「アジアは最も広報・PRの難易度が高い」28カ国のグローバル調査で明らかに

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28カ国431社のPRパーソンは今、何を考えている?

はじめまして。PRエージェンシー「アソビバ合同会社」の代表を務める前田圭介と申します。世界にはさまざまなPR会社のグループがありますが、アソビバは独立系PRエージェンシーのグローバルネットワーク「IPREX(アイプレックス)」の一員です。

インハウスやエージェンシーの立場で広報・PRに携わる方の中には、IPREXという名前に聞き馴染みのある方もいるかもしれません。IPREXでは62のパートナーエージェンシー(加盟企業)が、100カ国・地域をカバーしており、アソビバは日本で唯一のパートナーとして参画しています。

そのIPREXが先日、28カ国431社の広報・PR担当者(各社1名ずつ)を対象に実施したグローバル調査をもとにしたレポート「State of Global Communications and Marketing 2023」を発行しました。

431名の回答者は全て多国籍企業(事業会社)に勤めるインハウスの広報担当者で、米国大陸、欧州・中東・アフリカ、そしてアジア太平洋の28カ国から幅広く回答を収集。グローバルコミュニケーションに特化したレポートとしては類を見ないと言ってもいいでしょう。

したがって、日本の広報・PR担当者、特に国際広報・グローバル広報に携わっている方、あるいはこれから関わっていこうという方には、多くの示唆があるように思います。

もちろん、広報・PRと連携しながら業務を行うマーケティング、ブランディング、デジタルといった部門の方々にも無関係ではありません。今回を含む全6回のコラムで、ポイントを解説していきたいと思います。

アジアが最も「広報・PRの難易度」が高い理由

まず、今回の調査で明らかになったことのひとつに、アジアにおける広報・PRの難易度の高さがあります。自社の本社がある地域を除いてどの地域が最も困難かを尋ねたところ、16%の回答者がアジアを挙げ、以下中東(13%)、欧州大陸(10%)と続きました。

グラフ その他 「広報・PR業務において難易度の高い地域」に関する設問から。
「広報・PR業務において難易度の高い地域」に関する設問から。
出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」

「なるほど」とうなずく方もいれば、「そりゃそうだ」と思われる方もいるかもしれません。ご存じの通りアジアは地理、文化、言語などが非常に多様で、一口にアジアといっても東アジア、東南アジア、南アジア、西アジアは全く異なります。一筋縄でいかないことは、まさにこの地域に身を置く日本の方々は肌感覚でお分かりになる方も多いと思います。

ただし、世界人口の約60%を占め、中国、インドといった巨大市場やタイ、ベトナム、インドネシアといった成長市場、また欧米企業のビジネス中枢となっているシンガポールなどのあるアジアは、日本から最も身近なマーケット。「まずはアジア」を標榜するビジネスも多く見かけます。

では、この地域特有の課題や特徴とは何か? もう少し深掘りしていきましょう。

アジアで重視される「ステークホルダーエンゲージメント」

調査では、各地域を拠点とする回答者にグローバルコミュニケーションにおける課題を尋ねていますが、アジアの企業では「ステークホルダーエンゲージメント(Stakeholder engagement)」が顕著であることが分かりました。

グローバルでは「予算(Budget)」「仕事にあたる人員の少なさ(Too few people to do the work)」が課題にあがる中、アジアでは「予算」に次ぎ、「言語の壁(Language barriers)」よりも高い結果になっています。

グラフ その他 地域別のグローバルコミュニケーションの課題の比較から
地域別のグローバルコミュニケーションの課題の比較から(Americas=アメリカ大陸、APAC=アジア太平洋、EMEA=欧州・中東・アフリカ)。上から、「予算」「仕事にあたる人員の少なさ」「言葉の壁」「経営層のサポート・コミットメント」「ステックホルダーエンゲージメント」「政治の不安定さ・対立」「テクノロジーの欠如」「汚職」「その他」。アジアは「ステックホルダーエンゲージメント」が突出している。
出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」

これは調査からの推察にはなりますが、アジアという地域があらゆる面で多様であることから、企業を取り巻くステークホルダーとのコミュニケーション、そしてエンゲージメントに苦労しているアジア地域内の企業が多いということがうかがえます。

上記の点についてIPREXのパートナーエージェンシーである、シンガポールを拠点にするAPRWで共同創業者・ディレクターを務めるアヌ・グプタに尋ねると、次のように答えてくれました。

写真 人物 プロフィール シンガポールのエージェンシー、APRW 共同創業者兼ディレクター アヌ・グプタ
シンガポールのエージェンシー、APRW 共同創業者兼ディレクター アヌ・グプタ。 写真=本人提供

「コミュニケーションのプロフェッショナルとして、私たちはメッセージが非常に明瞭で、わかりやすく、ターゲットオーディエンスにダイレクトに届くようにしなければなりません。

一方で、ステークホルダーエンゲージメントとは、直接のターゲットオーディエンスだけでなく、マス(大衆)から、ガバメント・公的セクター、非営利組織などを含むより大きなエコシステムの中で、パーセプション(認識)をつくりあげていくことです。

アジアにはいくつもの文化や言語の壁があり、非常に複雑です。この地域で成長していくには“型にはまったアプローチ”を取ることはできず、多くの場合、ローカルチームを編成したり、ローカルでのパートナーシップを結んだりせざるを得ないでしょう」。

日本の広報・PRパーソンが心がけたいことは?

