今、広告主が目を向けるべきデジタル広告の品質とは

ダイキンはいかにデジタル広告の課題に向き合っているのか

企業が広告出稿を検討する際、デジタルメディアをその候補から外すことは不可能だ。デジタル広告はコミュニケーション手段として、効果の測定がしやすいなどの優れた面も多いが、一方で、課題もまだまだ残されている。このセッションでは、ダイキンで長年広告宣伝に携わってきた片山義丈氏と、デジタル広告の品質向上に取り組むデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の小出誠氏が登壇し、その取り組みについて解説した。

小出氏は、デジタル広告の課題として一、アドフラウド、二、ブランドセーフティ、三、ビューアビリティの三つが中心的になっていると指摘。小出氏はこれらの課題を計測、検知して改善につなげる対策であるアドベリフィケーション対策ツールを販売するIntegral Ad Science社が世界20カ国で収集した統計データを紹介しながら、各項目への日本の対策はグローバルでも最低レベルにあることを紹介した。その上で、広告主側はこれらの問題を認識しておかないと知らず知らずのうちに被害を受けてしまうと警鐘を鳴らした。続けて、片山氏のダイキン工業がこの問題に対してどのような対策を取ってきたのか質問した。

ダイキン工業は、片山氏がイベントでアドベリフィケーションの問題を耳にしたことをきっかけに、アドベリフィケーションに対する問題意識を持つことになり、2017年から独自に対策を取ってきたと回答。その方法として、広告を表示して良いサイトをリストアップするセーフリスト、出さないサイトを選別するブロックリストという二つの選択肢から、片山氏らはセーフリストを選択。その理由を片山氏は「不正なサイトはどんどん新しく出てくる。リストに掲載されるまでの間にそうした不正なサイトに広告が出てしまうリスクがあ」「セーフリストのサイトであればブランドセーフティ、ビューアビリティの問題も少ない」と説明した。

ダイキン工業 総務部広告宣伝グループ長 部長 片山義丈氏
ダイキン工業 総務部広告宣伝グループ長 部長 片山義丈氏

リスト方式の問題はリストが各代理店の所有物であること。代理店が変わればまた新たなリストを作成しなければならず、そこにかかるコストは企業にとっても大きな負担になる。そこで、デジタル広告の課題に向き合い、リスク対策をとっている事業者を、広告主が簡単に選ぶことができる仕組みとして誕生したのが、日本アドバタイザーズ協会(JAA)と日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の三団体が立ち上げたJICDAQだ。

 

デジタル広告の品質向上を目指すJICDAQの取り組み

JICDAQでは、デジタル広告の品質に関わる業務プロセスの認証基準を制定し、それに沿った事業者を認定し、公開することで広告主や広告事業者が安心して取引できる事業者を明らかにすることを目指している。2021年3月の設立から2023年7月1日までに176社の登録、148社が認証事業者となっており、その事業者名は随時Webサイトに公開されている。

デジタル広告品質認証機構 事務局長 小出誠氏
デジタル広告品質認証機構 事務局長 小出誠氏

また、広告主向けには「アドバタイザー登録」という名称のJICDAQへの賛同を表明する制度がある。小出氏はその目的を「登録広告主が、発注先が認証事業者か否かを気にすることによって、事業者は認証の必要性を感じるようになる。認証取得にはリスク管理を様々な面で強化する必要があるので、これがデジタル広告業界全体の品質向上につながり、結果として広告主が安心して出稿できるビジネス環境が実現する。そういうループを作ろうとしている」と説明した。

片山氏も、「もはや個別企業が独自で大きな負担がかかるセーフリストを活用することは難しくなっており、ダイキンでも独自のセーフリストを中止し、デジタル広告の発注をJICDAQ登録業者のみとするよう社内ルールを変更した」と語った。

 

企業はいかにデジタル広告に取り組むべきか

小出氏は「広告主として、デジタル広告やその市場に対する認識を正しく持つとともに、広告というものへ深い理解が必要だ」と説く。

どこに、いつ掲出されるかがわかっていたマス広告や予約型のデジタル広告とは異なり、運用型のデジタル広告はどこにどう表示されるのかコントロールできない。また、DSPやアドエクスチェンジなど、中間に関わるプレイヤーが多くなるため、責任の所在や取引全体が不透明になりがちだということをきちんと理解して必要がある。

「デジタル広告の信頼度はマス広告と比較して、高くないという調査結果もあり、広告主はこれらの認識を社内で広く共有するべき」とし、「デジタル広告だけをやっているとCPAやCPCなどを背景にリーチ効率だけを追求してしまう。しかし広告のメッセージを届かせ、最終的な効果を得るためにはリーチだけではなく、受け手の受容性を高めることも大事。広告を届けるうえでの質的な側面も大切にしないといけない」と小出氏は話す。

また、小出氏は、デジタル広告を取り巻く環境は直近の生成AIの登場と浸透によって一層悪化することが予想されることについても触れた。「AIを使った自動生成でアドフラウドのサイトを作成するなど、海外ではすでにその兆候は見られており、日本でも近い将来そうなっていくだろう」と指摘する。

しかし、広告主側の企業にとって問題となるのは、デジタル広告の品質に問題があると認識しても実際の対策を取るためには社内でのハードルがあることだ。片山氏はそのハードルを二つ挙げた。

「一つは今まで、品質に問題がある広告を出していたことを白状しないといけないこと。もう一つはもう一つは単価が上がること。100万回の視聴に100万円を払っていたのに、実際は80万回だった場合、見かけの単価は上がる。これは経営層や上司にとっては聞きたくない話ばかり。過去この業務をやっていた人が騙されていたと批判することにもなるからだ」(片山氏)

そしてそのハードルを越えるために、生成AIによる環境変化を理由として使うことを提案した。

「過去に触れたり、否定しないことが大切、できていたかどうかはおいておい今までも品質課題にはそれなりに対応できていたということにしておきましょう。ただ、生成AIが登場し今まではなんとかなっていたものが、やり方を変えないとどうしようもなく悪くなるから、新たな対策をしないといけないと社内に説くべき。この話題は、きっかけに変える千載一遇のチャンス。逆に、今を逃せばだまされ続けてブランドを毀損し、無駄に広告費を使うことになる」(片山氏)

小出氏は片山氏の提言を受け、「AIの脅威が迫る今が逆説的にデジタル広告の品質向上のチャンス」と話し、デジタル広告に関する情報収集の必要性とJICDAQの利用を推奨し、セッションを締めくくった。

セッションの様子

 

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