人間中心社会の到来で進む「エゴ化」

Society 5.0に見る情報社会の未来像

前回はこれからのマーケティングの突破口になるであろう、「ポジティブなエゴ」をキーワードとした「エゴ化」の傾向についてお話ししました。 今回はどうやって「エゴ化」というものが生まれてきたのか。その背景について考察していきます。

2018年、日本政府は “Society 5.0(ソサエティ 5.0)”を提唱しました。これは情報技術やデジタル技術を活用して、社会問題を解決し、経済と人間の生活の質を向上させることを目指すビジョンおよび戦略です。

Society 5.0 とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く社会であり、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されています。そのため、Society 5.0は、 日本の第 5 次産業革命を促進し、持続可能な社会を構築するための枠組みとも言えます。その要点は以下の通りです。

パース・イメージ 新たな社会Society5.0
内閣府Webサイトより
  • ①デジタル技術の活用:
  • Society 5.0 では、IoT(Internet of Things)、人工知能(AI)、ビッグデータ、ロボティクス、クラウドコンピューティングなどのデジタル技術を積極的に活用し、社会インフラと連携する。また、IoM(Internet of Me  “個客”体験をもたらすインターネット)も忘れてはならない。
  • ② 人間中心のアプローチ:
  • このビジョンでは、技術の進歩を通じて人々の生活を改善することを強調しており、技術の導入は社会全体の利益に貢献するものであるべきだと考える。
  • ③ 産業の変革:
  • 産業界全体でデジタル化と自動化が進み、新たなビジネスモデルが生まれる。これにより、生産性向上とイノベーションが促進される。
  • ④ 持続可能性:
  • Society 5.0 は環境への配慮も含んでおり、持続可能なエネルギー、環境保護、資源効率の向上など、環境にやさしい側面を重視する。
  • ⑤ スマートシティ:
  • スマートシティの概念が一部として取り込まれており、都市のインフラやサービスがデジタル技術によって最適化され、住民の生活が向上する。
  • ⑥ 教育とスキルの重要性:
  • Society 5.0 の実現には、人々がデジタルスキルを習得し、テクノロジーを活用できるようにするための教育とトレーニングが重要。

前提は「デジタル技術」と「人間中心社会」

この要点を見渡すと2つの点が前提となっています。

一つは、デジタル技術、二つ目は人間中心社会であることです。

イメージ

デジタル技術は社会全体の課題解決や効率化を進める一方、それを利用する人間のあり方を変容させ、その人間が所属するコミュニティに影響を与えました。なぜなら、デジタル技術は、個人単位の「できること」を飛躍的に拡張させるからです。当然、拡張した個人が集合したコミュニティはそれぞれが持続していくことを目的に強い存在になります。その時、拡張した能力と能力をいかに協調させていくかがコミュニティの課題になっていきます。

Society5.0 が示す人間中心社会とは、個人間の格差(年齢や、生活環境)を超えて、一人一人が活躍できる「自己中心社会」と言い換えることができるかもしれません。このような自己が中心となるマーケティング思考を私たちは「エゴ化」と呼ぶことにしました。エゴ化は自分自身のためではあるが、自分自身を高めることで周囲にも好影響を与えます。ゆえに決してネガティブな概念ではないのです。

エゴ化した消費者の意識と行動変容に着目すべし

エゴ化は、Society 5.0 を背景に、さらに次のような社会環境から生まれたものと考えています。

  • ●自己表現の機会の増加:
  • ソーシャルメディアの普及により、情報が容易に共有されるようになっている。個人は自分の考えや感情を広く発信し、他者と簡単につながることができ、自己表現の機会が増加。
  • ●個人主義の広がり:
  • 欧米社会を中心に、個人の自由や権利が重視される「個人主義」の考え方が広がっている。個人が自己実現を追求し、自分らしい生き方をすることが重要視されるようになってきている。
  • ●価値観の多様化:
  • 現代社会では、異なる価値観や生き方が尊重される傾向がある。個人が自分のアイデンティティや個性を大切にすることが重要視され、多様な価値観を持つ人々が共存する社会が求められている。
  • ●労働の変化:
  • かつては安定した終身雇用が一般的だったが、サラリーマンにはジョブ型が導入され、フリーランスや自営業も増えてきた。個人が自らのスキルや才能を活かし、自己ブランディングや自己 PR が重要になってきたため、自己表現の重要性が高まっている。

