※本記事は 月刊『宣伝会議』10月号 に掲載されています。ご購入はこちらから。
「なぜ、今それが求められるのか」想定を止めないように
漫画の編集者として活動してきた約15年間の中で、私がひとつの結論としてたどり着いた「編集」とは、「想定」「アクション」「調整・修正」を繰り返し行うことです。それは、どういうことなのか。漫画編集者が作家としている会話を例に、考えてみます。
ある物語が生まれるときに、漫画の編集者と作家さんの間で「どんなものを描くか」という話をすることがあります。もちろん作家さんには「こういうのを描いてみたい」という希望があるので、まずはそれをしっかりと聞くことに徹します。そこで編集者がすることは、2つ。「なぜ、この切り口で物語を描きたいと思ったのか」という個人が持つ理由を追求すること。もうひとつは、「なぜ今その題材の漫画が社会にうけるのか」を自分なりに考えることです。
例えば作家さんが、「いじめ」を題材にした漫画を描きたいと希望したとしましょう。それを聞いたとき、担当編集は、まず作家さん自身の興味に目を向けます。「その題材で描きたい」と考えた作家の個人的な理由を聞き、共感できるかを考えるのです。
一方、個人的な共感だけでなく、俯瞰的な目線で「今の時代にいじめを切り口にした漫画を出したとして、どうすれば世に受け入れられるだろうか」ということも同時に考えなければなりません。「今なら、SNSの浸透による承認欲求に駆られた結果として、いじめに走るケースが多いのかもしれないから、そういう文脈ならいけるかな」とか。「このポイントなら、共感されるかもしれない」と考える。これが「想定」です。要は、「今、その作品を出して、うける理由」を考えることですね。
思うより世間にうけなかったときこそ、「調整・修正」を
作家さん個人の興味と世の中の共感がマッチして、「これはいける!」と思ったら、次は実際に作品として世に出す「アクション」の段階に移ります。当然、出すだけで終わってはいけません。大切なのは、3つ目の「調整・修正」です。
世の中から共感を得られる想定ができて、コンテンツを世に出したとしても、思うよりうけないこともあります。そこで行うのが「調整・修正」。うけなかった理由の検証と、次に出したときにより良い結果になるようにすることです。わかりやすく言い換えると、作家さんに対するフィードバックですね。
これまで漫画は、雑誌として週ごとにしか次のアクション(販売)ができませんでしたし、読者からのレスポンスも週単位でしか確認できませんでした。ですが、今は紙のコミック誌だけでなく、デジタルメディアやスマホアプリの登場によって、読者からすぐにレスをもらえるようになりましたよね。つまり、「想定」「アクション」「調整・修正」のサイクルが速くなっているのです。
しかし、テクノロジーの進化によって、「想定」の難しさが増しています。「想定」が難しくなった理由のひとつがSNSの登場です。SNSによって情報スピードが速くなっただけではなく、個人の興味が分散して、人の価値観が多様化しました。大衆がいなくなって、世論が掴みづらくなったと言えると思います。
そんな中では、「今求められていること」を考える「想定」はどんどん難しくなっていきますよね。つまり、求められているものの粒が小さく点在するようになったので、何が共感されるのかが見えづらくなってきたのです。そう考えると、今後の編集者は今までよりも、よく見て、よく聞いて、社会で求められているものを見極める必要がありそうです――。
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