今年のIPRN年次総会開催国であるプエルトリコは野球の強豪国です。多くのメジャーリーガーを輩出しています。
今年3月に開催された第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、大谷選手らの大活躍で日本代表チームが優勝しましたね。
プエルトリコ代表チームは宿敵ドミニカに予選で勝利したものの、決勝リーグ準々決勝でメキシコに逆転負けでした。しかしながら、前回と前々回大会では準優勝をしています。
プエルトリコのTV局、WAPAによれば、前回大会時にはプエルトリコ全世帯の約70%がWBCを視聴、瞬間最大視聴率は38.9%だったとのことです。
さて今回は、年次総会開催国プエルトリコのクリエイティブエージェンシー、Lopito lleana & Howie社(以下、ロピート社)が2023年WBC開催時に行ったPRキャンペーンを紹介します。
本キャンペーンはIPRN年次アワードの「イベント/動員」部門で今年、グランプリに選ばれました。
ギネス世界記録をかけたブロンド髪染めイベント
ロピート社が手掛けた本キャンペーンのクライアント(顧客)は、WBCプエルトリコ代表チームの公式スポンサーであるUniversal Insurance Group(ユニバーサル保険グループ、本社はプエルトリコの首都サンファン郊外のグアイナボ)とNUC University(NUC大学、米フロリダ州とプエルトリコ内に合わせて15のキャンパス、2万人の学部生が学ぶ総合大学)の美容師養成スクールです。
クライアントの目的は、2023年のWBCイベントをきっかけとしたブランディングや認知度の向上。
主な手法は、2017年に開催されたWBC前回大会時に、米フロリダ州マイアミでヘアスタイリストのJean Carlos Cruz(ジャン・カルロス・クルス)氏が展開したキャンペーンの再現です。同キャンペーンでは大会開催時期に、WBCプエルトリコ代表チームの応援を表明する意味合いで、髪の毛をブロンドに染めることを奨励しました。
2017年にアルゼンチンで行われたイベントで、ジャン・カルロス・クルス氏は8時間以内に160人の髪の毛をブロンドに染めて、当時のギネス世界記録を樹立しました。
ロピート社は前回大会の同キャンペーンの再現によって、そのギネス世界記録を塗り替えることを目指すイベントを、予選リーグでプエルトリコ代表チームが宿敵ドミニカ代表チームと対戦する前日、3月10日に開催しました。
KPI(重要業績評価指数指標)には、プエルトリコにおけるWBC視聴者の60%がイベントを認知すること。50以上のプエルトリコ国内外のメディアからの取材を受けること。広告費換算で10万ドル以上のプロモーション効果を実現すること。イベント記事掲載関連の情報発信ページで100万ビュー以上を達成すること。また、100万人以上の視聴者・読者がイベントをからの認知することなどを設定しました。
キャンペーンの結果、2017年のギネス世界記録を更新。8時間で192人の髪をブロンドに染めることに成功しました
そして62のメディアから取材を受け、ESPN & ESPN Deportes、AP Sports、MLB、MSN Latino、Tampa HOY、LA Times、Diario New Yorkなどで掲載を獲得。広告費換算で20万ドル以上のプロモーション効果を実現したほか、イベント記事掲載ページで550万ページビュー以上、439万人以上の読者・視聴者によるイベントの認知を達成しました。
クリエイティブでインパクトのある広報の方程式(要素?)に見る、ロビート社の施策の勝因
ロビート社の施策を分析するにあたり、まず筆者が考える成功しやすい、つまりクリエイティブでインパクトのある広報の方程式を紹介します。その頭文字をとって、筆者は「STRENGTH(ストレングス)」(和訳は「強さ」)と呼んでいます。
SはSocial(社会性)。社会課題へのアプローチや公共性などの要素があるかどうか。
TはTechnology(テクノジー)。最先端の科学技術などをうまく使っているかどうか。
RはReasonability(採算性)。なるべく予算に頼らずに効果をあげたかどうか。
EはEarned Media(アーンドメディア)。うまく取材や掲載・報道を獲得できたかどうか。
NはNetwork(ネットワーク)。うまく多くのステークホルダーを巻き込めたかどうか。
GTはGrowTh(成長性)。活動の効果が将来にわたってよい影響をもたらしそうかどうか。
HはHumor(ユーモア)。どこかおもしろみのある活動かどうか。
以上の観点から、今回のロピート社のPRキャンペーンを分析してみます。
S(社会性)については、このキャンペーンを通じて、プエルトリコの様々な階層の方々がイベントに参加したことから、「コミュニティ意識が強まった」(和訳)とロピート社の本キャンペーン担当者であるアルマンド氏は述べています。
T(テクノロジー)については、アルマンド氏によれば、ギネス世界記録認定の際に使ったデジタルダッシュボード型のツールなどが、現状の把握や、オーディエンスにとってのわかりやすさを促す効果があったとのことです。
R(採算性)については、当初の目標の10万ドルを大きく超える20万ドル以上のプロモーション効果に繋がっています。
E(アーンドメディア)は言うまでもなく、予想を12媒体も上回り、多くの国内外の有名メディアから取材され、掲載に至りました。
N(ネットワーク)の観点からは、クライアントであるユニバーサル保険グループやNUC大学の関係者に加えて、S(社会性)でも触れたように、社会階層に関わらず多くの方がイベントに参加しました。
GT(成長性)については、ギネス世界記録をまた今後も超えていこうとすることで、たいへん未来志向の取り組みに繋がっていると思います。
最後にH(ユーモア)についてですが、「今回のキャンペーンはプエルトリコらしく、軽快で楽しい活動だった」とアルマンド氏は述べています。音楽に乗せた、楽しくて笑顔の溢れるイベントが、参加者全体の熱意や一体感に繋がったとのことです。
筆者としては、このH(ユーモア)の要素が、このPRキャンペーンを成功に導いた立役者であるように思います。短い期間であれプエルトリコに滞在すると、コミュニティがサルサなどの音楽とともに歌い踊りながら一体感を増していったとのアルマンド氏のコメントには、とても納得感をおぼえました。
ユーモアの要素、日本でのPR活動にもきっと、大事な要素だと思います。
次回も引き続き、IPRNプエルトリコ年次総会で発表されたベストプラクティスを紹介します。自社の施策を立てる際のヒントに落とし込んで紹介するので、ぜひご覧ください。