「丸亀製麺として、譲れない生命線というのがあります」と話すのは、丸亀製麺マーケティング本部コミュニケーション&CXデザイン部の間部徹氏。
「それは、店内製麺で、手づくりできたてのうどんを提供するブランドということ。これが丸亀製麺と他ブランドを峻別する違いであって、丸亀製麺を選ぶ理由になるもの、いわゆるポイントオブディファレンス(POD)だと考えています」(間部氏)
CMでうたう「一軒、一軒が製麺所」というキャッチフレーズも、このPODを表したもの。丸亀製麺は全国835店舗(23年9月末時点)すべてで粉から打ち、うどんを提供している。2016年には一つ星〜四つ星の段階に分かれる麺職人制度を設けた。23年9月末時点で麺職人の全体人数は1,470人、そのうち一つ星が1,465人、二つ星は5人だ。この麺職人を全店舗に在籍させることが当面の目標だが、三つ星以上はいまだ育成中で、有資格者に求める条件は厳しい。
「注文したうどんが目の前で作られていくというライブ感、ワクワク感のある店内が丸亀製麺の特徴です。当社のマーケティングとしては、お客さまが外食したい、どこかに食べに行こうという際に丸亀製麺をどれだけ思い浮かべていただけるかを強く意識しているのですが、このPODは、ブランドをどのように認識してほしいか、というカギでもあります」(間部氏)
行動変容につなげる、左脳と右脳へのアプローチ
間部氏は、「すべての店で粉からうどんを打つ」「職人による手づくり」「打ち立て、生」というのは、「左脳的な」アプローチだと話す。もう一つ欠かせないのが、同氏の表現では「右脳的な」アプローチだ。
「人間が選択を下す際は、直感やその場で決める衝動性も最終的には重要な役割を持ちます。先ほど話したライブ感、ワクワク感もそうですし、コミュニケーション上で、おいしさを五感に訴えるような絵作り、共感というものも欠かせません。PODが左脳的な理由づくり、それと直感というのがかけ合わさって、来店という行動変容を生じさせると考えています」(間部氏)
テレビCMの訴求で重視するのは、やはりPODだ。しかし、このPODがどれだけ浸透しているかをどのように根拠付けていくか。来店や定着につながるかどうかを検証する上で使える指標は何か。採用したのは、CM視聴の質を測定するデータとしての「Cスコア」と「1秒目からの連続注視秒数」だった。
「Cスコア」は、テレビCMの表現面、いわゆる「クリエイティブの良さ」を示す指標だ。CMの視聴の〈質〉を調査しデータ分析サービスを提供する企業REVISIO(リビジオ)が開発した。放送局や曜日、時間、同じCM枠の中でも番組直後の一番手に放送されたかどうかといった、CMが流れる枠自体がもつポテンシャルを極力排除し、クリエイティブ自体の良さを計測する。その「良さ」は、画面の前にいる人が、どれだけCMを注視していたかによって計測する。
計測方法は、REVISIOが、関東の人口構成に合わせて募集した会員(パネル)の家庭に、人体認識センサーなどの専用機器を設置。予め登録した世帯構成員の顔写真をもとに個人を識別し、毎秒注視データを計測している。計測のためにボタンを押すといった行為を必要としないため、自然な視聴環境で測定できるのが特徴だ。規模は関東1都6県2000世帯、関西2府4県600世帯。
丸亀製麺では、こうして得られるCMの注視データの中でも、さらにCM開始からどれだけ続けて見ているか、という「1秒目からの連続注視秒数」に着目している。
「開始後に限らず、連続秒数の長短や、途中から視線を戻す人の数など、さまざまな指標を検討しましたが、結果的にとてもシンプルなものに落ち着きました。出稿企業として、実際の視聴環境で、必ずしも最初から見続ける人ばかりではないことは承知の上です。
しかし、クリエイティブ制作の上では、1秒目からどうすれば視聴者に見続けてもらえるか、うどんのシズルを見せつつ、私たちのメッセージを最後まで見ていただけるのか、ということを考えるのが、アクションしやすいと感じています。データ分析をしている我々やブランド戦略を担う部署など、組織をまたいでの共通言語としてもわかりやすく、全てのクリエイティブで確認しています」(間部氏)
