前回のコラムでは、独立系PRエージェンシーのグローバルネットワーク「IPREX(アイプレックス)」が実施したグローバル調査によるレポート「State of Global Communications and Marketing 2023」をもとに、アジアにおける広報・PRの難易度の高さや、その上でのグローバルコミュニケーションにおけるアドバイスなどをご紹介しました。
今回は、そのグローバルで日々広報・PR業務に携わるプロフェッショナルがどのようなイシューを抱えているのかを紐解いていきます。尚、イシューとは「問題点」とも訳されるように比較的長い時間軸で解決していくもので、前稿でも紹介した「まさに今直面する課題」(=チャレンジ)とは異なります。
ただし、調査では、この「イシュー」に関しては国や地域ごとの集計をしていません。グローバルでのイシューとしてご覧いただき、各国だとどのような違いがあるのか?日本ではどうだろうか?と考えを深めていただくきっかけになれば幸いです。
それでは、実際に見ていきましょう。
調査で示された、「3大イシュー」とは?
レポートでは、グローバルコミュニケーションにおける3大イシューとして、以下の3点があげられています。
- 1)国をまたいだ広報アセットの共有不足
- (Communication assets are not being shared across countries)
- 2)国をまたいだメッセージ・ブランドの一貫性のなさ
- (Messages and brand inconsistencies across countries)
- 3)経営陣からマーケティング・コミュニケーションが専門領域としてみなされていない
- (Leadership does not respect marketing and communication as a discipline)
3点目は、経営陣の理解不足ともいえるでしょう。
広報アセットの共有不足については回答者の62%が自分の所属する組織に当てはまると回答し、メッセージ・ブランドの一貫性のなさ(53%)、経営陣の理解不足(48%)が続きました。
いかがでしょうか? 深く同意される方も多いかもしれません。私個人としても、ああこれはまさしくこれまでに立ちはだかってきた壁だと、改めて思い返すことができます(苦笑)。
それでは、ここからはそれぞれを考察していきたいと思います。
イシューは独立しているのではなく、相関している
61%のプロフェッショナルが、国をまたいでの広報アセットが十分に共有されていないと回答しました。アセットにはコンテンツだけでなくグラフィックなどのクリエイティブも含まれています。
これは、今日の広報・PR業務がデジタル化の波を受けて、マスメディアとのコミュニケーションだけではなくオウンドメディアやソーシャルメディアの運営などにも広がっていることが直に反映されているといえるでしょう。
その背景の中、異なる国や地域で事業を行う多国籍企業には多くのハードルが存在します。本国と海外オフィスでそれぞれ広報・PR活動やクリエイティブが動いているケースは多々あり、そもそもアセットを共有するという発想がない組織もあれば、アセットを共有したいが適切な(使いやすい)ツールやプラットフォームがないという組織もあるでしょう。
これらが結果として、メッセージ・ブランドの一貫性のなさにつながっているとも考えられます。
アセットの共有が十分にされていないということは、グローバルでみれば同じような業務を各地で二重、三重にしていることにもなります。もちろん各国の消費者・生活者の趣味嗜好は異なるのでローカライズには注意が払われるべきですが、それはブランドのルックやメッセージ、ひいてはパーセプションが異なってもよいということではありません。
強いブランドをグローバルで構築していくには、本国と海外オフィスが一枚岩になってブランドマネジメントをしていく必要があります。そのために何よりも重要なのが、経営陣の理解とコミットメントです。
経営陣の理解をどう得ていくか?
調査では、半数近い48%の回答者が、「経営陣にマーケティング・コミュニケーションが専門領域とみなされていない」と回答しました。これは、少々驚きではないでしょうか?
この結果を私なりに読み解くと、もちろん部門・部署としてのコミュニケーションチームは存在するものの、企業経営に重大な影響をもたらす専門性の高い機能とはまだまだ認識されていないのではないかと考えます。
これについては短期間で解決できることではありませんが、社内組織においてコミュニケーションが持つ役割について少しずつ啓蒙していく必要があるでしょう。例えば、収益向上にブランド力が利くことや、組織のパフォーマンス向上にインターナルコミュニケーションが有用であることを、定量的なデータで示していくといった具合です。
今回のレポートをとりまとめた、IPREXの前グローバルプレジデントで、米国オハイオの統合コミュニケーションエージェンシー「Fahlgren Mortine」でシニアバイスプレジデントを務めるジュリー・エクスナーにも、この「経営陣の理解獲得」について意見を求めるとこう答えてくれました。
「ビジネスリーダーとの関係を構築するには、彼ら・彼女らが重要視する経営指標――例えば認知度と好意度の向上などに紐づけて、マーケティングやコミュニケーションを組み立てることが重要です。マーケティングオートメーションやCRMツールはデータの蓄積が可能で、確たる証拠ほどビジネスリーダーに魅力的なものはありません。
実際にFahlgren Mortineでは、デジタル広告を経由した業界レポートをダウンロードしてもらうマーケティングオートメーションの導入により300万ドル(約4億5000万円)が創出されていると評価するクライアントもいます。したがって私のアドバイスはデータの取得ができるツールを積極的に取り入れること、そしてエージェンシーの方々であればクライアントがすでに使っているツールに(諸活動を)接続することを試みては、ということになるでしょう」。
「問題点の改善に努めている」という回答が多数
さて、またレポートの中身に戻りたいと思います。
最後に、調査の中で興味深い点をあげるとすれば、上記の3項目がトップ・イシューとなっていますが、もう一段深く読むと、「イシューと認識しており、改善に努めている(An issue, but we’re improving on it)」という回答が多くを占めることです。
現在の問題点を認識し、解決するために手を打っていく――。広報・PRのイシューはグローバルで共通かもしれませんが、各国でのプロフェッショナルがそれぞれ尽力していくことが期待されます。
次回は、企業、エージェンシーどちらの立場の広報・PRパーソンも気になるかもしれない(?)、企業とエージェンシーとの付き合い方について、グローバルの最新トレンドを紹介します。