パーソナルブランディング市場成長の背景にある「エゴ化」

【前回はこちら】なぜ人は「映え」を求めるのか? エゴマーケティング視点で考える

古くて新しい「パーソナルブランディング」

「パーソナルブランディング」という言葉を耳にしたことはありますか?

どうやら最近はやりつつある概念のようです。似ているものとして「セルフブランディング」「パーソナルマーケティング」などがあるようです。これをググると「パーソナル~」は企業や組織における個人のポジショニングのためのもの、「セルフ~」は企業や組織に属さない個人がプロモーションをすること、と定義されるようです。

いずれにせよ、個人が自分のために自らをブランディングすることなので、ここではパーソナルブランディングを「個人が自己表現し自己利益を獲得する手法」として広義にとらえることにします。


実データ personal brand ロゴ

この概念は最近出現したものかと言えば、決してそのようなことはなく、私たち二人が広告会社に在籍していた時、入社研修では口を酸っぱくして、「会社におけるあなたのポジショニングを考えて欲しい」「周囲を見回してあなただからこそできる強い領域をつくって欲しい」などと言っていたものです。ただ、それを個人のブランドに紐づけしてはいませんでしたけど。

その意味でこの概念の興味深いところは、主にヒューマンリソース(HR)系の会社が提唱していることです。ブランドと言えば、かつてはブランドコンサルティング会社や広告会社の独壇場でした。それが、個人になるとHR系の会社の領域になるわけです。

さらに、その方法論はそれこそかつて法人向けに開発されたコーポレートブランド構築の手法がそのまま個人に置き換わっています。私たち2人も広告会社にいてブランドの仕事を生業にしていたものの、ブランドがHR事業に発展するなど考えてもいませんでした。この発想にいち早く気づいていれば、広告会社はHRにも事業領域を広げられていたかも知れません。ここは少し悔しい思いでいます。

背景にあるのは、社会システムの「エゴ化」

さて、このパーソナルブランディングが隆盛になっている背景には、ひとつには以前もお伝えした通り「自己責任」への社会システムの転換があるのだと考えます。社会が「自己責任」を求めることによって「個人を強くする術」に対するニーズが生まれてきているし、会社もこのような思考に社員を誘導するためにパーソナルブランディングを取り入れていくことが考えられます。

もうひとつは、令和の時代に入って進む「働き方改革」だと思います。今の学生は、就職先を選ぶ際に「休日が取りやすい」ことを重視するそうです。これは自分のライフスタイルを会社に合わせるのではなく、個人の生活をまず第一優先するよう会社が合わせてくれるようになった。まさに、これらは「エゴ化」を生み出し、加速させる装置なのではないでしょうか?

ある会社のホームページには、

  • 「パーソナルブランディングは現代では必須となるビジネススキルです。
  • 企業や商品のブランディング同様、一朝一夕で成果が出るようなものではありませんが、正しい戦略にのっとり、自身のブランドをわかりやすい言葉で発信し続ければ、人的ネットワークの拡大や新しい展開への道が見えてくるでしょう。
  • ブランディングのプロが直接伝えるブランディングセミナー。お申込みはこちらから」

このような宣伝文句があったりします。エゴ化への環境はどんどん整いつつあると言えます。

パーソナルブランディングは、エゴ化において個人が自己をブランド化し、他者に自己をアピールする有効な手段です。エゴ化の理解を進めるためにも、個人が自己をブランド化するための戦略に焦点を当ててみたいと思います。

  • ●自己認識:
  • パーソナルブランディングの第一歩は、自己認識である。自己の強みや特徴、価値観を理解し、自己のアイデンティティを明確にすることが重要である。自己認識を深めるために、自己分析を行い、自分の長所と改善すべき点を把握することが大切になる。
  • ●目標設定:
  • 自己をブランド化する際には、明確な目標を設定することが不可欠である。どのようなイメージや印象を他者に伝えたいのかを考え、それを達成するための具体的な目標を立てることで、パーソナルブランドの方向性を明確する。
  • ●オンラインプレゼンス:
  • エゴの時代においては、オンライン上でのプレゼンス(存在感)が非常に重要になる。個人のブランドを効果的に伝えるためには、ソーシャルメディアや個人ブログなどのオンラインプラットフォームを活用する。個人のブランドに合ったコンテンツを発信し、他者とのコミュニケーションを積極的に行うことで、個人ブランドの知名度を高めることができる。
  • ●ストーリーテリング:
  • ストーリーテリングは、個人のブランドを魅力的に伝える上で非常に有効な手法である。自己の経験や成長のストーリーをうまく活用し、他者に感情的な共感を呼び起こすようなストーリーを構築する。ストーリーテリングを通じて、他者との結びつきを深めることができる。

