MetaのAI活用が新たなフェーズに
「Meta Marketing Summit Japan 2023」のオープニング「人と人のつながりがチャンスになる」では、Facebook Japan代表取締役・味澤将宏氏が登壇した。Metaが提供するプラットフォームの利用者数は全世界で39.6億人を突破、これは世界人口の約半分の人々が各プラットフォーム上でさまざまな活動を行っていることを示している。
日本では特に、Instagramの利用者が順調に伸びており、2019年の3300万アカウントから大幅に成長。多くの企業やブランドがマーケティングでの活用を進めている。
こうした同社の成長を支えてきたのがAIだ。Metaは創業以来AIへの投資を行い、利用者体験の向上やマーケティング成果の向上で、実績を重ねてきた。2023年には大規模言語モデル「Llama 2」をリリース。味澤氏はイベント当日の10月27日から、すべての広告主向けにクリエイティブ生成AIを段階的に提供開始することを発表。「広告クリエイティブの領域でもAIへの投資を加速し、広告主の皆さんの成果を高めるお手伝いをしていきたい」と話した。
また、9月に実施した開発者イベント「Meta Connect 2023」の内容にも触れ、Meta AIや特化型AIチャットボット、今年販売開始されたMRデバイス「Meta Quest 3」を紹介。同社のプラットフォームとそれを支えるAI、そしてその進化への投資が未来を切り開いていくことを伝えた。
AIの能力を最大化「フューエルアンドフリーダム」
「AIで広告効果を最大化せよ 業界を変革する生成AIの可能性を探る」と題したパネルディスカッションでは、Facebook Japanの鈴木大海氏を進行役に、Kaizen Platformの須藤憲司氏とサイバーエージェントの毛利真崇氏が登壇。近年急速な進化を遂げ、利用範囲が広まっているAIの広告事業における活用について議論した。
冒頭で鈴木氏はMetaのAI活用について紹介。創業以来、Facebookのニュースフィードや有害コンテンツの排除など、各種プラットフォームを背後で支える形でAIを使ってきたが、7月に発表した「Llama 2」に代表されるような生成AIではAIそのものをサービスとして展開するように進化を遂げている。
須藤氏はAIの急速な進化を認めつつ、AIの究極的な姿を「ドラえもん」にたとえた。ただ、「現状ではそこまでには至っておらず、特定の得意領域内で人間よりも上手く、早く行動できることがAIの強み」だと指摘。さらに一部の技術者だけではなく、誰でも使えるようになったことがポイントだという。
「このような進化によって市場環境が大きく変わり、(AIは今後、)労働環境にも影響を与えていくのではないか」(須藤氏)
毛利氏はAIの広告活用について、自社の広告効果予測ソフト「極」シリーズで広告のバナー動画やテキストクリエイティブの適正性を予測し、その結果に基づく改善を進めた結果、リリースした3年前からの比較でKPIが向上した事例を紹介。今年にはさらに、「極」と組み合わせた活用で広告効果の高い動画を制作するための撮影専用スタジオ開設についても触れた。
Metaでも2022年からマーケター向けの新しい広告プロダクト「Meta Advantage」の提供を開始している。鈴木氏は、同シリーズの「Advantage +ショッピングキャンペーン」を活用し購入単価(CPA)を32%改善、購入数1.5倍、広告インプレッション1.2倍を実現したファストノットの着圧スリムタイツブランド「BELMISE」のケースや「Advantage +アプリキャンペーン」でMIXIの家族アルバム「みてね」がアプリ内イベント最適化機能で実績を残していることを紹介した。
今後、AIの性能をより伸ばしていくためには、AIによって得られた結果の善し悪しを適切にフィードバックし、次の施策につなげていくことが重要となる。Metaではこの分野でも「コンバージョンAPI」というサービスの提供を開始。楽天モバイルがその導入によって獲得効率を改善した事例を紹介した。
鈴木氏はAIに判断材料(フューエル)を提供し、その後に能力を最大限に発揮できるよう自由(フリーダム)に動かす考え方をMetaでは「フューエルアンドフリーダム」と説明しているとし、「逆に、今AIにできないことはフィードバックループを結ぶ環境づくり。その全体を人がデザインすることが大事」と話す。
「たとえばかつて、鉄砲なんて当たらないと否定されていました。でも、鉄砲をうまく使った織田信長が結局は勝った。今も同じ。新しいテクノロジーが出てきたときに、自分がどう活用することが大事で、それをうまく発見できた人が勝つ。そう考えて明るく前向きに取り組めばいい」(須藤氏)
