ラジオCMがテーマのコラムなので、音読バージョンもご用意してみております。
第1回「ソニーテープ千一夜 寺山修司 色と音」篇
わたし、ラジオ好きコピーライターの正樂地咲がお届けします、「名作ラジオCMの時間」。
第1回目は1984年制作、ソニーカセットテープのラジオCM「ソニーテープ千一夜 寺山修司 色と音」篇をご紹介いたします。※文末に全文を記載しています。
寺山:みなさんこんばんは、寺山修司です。
ぼくたちはいろんな色を
見ることができるわけですが、
目の見えない子供たちは
色をどんなふうに感じているのか…。
きのう文京盲学校の生徒さんたちと
会って話したわけです。
すると目の見えない子供たちは、
色を音であらわすんだと答えてくれました。
これがCM冒頭のナレーション。
この後、具体的にどの色がどんな音なのかを
説明するパートへと話は展開していきます。
白は蒸気機関車の音。
金色は鍋をたたく音。
お月さんの色はドロドロの油の中に石を投げ込む音。
鏡の色は絹糸の切れる音。
そして人生。
寺山:もし人生がバラ色だとしたら、
目の見えない子どもたちにとって
どんな音であらわすのか。
寺山は、考え込んでしまった、と話します。
最後に子どもたちが元気よく
「ぼくたちは、いい音が大好きです。」と言ったあと、
「♪ソニーカセットテープ」のサウンドロゴでCMがクローズします。
この美しい物語は、たったの90秒。
自分の人生の中に、こんな贅沢な90秒を過ごせたことをありがとうございますと、お礼もしたくなるほどです。
カセットテープの性能の良さを広告するときに、人間はみんないい音が好きである、という本能にまで、一度大きく立ち帰る。
そしてそのことについて、いい音にひと一倍敏感であろう盲学校の子どもにたずねてみる。
音の世界をたのしむスペシャリスト、ここでは子どもたちは、音の先生。大人がみんな興味津々。
目の見える者として、色を音であらわすなんてこと、考えてみたこともなかった。そんな美しい行動を、普段の生活に必需なものとして取り込んでいること。このラジオCMを通して、その疑似体験ができる。見えている者の方が、見えていない世界があることを知るのだ。
本能を揺さぶる表現は強い。あらがうことなどできない。
その強さを力まかせにぶつけるのではなく、美しい言葉、美しい音に変換し、聴く者をうっとりとした気持ちにさせる。
想像の余白があり、音なのに絵が浮かぶ。音なのに色が見える。
改めて、ラジオCMはそう、音を見せるものなのだ。
わたしが解説するまでもない名作中の名作。ピカピカの1本。時代につぶされることなく、こんなにも懐の深いラジオCMを令和のいま、つくることができるかな。
ソニー/ソニーカセットテープ
「ソニーテープ千一夜 寺山修司 色と音」篇〈ラジオCM 90秒〉
〇C/松本邦彦、寺山修司、白土謙二
NA:ソニーテープ千一夜
♪~
寺山:みなさんこんばんは、寺山修司です。
ぼくたちはいろんな色を
見ることができるわけですが、
目の見えない子供たちは
色をどんなふうに感じているのか…。
きのう文京盲学校の生徒さんたちと
会って話したわけです。
すると目の見えない子どもたちは、
色を音であらわすんだと答えてくれました。
それで白っていうのはどんな音かって聞くと、
こんな音だと答えてくれました。
SE:ポーッポーッ(蒸気機関車の汽笛と走る音)
寺山:金色は?って聞くと、金色はこんな音でした。
SE:カンカンカン(鍋をたたく音)
寺山:お月さんは?って聞くと
ドロドロの油の中に
石を投げこむ音だと答えてくれました。
と、ぼくはますます興味をもって、
鏡はどんな音をしてるかな?と
聞いてみました。
すると、絹糸の切れる音だって
答えてくれました。
SE:SE:プツン(絹糸の切れる音)
寺山:もし人生がバラ色だとしたら、
それは目の見えない子どもたちにとって
どんな音であらわすのか。
ぼくはまぁ、考えこんでしまったわけです。
♪~
NA(子どもたち):ぼくたちは、いい音が大好きです。
SL:ソニーカセットテープ
本コラムは隔週でお届けしていきます。次回は2週間後の11月10日(金)。また皆さまとお会いできますように。