日本発のブランドとしてアジアでコミュニケーションに取り組みたい。外資系企業で日本だけでなく他のアジア地域のコミュニケーションも管轄している。そんな広報・PRパーソンは何を心がけたらいいのでしょうか?

やはりそれは、地域特有の多様性やビジネス環境を理解した上で、伝えたいメッセージを適切な表現・方法で伝えていくことに尽きると思います。テクノロジーの活用やローカルエージェンシーの活用・提携など、広報・PRを取り巻く環境は常に変化しながら、可能性は広がり続けているともいえるでしょう。

実は最後に、ひとつ興味深いデータがあります。

調査の中でコミュニケーションのグローバル化についてどのような取り組みをしているか尋ねたところ、アジアの企業はどの取り組みにおいても欧米企業を上回るという結果になりました。

グラフ その他 「コミュニケーションのグローバル化についてどのような取り組みをしているのか」という設問。
「コミュニケーションのグローバル化についてどのような取り組みをしているのか」という設問。上から、「現地市場のフォーマルな調査」「自社をローカルの人々に知ってもらうためのコミュニケーションプログラムの企画」「市場ごとのクライシスコミュニケーションプランの作成」「現地の政治環境について助言を求めるため第三者の専門家を雇う」「新たな市場での新スタッフの採用」「既存のスタッフを新たなマーケットに配置する」。
出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」
  • ・「現地市場のフォーマルな調査(Undertake formal research in the local market)」
  • ・「市場ごとのクライシスコミュニケーションプランの作成(Create a market-specific crisis communication plan)」
  • ・「新たな市場での新スタッフの採用(Hire third-party in-country experts(like an agency) to offer counsel on the local political environment)」

などが選択肢として挙げられているのですが、アジア企業のグローバル化に向けた意識は非常に高いと言っても過言ではありません。

世界で見ると過酷なコミュニケーション環境のアジア。しかしその中で日々揉まれ、困難や競争にさらされる企業の広報・PR担当者は、一方でグローバルコミュニケーションへの意識が高く、その実践力にもまた期待がかかるとも読めるでしょう。

今回は、IPREXのグローバル調査によるレポートの概説と、アジア地域の特徴・特殊性、そして日本の広報・PR担当者への示唆をご紹介しました。次回からは、グローバルの広報・PR課題、企業とエージェンシーの付き合い方、世界で進むテクノロジー活用、そしてダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みなどについて、レポートをもとにご紹介していきます。

また次回、お会いしましょう!

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前田圭介(アソビバ CEO/ラ・クレタ 代表取締役)
前田圭介(アソビバ CEO/ラ・クレタ 代表取締役)

サッカー選手として19歳でイタリアに渡り、ウンブリア州ペルージャにあるセリエDのチームでプレー後、中田英寿氏のスポーツマネジメントで有名なサニーサイドアップで広報・PRの実務経験を積む。その後、博報堂プロダクツ、インテグレートを経て、広報・PR、広告、マーケティングに関する多角的なキャリアを積んだのち、2012年に統合PRコミュニケーションサービスを提供するラ・クレタを創業。2019年にグローバルPR子会社のアソビバ合同会社を設立し現職。国内企業のほか、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オランダ、イスラエル、シンガポール、インド、中国などの多様な海外クライアントのプロジェクト経験がある。

前田圭介(アソビバ CEO/ラ・クレタ 代表取締役)

サッカー選手として19歳でイタリアに渡り、ウンブリア州ペルージャにあるセリエDのチームでプレー後、中田英寿氏のスポーツマネジメントで有名なサニーサイドアップで広報・PRの実務経験を積む。その後、博報堂プロダクツ、インテグレートを経て、広報・PR、広告、マーケティングに関する多角的なキャリアを積んだのち、2012年に統合PRコミュニケーションサービスを提供するラ・クレタを創業。2019年にグローバルPR子会社のアソビバ合同会社を設立し現職。国内企業のほか、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オランダ、イスラエル、シンガポール、インド、中国などの多様な海外クライアントのプロジェクト経験がある。

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