小売業という業態は常に変化をする「生き物」です
メーカーの皆さんが小売業へのアプローチ方法を考える上で、まず知らなければならないこと。それは、業態の変化を知ることです。皆さんは日頃、小売業の業態や業種について意識をされることがあるでしょうか?店舗は同じ種類の商品やサービスを扱っていても、ビジネスのやり方が異なり、それは「生き物」のように絶えず変化しています。今回は、そうしたメーカーの皆さんが知っておきたい「業態」のあり方や「お客さまの違い」テーマに解説します。
そもそも業態とは、営業形態の違いを基準として分類することで「商品をどのように売るか?」で分けられたものです。例えば、スーパーマーケットやドラッグストアやコンビニエンスストアなどが「業態」になり、青果店や精肉店は「業種」になります。メーカーが小売業へ提案を行う上でも、これらの業態がどのような課題を持ち、どのような傾向にあるかを知っておかなければなりません。そうでないとあなたの提案は、小売業から表層的だと評価されてしまうのです。
小売業の状況について、大きな変化の要因となったのがやはりコロナの存在です。例えばスーパーマーケット。細かくはGMS(総合スーパー)やSM(スーパーマーケット)、ディスカウントストアなどに分けられますが、コロナ禍以前では客離れが進んで衣料品や生活用品の売上の不振から瀕死の状態にありました。しかし、コロナ禍によって内食需要が高まり、小売業を取り巻く環境が一変。これが「神風」となり、それまでの状態から小売業を救う結果になりました。
さらに、今、「アフターコロナ」や「withコロナ」と呼ばれる時代においては、生活者の自炊や自宅近くのお店での買い物が増えるなど「小商圏化」という傾向が見られています。こうした背景のもと、店舗では品揃えや売り場のレイアウトの見直しや新しいサービスの導入、そしてECとの連動にも力を入れるようになっています。
私は、小売業の変化を捉えるうえで、「小商圏化」はひとつのキーワードになると考えています。では次の章で、この「小商圏化」によってメーカー企業が小売業への商談時に、どのようなことを意識すればよいのかを解説します。
「小商圏化」によりメーカーが営業活動で気をつけること
小売業が日々の業務の中でもっとも優先させる取り組み。それは、店舗を利用してくれるお客さまや、今後そうした可能性を持つお客さまの獲得です。
ここで、メーカーの皆さまに注目してほしいのは、この「お客さま」という存在。小売業の言う「お客さま」とは先述のとおり、店舗の利用者や今後店舗を利用するであろう潜在層を指します。一方、メーカーの場合は、あくまで自社の商品を選んで、その商品を購入してくれる人のことを「お客さま」と呼んでいるのではないでしょうか。つまり、両者にとって最も大事すべき「お客さま」という存在においても、小売業とメーカーとの視点の違いが生じているのです。小売業にとってみれば、メーカーの言う「お客さま」は、小売業にとってのドンピシャな「お客さま」ではないと言えます。
先ほどの「小商圏化」も、もちろん「お客さま」の存在が大きく関係しています。「小商圏化」とは先述したように、お買い物をするお客さまが自宅からの距離の近い店舗を選ぶ傾向を示します。文字通り、店舗の商圏が狭くなっているということですね。一方でコンビニエンスストアにおいては、自宅から近い店舗の利用を減らす現象にあります。これは従来、コンビニエンスストアを利用されていた人が、同じ商品でも販売価格がより安いスーパーマーケットやディスカウントストアなどの店舗を利用すること増えたことを意味します。こうした背景の中で、メーカーの営業担当者は何に注目して、小売業にどんな行動や提案を行えるでしょう。皆さんが「小商圏化」と言う課題を捉えて小売業に取り組む立場ならどのように考えるでしょうか?
まず、考えてほしいのは小売業の「利益」についてです。コロナ禍以降、物価の高騰が続いて小売業で扱われる食品・飲料や生活用品も軒並み値上げをしていますよね。しかしスーパーマーケット全体のこの半年間の売上高を見ると、前年から微増とやや売上を伸ばしているものの、利益である粗利はほとんど増えていません。つまり商品の値上げ分だけが売上高のかさを上げている状態なのです。また、水道光熱費や運搬に掛かるコストや人件費も、小売業の利益を圧迫する大きな要因になっています。元々利益率の低いスーパーマーケットにとっては、これは非常に大きな痛手になっているのです。
そこで、メーカーの営業担当者が行えるのは「店舗の商圏内のお客さまがどのような層かを分析して、現在伸びているカテゴリーと売り場に並ぶ商品が合っているのかを見直す」ことです。担当する店舗の商圏の顧客層と、自社商品のターゲットが当てはまるようであれば、商機(提案)につなげられる可能性を持ちます。そんなこと当たり前だと思われるかもしれませんが、自分が「自社の商品やサービスを売る」ことに集中しすぎて、「売り場を知る」ことをしないまま提案する営業担当者は多いです。
商圏にいる顧客と商品のターゲットが合致した最近のユニークな例として挙げられるのは、「お茶漬けの素」や「ハードキャンディ」です。猛暑や酷暑の中で売上を伸ばしました。連日35度近い猛暑日が続く中で、冷たいお茶漬け(の素)や塩分補給のハードキャンディが売れることは想像のしやすい現象と思います。しかし、普段あまり外出しない在宅ワーカーが多い商圏であれば、もしかしたら「塩分補給ハードキャンディ」は売れなかったかもしれませんよね。その店舗の多くの利用者に需要があったから、売れたのです。
ここまでの話でメーカー企業の皆さんに知ってほしいのは、自分たちのお客さまだけではなくて、小売業、とりわけ担当店舗を利用するお客さまがどんな人かを捉える必要性の大きさです。店舗の商圏にどのようなお客さまがいて、自社の商品の販売につながる可能性を持つ「仮説」や「ストーリー」がつくれれば、小売業のバイヤーや担当者との商談で商品の取り扱いを後押しする大きな材料になります。小売業のバイヤーに気づきを与えられるメーカーの営業担当者は、それ自体が商談における強みになります。まさに、「小売りを知れば、メーカーは変わる」。この連載のタイトルに帰結するのです。
次回は、メーカー企業・小売業それぞれの「視座」についてテーマに解説します。
リテイルインサイト 代表取締役
倉林武也氏
2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。