、という順です。もちろん、うまくいく場合だけではなくて、やってみたんだけど、あまり使われなかった、ということもあるかもしれません。それならやめるなり、改善したりしていく。大切なのは、必要とされたことを次々実施していって、PDCAをくり返していくことです」(吉田氏)
航空会社でも、客室乗務員のアイデアで、ローコード開発が進んでいる例があるという。飛行機に限らず、交通機関は乗客だけを運んでいるわけではない。法人向けの貨物の積み下ろしなどもある。座席にちょっとした違和感がある、というだけで運行の妨げになったりもする。
「従来はそういう場合は書類や電話でやり取りしたりしていたのですが、さまざまな情報をタブレット端末一台で共有したいと、日々現場でさまざまなケースにふれている乗務員のアイデアでどんどんアプリ化を進めている、というケースがあります」(吉田氏)
より一般的な企業においても、営業担当者が必要とする情報をどう提供するか、管理職や役員が必要とする情報をいかにタイムリーに提供するか……。実のところ、現場にはさまざまなアプリのニーズが埋もれている。
「たとえば、SFAなどの営業支援システムは、ほとんどの方が使いにくいとおっしゃいます。重要なのはツールではなくて、現場の営業担当であれば、顧客に本当に喜んでもらうために、自分たちがどういった情報を、どういうタイミングでどう知っておくべきなのかを認識しておくことです。それが分かっていれば、いまやローコード開発で自分たちのビジネスに適したかたちにアジャストすることも可能だからです。ちなみに、『うるさい役員向けアプリ』なんてのも現実には存在します。唐突に『いま数字はどうなってるんだ!』と電話がかかってきたり、会議の真っ只中で急に言いだしたり。それは、じゃあデータをよこせというタイミングで隣で作ってしまいましょうと。こんな情報が求められるのだから、それを提供するアプリを現場で作っていく。そうして無駄な工数をなくし、すばやく意思決定してもらうようにしよう、ということはすでに実現されています。これもローコードだからできることだと考えています」(吉田氏)
HCLテクノロジーズのローコード、ノーコード製品である「Volt MX」の特徴は、一般的なローコード製品がオフィスアプリを中心としている一方、B to Cのスマホアプリや、工場の生産管理システムなど、幅広いニーズに応えられるというものだ。BtoCで特に顕著な、デバイス側のバージョンアップにも、テスト環境や実行環境を含め、30日以内に対応できるという。また、もともと金融機関向けに開発した出自のため、「セキュリティとパフォーマンスが非常に優れている」と吉田氏は自負する。
「業務ごとのアプリを開発しても、操作性に一貫性を持たせたり、1カ所からすべてを利用できるようにしたり、ということも可能です。どれを使えばいいか、ということもなく、ご好評をいただいています。社内の使いにくいシステムをあたかも社内ポータルのように利用していく。それもWebアプリ、スマホアプリ、タブレットアプリ、それからセルフサービスの受付のアプリそういったもの含めて、全てのものを一つのスーパーアプリに統合した形で開発することもできます。そして、おそらくお考え以上に低価格です。これだけのものは非常に高いだろうと思われる方が多いかと思うんですけど、見積もりをさせていただきましたら、多くの方から、非常に安いですねといったお声をいただいております」(吉田氏)
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