「編集力」で勝負する時代へ 成果と向き合うための経営マネジメント

「広告」がマーケティング活動の中核として機能していたマス・マーケティング全盛時代と比べると、クライアントがパートナー企業に期待する機能や役割は変化しています。「メディア枠」の提供からマーケティング課題を解決する「ソリューション」の提供へ。
「広告代理店」から「マーケティング支援会社」へと進化が始まっています。広告業界のビジネスモデルが変化をしていく中で、広告業界の経営や人材マネジメントはどうあるべきなのでしょうか。20年以上にわたり、イベント会社を経営し、広告産業が抱えるプロジェクトマネジメントにおける課題に対する気づきから、現在はシービーティーを創業し、案件収支管理システムの「プロカン」を開発・提供する同社、社長の若村和明氏。本連載では、若村氏はじめシービーティーのメンバーと共に、広告・クリエイティブ産業のトップランナーの方たちに取材。連載6回目は、サイカ代表取締役社長CEOの平尾喜昭氏に話を聞きます。
平尾喜昭氏

 

企業からより求められる本質的な課題解決

―サイカでは「分析」、「コンサルティング」と「実行支援」を、データサイエンスを軸に一気通貫して提供し、「データドリブン・マーケティング」の実現をサポートする事業を展開しています。本事業を行う中で感じている、業界に起きている変化をどのように捉えていますか。

私は現在、広告業界に起きている変化は3つあると捉えています。ひとつ目は広告主サイドが、より本質的な課題解決を求めていることです。

そして2つ目として、広告主サイドが本質的な課題解決を求めるようになった結果、多様な専門家の力を組み合わせて課題解決にあたるケースが増えてきているということ。企業側に「マーケティングのことは大手1社にすべてお願いすれば安心」という時代から「総合力で戦いたい、全て専門家で完璧なチームで戦いたい」という意識の変化が見られます。その変化に応じて、広告会社がネットワークを駆使し、編集力の素晴しさで競い合っているのが現在の状況です。

すでに市場には広告会社から独立した人を含む、フリーランスのプロフェッショナルも多く存在しています。広告主サイドは自社が持っているリソースのみで勝負するのではなく、外部の専門家を組み合わせるという「編集力」で勝負する時代になっていくのではないかと考えています。

こうした流れを象徴するのが、韓国のドラマ制作集団「STUDIO Dragon(以下スタジオドラゴン)」です。スタジオドラゴンは全員プロデューサーで、制作者が1人もいません。その代わりに、200人程の監督や脚本家と契約をしています。議論をしながらドラマの企画を練っていく形で、脚本は常に4話分を提出して時代性など様々な軸で評価され、選び抜かれて制作に入るという形を取っているのです。

作品のクオリティを最大化するために「視聴者を楽しませる」という明確なゴールを設定しています。もし彼らが制作者や脚本家に至るまで、全部自分たちで抱え込んでいたら、このように自由なスタイルで、発想して面白い作品をつくることはできなかったのではないでしょうか。

最高の才能を組み合わせ、最高の成果を出して、参加したメンバーは働きに応じて対価をしっかりと受け取れる。これは世界のクリエイティブ産業で起きている潮流で、日本の広告業界においても待ったなしで起きる変化だと思います。広告会社のような企業組織においては、これが経営管理、収支管理、個の評価の戦略にも影響すると見ています。

変化の3つ目としては、マーケティングと事業成果を紐づけようとする動きがより顕著になっていることです。マーケティングと事業成果が紐づくようになると、本質的に正しいKPIとKGIを持って評価されるようになります。

ここまであげた3つの変化が起きた背景としては、広告主サイドでマーケティングに精通する人々が増えたことも要因のひとつと考えられます。以前のように「広告会社に丸投げ」する姿は珍しくなりました。自分たちの課題をしっかりと理解している会社が増えています。

 

本質的な課題解決に向き合うための指標と環境

―日々、企業の事業開発や広告活動にかかわる中で、経営管理・収支管理・個の評価という点について、業界が抱えている課題として感じていることをお聞かせください。

「自分たちの発揮する価値」と「収益」がイコールになっていないケースがあるという点に課題を感じています。本来、広告業界がマーケティングのプロとしてクライアントに提供するべき価値は事業成長に資する提案なのに、そこを目指さず、自社が受け取るマージンのことばかりを意識して、ときにそこを最終目標にしている組織を見かけます。またこのように本来大前提であるべきゴール設定がずれているにも関わらず、その事実が議論にすらならないこともこの業界が抱える課題だと考えています。

実際にマージンを最終ゴールとして経営管理・収支管理・個の管理をし始めて評価をすると、例えば「強引に営業した人」やその人がもたらした収益もプラスの評価を受けることになります。ただ短期的ならプラスなのですが、中長期的にはリスク要因も抱えるので、経営的には安定しません。

さらに間違ったゴール設定をすると永久に答えがないゴールを追うことになり、結果的によい広告をつくることができるとは限らないのに、時間の許す限り頑張って働く人が出てきます。何の成果につながるのかわからないのに頑張る、すごくもったいないことがこの業界では起きています。時間を管理することは、とても重要だと思います。

このようにゴールの設定自体を見誤るとそこに続いていろいろな管理が誤っていってしまいます。反対にクライアントの事業成長をゴールにすると、誰が本質的な価値を発揮したのかが明確になります。

―人が資産と言われる広告業界において個の評価まで行き着くと、この業界で働く一人ひとりにとって、どのようなポジティブな影響が生まれると考えますか。

クライアントの事業成長をゴールとして本質的に働ける時代になるのであれば、という前提でお話をすると、ポジティブな影響を3点あげることができます。

ひとつ目は本質的な価値提供に集中できるので、人はプロとして今まで以上にスキルを磨くことができます。

2つ目は「幸せ」を感じながら働く人が増えるだろうと思います。本質的な課題解決の経験を積める環境下では、人々は精神的に安定するからです。独立したプロの人たちが皆言うのですが、何が変わったかを聞くと「楽になった」という人はさすがにいませんが、「収入が増えた」という人はいます。それ以上に「楽しいよ、今の方が」という人は断然多いです。

3つ目は「大企業に所属しなくてもスキルがあれば独立しても大きなビジネスに関わることができる自由な時代」なのかなと思います。裏を返したら、スキルがなければ、どんな企業に属しても相手にされないという意味になりかねないので、怖い時代とも言えるかもしれません。大企業に入ったらゴールみたいな時代ではなくなるとも言えますが、本質的な価値を磨けば評価され、どんな働き方も是とされる時代になると考えています。

―広告ビジネスに携わる企業はどのような人材育成を行えばよいのでしょうか。

成果で評価するのが大前提です。ただプロフェッショナルサービスの世界は、提供するスキルの再現性は高いのですが、収益はぶれることもあると考えると、そのスキルは再現性が高いとか人間性を含めて「学んでいくということ」に対して評価をしてあげて、称賛して伸ばしていく、そういうマネジメントが問われると思います。逆に過度な成果主義は、特にプロフェッショナルサービスには不向きだと考えています。

「編集協力/株式会社シービーティー「プロカン」」

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