実際、2022年6月からオンエアしたブランドCM第3弾と、第4弾の2023年3月放送開始のCMとでは、開始1秒目からの連続注視秒数が改善しており、注視自体の推移でも、「今日も粉からうどんを作る」「手づくりできたてのおいしさを伝えるために」といったキーメッセージや、釜揚げうどんのカットのタイミングで、伸長していることがわかった。
「うどんをおいしく見せる上でクリエイティブ担当が心を砕いているポイントのひとつが、麺線(1本1本の麺の動きやバランス)。おいしそうに見せるには、麺線をきれいに映し出すのがポイントで、そのカットに対してしっかりと注視を得ることがとても重要なんです」と間部氏。REVISIOの岩男菜々氏も、「ありとあらゆる、うどんのシズルカットを分析し、うどんの見せ方によって、注視がどのように変わるかを研究しました」と振り返る。
「丸亀シェイクうどん」商品CMのチャレンジ
ブランドCMでPODを伝え、丸亀製麺を選ぶ確率を高めていくのがベースアップの動きとすれば、商品CMは、売上の山場をつくり、業績を盛り上げていく役割を担う。サイクルは季節ごとに2回、約1.5カ月に1回のペースで実施している。
「実際、商品CMを流すと来店は増加します。ただ、商品力に左右されるというのは否めません。つまり、お客さまがその商品を支持されるかによってしまうので、持続的に選ばれるという目的の上では、ブランドCMによるPODの浸透で、中長期的なベースアップを図る必要があると考えています」(間部氏)
商品CMの中でも、特に、従来とは毛色の異なるものがあった。「丸亀シェイクうどん」だ。間部氏によると、丸亀製麺の中でも、チャレンジとなる商品だった。
「『丸亀シェイクうどん』は、アフターコロナ時代に向け、外食・うどんの新しい体験価値で新たな市場を創造することを目的として開発されたものなんです」(間部氏)
REVISIOの岩男氏によると、「丸亀シェイクうどん」の注視度では、男女ともに20〜34歳男女の高さが顕著となった。REVISIOが週間で集計している「Cスコア」のランキングでも、関東におけるCMの中で、「シェイクうどん」の30秒編が1位、15秒編は7位につけた。(2023年7月17日-2023年7月23日の間で、250GRP以上放送があったCMが対象)
「『シェイクうどん』のCMについては、社内でもCスコアが高くなると話していました。ナレーションのタメ方や特徴のあるイントネーションといった、視聴者を引き付ける違和感、冒頭に流れる何かが始まろうとしている感覚をもたせる音楽など、注視を高める要素がふんだんに盛り込まれているというふうに見ています」(REVISIOの岩男氏)
ブランドCMも商品CMも、最終的なゴールは来店するという行動変容を起こすことだ。間部氏は、「ブランドCMも商品CMも、来店意向について関与が見られます。クリエイティブメンバーが注視秒数を強く意識して、それを高めるように表現をブラッシュアップしているので、その浸透度合いが行動変容につながっていると考えています」と話す。
間部氏が次に考えるのは、CMアンケート調査の改善だ。「定性的な、なぜこう見ていただけたのか、理由を明らかにするのを今後やっていきたいと考えています」(間部氏)
REVISIOの岩男氏も「手法次第で意義あるデータが得られそう」と話す。
「従来のアンケート調査は、最初から最後まできちんと見ることが前提です。しかし、実際は家事をしながら、家族としゃべりながら、というのが自然で、最初から最後まで見る意識が必ずしもあるわけではありません。そうした現実の環境でのデータが取れるのが『Cスコア』の利点ですが、アンケート調査とかけ合わせてみれば、さらに新たな知見が得られるかもしれません」(REVISIO 岩男氏)
※本稿は、2023年9月15日に開催したセミナー「丸亀製麺に聞く!マーケティングの考え方~データ活用によるテレビCMの成功事例とは~」の内容をもとに再構成した記事です。
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