「アドタイ・デイズ2023秋」では、テーマを「Invisible→Visible」と設定。メディア投資の効果、テレデジ融合の最適な投資配分、さらには前例通りが通用しない時代のマーケティングの勝ち筋まで、「見えない」を可視化する新たな挑戦をする方々が、自らの取り組みを解説した。本記事では、「アドタイ・デイズ2023秋」の中でも、注目のセッションをレポートする。
Indeed Japanマーケティング本部シニアディレクターの田尻祥一氏からは、「MMMの実際 – マーケティング戦略の“羅針盤“としての効果的な活用事例」と題し、MMMをいかに活用し、その投資効率の改善を図っているか取り組みが紹介された。
Indeedが、抱えていたマーケティング上の課題
本日は①Indeedのマーケティングの課題、②その課題に対して当社はどのような戦略を持って臨んでいるのか、③その戦略の中にメディアミックスモデリングをどのように位置付けて、どのように活用しているのか、④今後いかなる発展を目指していくのか、の4点についてお話しできればと思います。
Indeedは世の中にある膨大な求人情報をクローリング技術によって集めて掲載しており、求職者の方々と採用企業様それぞれが、仕事探しと人材探しに使っていただくというサービスを提供しています。
企業ミッションとして「We help people get jobs.(ウィー・ヘルプ・ピープル・ゲット・ジョブズ)」を掲げており、多くの人々に仕事を見つけていただいて、その仕事を通して充実した人生を送っていただきたい。そのお手伝いをしていきたいと思っています。
Indeedは2004年にアメリカのテキサス州で設立され、日本法人は10年前に立ち上がりました。当初は今のように、莫大なテレビ広告への投資等は行っておりませんでした。しかし認知度を高めるため、多くのテレビ広告への先行投資を実行し、事業の成長を実現してきました。
ところがそういった過程の中、「伸びしろを探す」という新たな課題が出てきました。
上の表(※グラフはイメージで実際とは異なります)の左側は「求職者の仕事探しにおけるIndeedの利用意向」ですが、どちらかというと非正規雇用を望む方の方が「Indeedを使いたい」と答えていただいていて、正規雇用を望む方が「Indeedが名前としては思い浮かんでこない」状況が明らかになりました。
一方で、「採用する側にとってIndeedをどう捉えるか」という図が右側になりますが、どちらかというと、正規の雇用採用向けのサービスと認知されていることがわかりました。
そこで、求職者にとってのIndeedのイメージを変えることが、すなわち当社のビジネスの伸びしろになるのではないかと考え、現在取り組みを進めています。
課題に対して、Indeedはどのような戦略を持って臨んでいるのか?
具体的には3つの改革を実施しています。①ターゲット顧客の定義とインサイトの深堀り、②ブランド再定義とクリエイティブの刷新、③メディアミックスの見直しの3つです。
〈ターゲット顧客の定義とインサイトの深堀り〉
当社は「We help people get jobs.」というミッションを掲げ、全ての人々のより良い仕事探しをお手伝いしたいと思っています。「全ての方に対して」というアプローチになりがちですが、マーケティングの観点から考えると、ある程度の濃淡付けを考える必要が生まれてきます。
加えて、外部環境としては、長年日本において続いてきた終身雇用制度が、現在大きく変わってきています。自分のキャリアを自ら考えて作っていくことが求められている、そんな世の中です。また、生き方、働き方に関する考え方も非常に細分化してきています。
このように細分化されたマーケットに対して、Indeedとしてどのようなことをやるべきなのか、日々模索しているところです。
〈ブランドの再定義〉
かつては「簡単に仕事がみつかります」というメッセージを中心にお伝えしてきました。しかし現在は、膨大な求人情報がある中でも、「新しい可能性に出会える場である」と、ブランドを再定義しました。
〈メディアミックスの見直し〉
Indeedは非常に多くの予算をテレビCMに投下してきました。ところが、昨今はテレビだけではなくて、デジタルやソーシャルメディアが加わっています。各メディアへ投下する金額の配分がいくらであるべきなのか、科学的な観点を導入することにより、精度を上げていく、そういう取り組みをやっていこうとしています。
戦略の中にMMMをど位置づけるべきか?
