【出席者】
八代目儀兵衛 取締役 CMO 神徳 昭裕氏
ポケモン マーケティング本部 本部長 常務執行役員 大洞 翔一氏
ライオン ヘルス&ホームケア事業本部 ファブリックケア事業部 部長 横手 弘宣氏
タッチポイントの設定、競合との差別化…企業が直面する課題
9月19日、「CMO X」の33回目となる研究会が開催された。10年にわたり企業マーケティングを統括するキーパーソンが知見を共有し、日本で活躍するマーケターの集合知を形成することを目指してきた取り組みには、今回八代目儀兵衛、ポケモン、ライオンが参加した。本会は各社CMOの自己紹介と企業概要の紹介から始まった。
八代目儀兵衛の神徳氏は、江戸時代に京都で創業した米屋としてのルーツにもとづく強みにふれた。長年培ってきた米の目利きを活かし、ソリューション事業として米飯商品や炊飯器開発のコンサルティングに力を入れている現状を紹介した。
ビデオゲーム発祥の「ポケモン」は現在、位置情報ゲームアプリ『ポケモン GO』が世代や国境を超えて支持されている。大洞氏は、その背景に「ポケモンの原点はビデオゲームであるが、デジタルコンテンツの中で完結せず、現実世界と繋がり、コミュニケーションが創出されることが拡がった理由のひとつ」という考えがあると説明した。
ライオンはオーラルケア・ハンドソープや手指消毒液の一般消費財メーカーとして知られている。今後、売上高に占める海外比率の上昇に向けた事業展開を行っている全社方針が横手氏から示された。
続いて、本研究会はカスタマジャニーマップとUSP(体験価値)の説明へと移った。ポケモンは原作となるビデオゲームから始まり、アニメ、カードゲーム、グッズなどでファンの裾野を広げ、ここ数年はSNS, Webコンテンツ、アプリゲームといったデジタルツールの台頭により多様なユーザーに親しまれるコンテンツに成長した。
2023年7月にリリースした睡眠データを使ったゲームアプリ『Pokémon Sleep』は、「生活に寄り添えるようなコンテンツとしてユーザーの裾野を広げてくれるポテンシャルがあると考えている。他の実施コンテンツにも共通しているが、最終的には本流のゲーム利用に結び付くことを想定している」と大洞氏は話した。
ライオンの一般消費財の購入経路は、広告やユーザー間の口コミが起点になっている。実店舗が売上の多くを占めるなかで、ECサイトの強化策としてD2C事業にも注力しており、オーラルケア商品の特長を歯科医師が紹介するなど、新たな流入ルートの開拓に取り組んでいることが横手氏から紹介された。
また、競合がひしめく一般消費財市場における差別化も重要だと話し、「歯みがきを例にすると、ライオンの歯みがきでも競合の歯みがきでも、一般生活者の認知構造からすると一緒のもの。そこでここ数年、『ライオンの歯みがき粉っておいしい』『天然ミントの配合量が一番多い』といったファクトを様々なメディアでは訴求している」と考えを示した。
八代目儀兵衛は一般消費者向の付加価値の高い商品販売を推進できるようタッチポイントを強化している。京都・祇園と東京・銀座に展開する直営の米料亭がその代表であり、2023年3月からはセブン-イレブンのお米全体の監修プロジェクトを開始。米のプロフェッショルが手掛ける米飯商品のおいしさを体験してもらい、自社の一般消費者向け商品の購入につながることを見込んでいる。「当社全体の売上において一般消費者向けの米商品は1割にすぎない。多岐にわたる体験機会を設定することで購入者の母数を増やし、歴史ある米屋を発展させたいと思っている」(神徳氏)
異業種のCMOからの提言が、課題解決の糸口になる
本研究会の後半には企業の課題を共有した。原材料費や物流費の高騰など利益を圧迫する状況下において、苦境をはねのける施策は必要であり、参加者たちはそのヒントをセッションから導き出そうとした。
八代目儀兵衛が抱える“米離れ”の課題には、横手氏が『米文化を守る』という大義を打ち出す企業姿勢の構築を提案した。施策以前に基礎を見直すという提案に神徳氏も同調し、「スターバックスの登場により、日本のコーヒー文化はここ20年で大きく変わった。私たちも米の見方や価値観を変える真っ最中で、米に関心を持ってもらえるようこれから様々な仕掛けを展開していきたい」と答えた。
横手氏がライオンの課題として挙げた競合との差別化について、CMOの立場から解説したのは大洞氏だった。競合も絶え間なく広告戦略を実施するなかで特長を認知させることの難しさに理解を示し、打開策としてオリジナルブランドで柔軟剤を開発できる技術力に特化した大型PR戦略を提案した。
加えて、カスタマージャーニーの新たなタッチポイントとして企業に小型洗濯機を設置するアイデアを披露。オフィスシーンにおける従業員の洗濯ニーズを満たしつつライオン商品の特長を体感できる施策案に、横手氏は「日本では非効率とされる戦略を、海外市場でスモールマスで運用し日本市場に逆輸入する取り組みにチャレンジをしたいと思っていたところ。大洞さんのアイデアはとても参考になる」と感想を述べた。
3時間に及ぶ議論のなかで、企業それぞれの課題解決案が生まれ、進むべき方向が明瞭になった本研究会。その過程を見届けた「CMO X」Founderの加藤希尊氏は、「マーケターは孤独と言われている。常に市場や社内の動向に目を光らせ、マーケティング戦略を実施するために上層部を説得しなければならない大変な仕事。本研究会のように同じ目線でマーケティング戦略について話し合える機会は少ないのではないか。マーケティングの力を結集することで、ビジネスの在り方、日本の経済を絶対に変えられると信じているので、今後もぜひ一緒に取り組んでいただければ」と抱負を伝えて本研究会を締めた。