個人向けの各種サービスに市場性あり

私たち世代でも上記のような戦略思考を結果としてやっていた人はいました。しかし、このように明文化され、このような教育を受けることはありませんでした。教育があるということはこの概念は共通認識になるということです。その意味でも「エゴ化」はこの先、ポジティブになる可能性があります。

先のHR系の会社の宣伝文句ではありませんが、個人を戦略に考察し、いかにして利を得る動きをするニーズが拡大する。そうすれば、さらにこの領域を産業カウンセラーやキャリアカウンセラーがカバーすることも想定されます。パーソナルブランディングにおいて、プロのアドバイスを受けることも有益だからです。

また、パーソナルトレーニングなどももっと増えていくことも考えられます。いろいろな場面に、パーソナル××のようなサービスが登場してくるのではないでしょうか? これらのパーソナルブランディングに求められるサービスや商品が吸収されてエゴ化を促進します。エゴ化を求める消費が「エゴ消費」です。そしてこのような、エゴ化という心理的なニーズにアプローチしていくことが「エゴマ(エゴ・マーケティング)」であると私たちは考えています。

次回(11月11日)からはエゴマを構成する二つ目の「エゴ化する消費者に対するマーケティングの仮説」に触れていきます。

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青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)
青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)

青谷 宣孝(オークローンマーケティング代表取締役副社長)
1987年 日本電信電話に入社。翌年には、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ出向し、ゲーム会社、化粧品会社、自動車保険、アパレルなどの広告マーケティング、新規事業企画等を担当する。在籍中には、Jリーグ初のITパートナーカテゴリーを企画創設し、広告代理店の領域を超えてNTTグループが行うJリーグのIT基盤構築を推進した。その後NTTドコモプロモーション部に異動し、フジテレビ「踊る大捜査線」携帯動画初の本格ドラマをプロデュース。dポイントキャラクター『ポインコ』の生みの親。現在TVショッピング『ショップジャパン』を運営するオークローンマーケティングにて、ダイレクトマーケティングを探求している。


 

明海 司(D2C エグゼクティブ・プロデューサー)
1988年I&S(現I&S BBDO)に新卒入社。ストラテジック部門で主に流通のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略に携わる。1994年 NTTアドに参画。NTTドコモを担当し、携帯電話市場の成長過程において、モバイルやインタラクティブを絡めた数々のプロモーションを実行。2006年 ブランドコンサルティング会社であるフューチャーブランドに参画し、エグゼクティブダイレクターとして顧客のコーポレートブランディングを担当。2011年、講談社の広告代理である第一通信社に参画し、2015年 同社取締役に就任。新事業及び管理部門を担当。2016年1月 D2Cに参画しデジタルマーケティング事業を推進。

青谷宣孝/明海司(エゴマーケティングラボ)

青谷 宣孝(オークローンマーケティング代表取締役副社長)
1987年 日本電信電話に入社。翌年には、NTTのハウスエージェンシーであるNTTアドへ出向し、ゲーム会社、化粧品会社、自動車保険、アパレルなどの広告マーケティング、新規事業企画等を担当する。在籍中には、Jリーグ初のITパートナーカテゴリーを企画創設し、広告代理店の領域を超えてNTTグループが行うJリーグのIT基盤構築を推進した。その後NTTドコモプロモーション部に異動し、フジテレビ「踊る大捜査線」携帯動画初の本格ドラマをプロデュース。dポイントキャラクター『ポインコ』の生みの親。現在TVショッピング『ショップジャパン』を運営するオークローンマーケティングにて、ダイレクトマーケティングを探求している。


 

明海 司(D2C エグゼクティブ・プロデューサー)
1988年I&S(現I&S BBDO)に新卒入社。ストラテジック部門で主に流通のマーケティング戦略、コミュニケーション戦略に携わる。1994年 NTTアドに参画。NTTドコモを担当し、携帯電話市場の成長過程において、モバイルやインタラクティブを絡めた数々のプロモーションを実行。2006年 ブランドコンサルティング会社であるフューチャーブランドに参画し、エグゼクティブダイレクターとして顧客のコーポレートブランディングを担当。2011年、講談社の広告代理である第一通信社に参画し、2015年 同社取締役に就任。新事業及び管理部門を担当。2016年1月 D2Cに参画しデジタルマーケティング事業を推進。

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