なぜ人は「映え」を求めるのか? エゴマーケティング視点で考える

【前回はこちら】人間中心社会の到来で進む「エゴ化」

 

あらゆる世代に人気の「懐古的スイーツ」

現代社会おいて人々のエゴ化はすでに始まっています。

SNSを使いこなす若い世代に関しては特に顕著です。「映え」ということが示す通り、彼らはSNSを自己表現の手段として生活に取り入れました。

またアカウントを複数待つことで多重な人格をもコントロールし、承認欲求を満たしています。若い世代と言いましたが、もちろんこれは若い世代だけの現象ではなく、そこを起点に中年、壮年にも広がりを見せています。

先日、ある老舗ホテルのパーラーに行ったときことです。このホテルは文豪が愛したホテルとしても有名ですが、その姿が歴史の遺産でしかないようにも思えます。たぶん、新型コロナ禍で結婚式などの大型案件が激減し、厳しい経営なのだと推察します。

このパーラーで「秋の味覚フェア」を開催していました。実はこのパーラーはいわゆる「映え」では有名なスポットになっており、予約が取れないほどの状況です。なにがウケているかと言えば、懐古的なプリンアラモードやフルーツパフェです。

 

たしかに、美しくもあり、懐かしさもあり、もちろん美味しくもあります。ここのホテルの客層は、中高年が普通なのですが、「映え」を求めて若い女性も訪れていました。そして当然のことながら写真を撮ってはいるのですが、それは若い世代だけではなく中高年も同じ行動をしていました。きっと「懐古的スイーツ」は若い世代にとって珍しく、中高年世代にとっては懐かしいのでしょう。

何よりも老舗ホテルが持つ文脈が大きく演出効果をもたらしているように思えます。「映え」は最新スポットでなくても発生させることができるようです。彼女たちは「懐古的スイーツ」を発信することでなにを表現したいのでしょうか?

 

エゴ化とは「アイデンディティの鮮明化」

マーケティング視点から着眼したいのは、「映え」をビジネスとして捉えた事業者の発想です。自己表現、自己承認というエゴのニーズに適合させた製品やサービスの提供はまさにエゴマーケティングと言えます。

事業者は「映え」を提供し、顧客に認められることで情報が拡散しさらに顧客を生む、また次の「映え」を提供する。その循環によって、うまくいけば以前は高額な広告費が投じられたプロモーションに近い効果がもたらされます。魔法と言えば魔法のような話です。

ただ、それをソーシャルマーケティングというSNSを駆使したマーケティング手法でかたづけられるかと言えばそうではありません。なにが「映え」として受けるのか、どのような心理がそこには作用するのか、自分たちが持っている背景や知覚価値のインプットからコンテンツをアウトプットするプロセス、そこには高度な「心理戦」が求められます。その心理の志向を紐解くのがエゴ化という現象だと考えます。

ではエゴ化する消費者の心理特性を4つの視点から見ていきたいと思います。これらも仮説であることはご承知おきください。

  • ステータス志向

    ステータス志向の消費者は、自己の社会的地位や成功を強調することに重点を置く。 高級ブランドや高価な製品を選ぶことで、他人に自己の成功や経済的な豊かさをアピールする。これは昔からある不変的なブランド志向である。ただ、SNSの登場によってアピールする場所が増え、そのSNSの特性上「いいね」での確認ができることが拍車をかける。

  • 自己表現重視志向

    自己表現を重視する消費者は、個性的で独自のアイデンティティを追求する。自分らしい製品やサービスを選ぶことで、自己の好みやスタイルを表現し、他者との差別化を鮮明にする。前述したプリンアラモードの例はまさにこれにあたる。自己の「あなたとは一線を画すセンス」の主張といったところである。

  • 経済的安定志向

    経済的安定を重視する消費者は、無駄な行動を避けて将来に備えることを重要視する。 コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスの良い製品やサービスを選ぶことで、経済的な安心感を得ることを優先する。最近では「スマート(≒賢い)」という言葉に集約される。