価値共創マーケティングで成功した「ビオレUV」
「好きと欲しいをつなぐ、自分ごと化プラットフォームとしてのInstagram」のセッションでは、価値共創マーケティングにおいてなぜInstagramが重要視されるのか、その特徴と利点を解説。実際にInstagramをプロモーションに活用し、実績を残した花王「ビオレUV」の事例を紹介した。
前半に登壇したFacebook Japanの南勲氏は、Instagramがマーケティングの手段として注目されている理由を解説。近年、多くの企業やブランドはデジタルマーケティングに投資し、効果検証を行なっているが、同時に期待通りのKPIが実現でないという課題を抱えている。また、従来通りの広告やキャンペーンでは通用しない層も登場しており、特にZ世代は企業からのメッセージよりもインフルエンサーなど第三者のクリエイターからの影響力が増している。これらの課題に加えて、南氏はパーチェスファネルの分断について触れ、「今、注目すべきはこれまで投資が進んでいなかったミドルファネル」だと話した。
このミドルファネルではブランドとオーディエンスの関係を構築し、自分ごと化を促進することができる。さらに短期間の売り上げだけではなく、中長期的なブランドエクイティの蓄積も期待できる。その攻略はファネル間のギャップを埋めることにつながり、キャンペーン成果の最大化も可能なのではないかと話し、「好きと欲しいをつなぐ自分ごと化プラットフォーム」であるInstagramはこの領域の攻略に最適だと提案。事例として日本コカ・コーラの缶コーヒーブランド「ジョージア」のケースを紹介した。
自分ごと化を加速するためのベストアプローチは価値共創マーケティングだ。Instagram内には活発に動いている熱量の高いコミュニティがある。そこでは利用者に加えてブランドやクリエイターが双方向のコミュニケーションを生み出している。そうしたコミュニティ内でブランド価値を高めることが価値創造マーケティングであり、その成功が自分ごと化を最大化させるのだ。南氏は過去一年に実施された価値創造マーケティングで最も象徴的な成果を残したのが花王の「ビオレUV」のキャンペーンだったと紹介。このキャンペーンによってInstagram内でのビオレUVに関する会話は広告接触者と非接触者比で3.9倍に増え、購入意向も19倍となったというデータとともに実績を伝えた。
南氏はこうしたキャンペーンを実現するためのプランニングプロセスを5つのステップで紹介。Metaではその最初のステップから同社が議論に関与し、プランニングを進めることを推奨している。「ブリーフィングから参加することで、その内容をふまえてInstagramで起きている会話からインサイトを抽出し、キャンペーンの方向性を決めるディスカッションに役立てることができます」とその理由についても話した。
MetaとInstagramキャンペーンのプランニングを併走することは、クリエイティブ面、配信設定でも大きな助けになる。配信設定では10月31日から全ての顧客に解放された新機能「ターゲットフリークエンシー」使用の検討も推奨した。
セッションの後半ではFacebook Japanの丸山祐子氏と花王の小林達郎氏、博報堂の上山修一氏が登壇し「ビオレUV」のキャンペーンについて解説。小林氏は「ビオレUV」のキャンペーン成功の要因を、消費者との大切な接点である「店頭(Store)」、「SNS」、「使用場面(Scene)」の「3つのS」で感動体験を提供し、そのサイクルがうまく回りはじめたときにヒットが生まれるのではないかと振り返った。そして、テレビCMやPR活動などはその3Sサイクルを回すためのブースターとして機能していくのではないかと自身の考えを話した。
「ビオレUV」の事例ではInstagram内の配信面「フィード」「ストーリーズ」「リール」それぞれに合わせたコンテンツ制作も成功のカギを握っていた。上山氏はMetaと一緒にInstagram広告への接触後に生まれたUGC投稿を分析し、配信面ごとの特徴を見つけて投稿内容を検討した結果がそれらの実現につながったと話した。
上山氏の話を受けて丸山氏は「Instagramの楽しみ方はさまざまなので、それぞれの利用者に響くクリエイティブを入れることでパフォーマンスが高まります。これにブースターとしての広告を組み合わせることでよりミッドファネルに効果を出すことができます」と話した。
最後に重要なポイントとして丸山氏は「Instagram as Big Data and Measurement」と話し、Instagramに蓄積したデータとその計測結果を企業やブランドのマーケティングに大いに活用してほしいとしてセッションを締めくくった。