次に本日の主題である「MMMメディアミックスモデルの実際」について、メディアミックスモデルをいかに戦略の羅針盤として活用しているのか、実際の事例を交えながらお話させていただければと思います。
メディアプランニングの方法は多様にありますが、Indeedの場合はブランド投資と言われる認知系と、リスティング広告などのいわゆる獲得系の2つに分けてKPIを管理していました。しかし、見ている指標が違うため、最適な配分がいくらであるべきか、そういったところが見えない状況に陥っていました。
ここをいかに変えていくのか、というのが今回ご紹介する取り組みです。
実施している取り組みの1つ目が「過去のデータの整備」です。
2つ目が「モデルの選定」です。Indeedには多くのエンジニアが在籍していますが、1つ論点になったのは、「外部のベンダーを使うのがいいのか、自前で構築したモデルを使うべきなのか」です。
結果的にIndeedでは内製化をすることにしました。内製化も外部に依頼する事も、両方にメリット、デメリットがあります。ひとつ、肝心なポイントは、いずれのオプションを選択する場合も、広告代理店、あるいは自社のメディアバイイングの担当者などといかにコミュニケーションしていくことができるのか。また、そういう体制を作れるのかだと考えています。
さらに、いざ構築したモデルを活用しようとしたときに、またひとつ論点が出てきました。目的変数や独立変数に何をどこまで含めるかによって、モデルの方向性が変わるため要件定義が必要になることが分かったのです。
Indeedの場合は幸いにして、シンプルな売上に対する直接的な効果を見ていく、そういった構造を取ることができます。ただ、ここは絶対の正解はありませんので、皆さんの各社のビジネスのモデルがどういった形態になっているのか、そういったところを議論した上で決定していくのがよいと思います。
次にメディアミックスモデリングを回していった結果、我々としてどのような示唆が得られたのか、こちらにてご説明させていただきます。
まずひとつは、SEMに対する投資が過剰になっていることがわかりました。
もうひとつは、上の図で色塗りをしてある青いグラフがMMM(メディア・ミックス・モデリング)で最適化した後の結果なのですが、もともとのモデルより突き抜けることがあるのがわかります。そこがまだ投資が足りていない、逆に言えば投資をする余地があるということです。基本的に大きくSEMを削って再投資が必要である、つまりこれは従来やっていたチャネル以外にポテンシャルがある、そういう示唆が得られたことになります。
こういった結果を踏まえながら、次にまだ投資していないメディアに対して、いかにチャレンジをしていくのかという課題が出てきました。
これが必ずしも正解ではありません。1度実施して全く反応がなければ投資を止めていくという判断も出てきます。ある程度続けていくと今度は全体のメディアミックスモデルを評価することができるので、そこで改めて最終的な評価を行っていく。そのような取り組みと枠組みをベースにしながら、Indeedでは新しいチャレンジを行っています。
最後に今後、取り組むべき課題についてお話します。まずはノウハウを蓄積することと、そして人材の育成が重要だと考えています。
まずMMMの挙動の理解及び現実のメディア在庫とのバランス等の知見を貯めていきたいと思います。そして、マーケティング部門内及び代理店との連携を通して人材の育成にも力を入れていく計画です。
Indeed Japan マーケティング本部 シニアディレクター
田尻 祥一 氏
2004年にアクセンチュアに入社。国内外の様々な経営戦略・事業改革プロジェクトに従事。2009年にデル・テクノロジーズに入社。アジア太平洋地域における営業企画や日本法人経営企画室室長を歴任。2013年からマーケティング統括本部にて本部長としてB2B及びB2C向けマーケティングを統括。2022年から現職。