以上のようなことから、これからエゴ化は社会にますます浸透することになると考えています。Society5.0 は未来に向けたビジョンではあるが、エゴ化はそのビジョンを感じることができる現象であり、すでに始まりつつある未来への胎動であると感じざるを得ません。そして私たちマーケターが着眼しなければならいことは、エゴ化した消費者の意識と行動変容です。

エゴ化は必ずやこれまでは考えられなかった生活者のニーズを生み出し、消費行動を引き起こすことになります。そして想像できなかった新たな消費のドアを開けるはずです。その片鱗はすでに見えてきています。今はまさに「エゴ消費」の創成期であると言えます。

次回(10月28日掲載)は、もう始まっている「エゴ化する消費者」についてみていきたいと思います。

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青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)
青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)

青谷 宣孝(オークローンマーケティング代表取締役副社長)
1987年 日本電信電話に入社。翌年には、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ出向し、ゲーム会社、化粧品会社、自動車保険、アパレルなどの広告マーケティング、新規事業企画等を担当する。在籍中には、Jリーグ初のITパートナーカテゴリーを企画創設し、広告代理店の領域を超えてNTTグループが行うJリーグのIT基盤構築を推進した。その後NTTドコモプロモーション部に異動し、フジテレビ「踊る大捜査線」携帯動画初の本格ドラマをプロデュース。dポイントキャラクター『ポインコ』の生みの親。現在TVショッピング『ショップジャパン』を運営するオークローンマーケティングにて、ダイレクトマーケティングを探求している。


 

明海 司(D2C エグゼクティブ・プロデューサー)
1988年I&S(現I&S BBDO)に新卒入社。ストラテジック部門で主に流通のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略に携わる。1994年 NTTアドに参画。NTTドコモを担当し、携帯電話市場の成長過程において、モバイルやインタラクティブを絡めた数々のプロモーションを実行。2006年 ブランドコンサルティング会社であるフューチャーブランドに参画し、エグゼクティブダイレクターとして顧客のコーポレートブランディングを担当。2011年、講談社の広告代理である第一通信社に参画し、2015年 同社取締役に就任。新事業及び管理部門を担当。2016年1月 D2Cに参画しデジタルマーケティング事業を推進。

青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)

青谷 宣孝(オークローンマーケティング代表取締役副社長)
1987年 日本電信電話に入社。翌年には、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ出向し、ゲーム会社、化粧品会社、自動車保険、アパレルなどの広告マーケティング、新規事業企画等を担当する。在籍中には、Jリーグ初のITパートナーカテゴリーを企画創設し、広告代理店の領域を超えてNTTグループが行うJリーグのIT基盤構築を推進した。その後NTTドコモプロモーション部に異動し、フジテレビ「踊る大捜査線」携帯動画初の本格ドラマをプロデュース。dポイントキャラクター『ポインコ』の生みの親。現在TVショッピング『ショップジャパン』を運営するオークローンマーケティングにて、ダイレクトマーケティングを探求している。


 

明海 司(D2C エグゼクティブ・プロデューサー)
1988年I&S(現I&S BBDO)に新卒入社。ストラテジック部門で主に流通のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略に携わる。1994年 NTTアドに参画。NTTドコモを担当し、携帯電話市場の成長過程において、モバイルやインタラクティブを絡めた数々のプロモーションを実行。2006年 ブランドコンサルティング会社であるフューチャーブランドに参画し、エグゼクティブダイレクターとして顧客のコーポレートブランディングを担当。2011年、講談社の広告代理である第一通信社に参画し、2015年 同社取締役に就任。新事業及び管理部門を担当。2016年1月 D2Cに参画しデジタルマーケティング事業を推進。

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