  • 環境や社会への配慮志向

    環境や社会に配慮する消費者は、自己の行動が持続可能性や社会にどう影響を与えるかを考慮する。エコフレンドリーな製品や社会的貢献を重視する企業の製品を選ぶことで、自己の価値観を実践しアピールする。グリーン電気などはその恰好の例である。多少コスト高になっても社会性を重視する自己をアピールすることでのリターンを計算する。

このような考察をしていくとそれぞれの志向の共通点として「アイデンティティ」というキーワードが浮上してきます。アイデンティティとは、他者との比較のなかで自覚できるものであり、ある意味「競争戦略」の源泉でもあります。

アイデンティティを持つことは今に始まったことではありませんが、SNSの普及によって容易に他者と比較できるようになり、より自分がどういう人物であるかを認識しやすい環境になったのです。ゆえにエゴ化はアイデンティティの鮮明化とも言えるし、それがエゴ化のエンジンになると思います。

昨今、自己のアイデンティティをテーマにして、「パーソナルブランディング」や「セルフマーケティング」という書籍が世に出始めています。これはほぼ言い方が違うだけで同じ概念だと思いますので、ここでは「パーソナルブランディング」に統一します。次回(11月4日)は、エゴ化のエンジンになると考えられる「パーソナルブランディング」に関して考察します。

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青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)
青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)

青谷 宣孝(オークローンマーケティング代表取締役副社長)
1987年 日本電信電話に入社。翌年には、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ出向し、ゲーム会社、化粧品会社、自動車保険、アパレルなどの広告マーケティング、新規事業企画等を担当する。在籍中には、Jリーグ初のITパートナーカテゴリーを企画創設し、広告代理店の領域を超えてNTTグループが行うJリーグのIT基盤構築を推進した。その後NTTドコモプロモーション部に異動し、フジテレビ「踊る大捜査線」携帯動画初の本格ドラマをプロデュース。dポイントキャラクター『ポインコ』の生みの親。現在TVショッピング『ショップジャパン』を運営するオークローンマーケティングにて、ダイレクトマーケティングを探求している。


 

明海 司(D2C エグゼクティブ・プロデューサー)
1988年I&S(現I&S BBDO)に新卒入社。ストラテジック部門で主に流通のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略に携わる。1994年 NTTアドに参画。NTTドコモを担当し、携帯電話市場の成長過程において、モバイルやインタラクティブを絡めた数々のプロモーションを実行。2006年 ブランドコンサルティング会社であるフューチャーブランドに参画し、エグゼクティブダイレクターとして顧客のコーポレートブランディングを担当。2011年、講談社の広告代理である第一通信社に参画し、2015年 同社取締役に就任。新事業及び管理部門を担当。2016年1月 D2Cに参画しデジタルマーケティング事業を推進。

青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)

青谷 宣孝(オークローンマーケティング代表取締役副社長)
1987年 日本電信電話に入社。翌年には、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ出向し、ゲーム会社、化粧品会社、自動車保険、アパレルなどの広告マーケティング、新規事業企画等を担当する。在籍中には、Jリーグ初のITパートナーカテゴリーを企画創設し、広告代理店の領域を超えてNTTグループが行うJリーグのIT基盤構築を推進した。その後NTTドコモプロモーション部に異動し、フジテレビ「踊る大捜査線」携帯動画初の本格ドラマをプロデュース。dポイントキャラクター『ポインコ』の生みの親。現在TVショッピング『ショップジャパン』を運営するオークローンマーケティングにて、ダイレクトマーケティングを探求している。


 

明海 司(D2C エグゼクティブ・プロデューサー)
1988年I&S(現I&S BBDO)に新卒入社。ストラテジック部門で主に流通のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略に携わる。1994年 NTTアドに参画。NTTドコモを担当し、携帯電話市場の成長過程において、モバイルやインタラクティブを絡めた数々のプロモーションを実行。2006年 ブランドコンサルティング会社であるフューチャーブランドに参画し、エグゼクティブダイレクターとして顧客のコーポレートブランディングを担当。2011年、講談社の広告代理である第一通信社に参画し、2015年 同社取締役に就任。新事業及び管理部門を担当。2016年1月 D2Cに参画しデジタルマーケティング事業を推進。

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